沖縄から-三上智恵の沖縄〈辺野古・高江〉撮影日記第54回

沖縄の地で、体を張って新しい歴史を作ろうとしている人たちがいる。
そこには、その煌めきの記録を残そうとしているジャーナリストがいる。
だとしたら、その生きざまの瞬間を私たちは受け取る必要がある。
三上知恵の沖縄撮影日記。


 
 今回の報告は、「『サンゴの産卵が始まりました』という便りは、いつも南から、石垣島からもたらされる。ああ、陸も海も、命の勢いが沸き上がってくるような南の島の夏が、今年もやってくる。初夏の知らせにはなぜか胸が高鳴る。5月になると南西の方からサンゴの産卵が始まって、だんだん北上して沖縄本島は1カ月後くらいに全盛期を迎える。1995年に沖縄の局に入ってから毎年、その撮影に関わってきた。」、と大浦湾でのサンゴの産卵の話から始まる。
 大浦湾のサンゴについて、次のように言葉を重ねる。


①「大浦湾という、ファンダイバーなど誰も来なかった東海岸の海が、ここまで生物多様性の宝庫だったということを、20年前の私たちは知らなかった。地域のダイバーさんや、琉球大学の学生さんが、地道に辺野古近辺の海洋生物について世に出していった1990年代。そこから、天然記念物のジュゴンやアオサンゴの大群落、数々の新種の生物などが発見され、世界的にも注目されるようになっていくのだが、長田さんの映像もずいぶんこの海の素晴らしさを伝えることに貢献してきたと思う。地元のおじさんたちとチームを組んで、ジュゴンの撮影に挑戦したのも楽しい思い出だ。しかし、2014年から私たちは『もう、今回で最後かな』と毎回つぶやきながら、覚悟をしつつ撮影した。しかしあれから2年経って、まだかろうじてこの海は守られている。」

②「長田カメラマンも、この夏を無事越えることができそうな大浦湾の生き物たちに、会いに行きたくなったのだろう。そして埋め立てを免れた海の息吹を多くの人に伝えたいと思ってくれていたのだと思うと、胸が熱くなった。予算繰りでうしろ向きになっていた自分が恥ずかしくなった。もし3月4日に『和解』という展開になっていなかったら、3月中には埋め立てが始まっていたのだ。さらなるトンブロックとクレーンを積んだ台船がもう海上に待機していたのだから。本当に埋められる寸前だった大浦の海。」

③「今回の動画は、工事が中止になったのに遅々として進まないフロートの撤去の様子を水中から撮影した5月の映像から始まる。2トンから40トンまで、すでに海に投入されたコンクリートの固まりは何百と言う数だ。今、オレンジ色のフロートだけはなくなったが、海の底に転がったトンブロックは引き上げていない。たくさんのサンゴを破壊して「岩礁破砕」に当たると県が正式にクレームをつけているブロックは、日陰を作り光合成するサンゴを殺してしまう。軽いものは台風で引きずられる。海に負荷をかけ続けている。
 その近くにあるユビエダハマサンゴやミドリイシの枝サンゴ、大きな塊のハマサンゴの仲間など、地形が起伏に飛んでいる大浦湾は、透明度こそ良くないものの、多種多様な種類が一堂に会している、まさにサンゴの博物館だ。この夏の新撮映像を長田さんの好意で紹介させてもらった。是非楽しんで欲しい。」


 また、「基地反対の人たちは大浦湾を埋めるなと言うのに、那覇空港の埋め立てに反対しない」、との批判については、次のように語る。


「ただ、今すぐ全部を守れないとしたら、優先順位はある。絶対に死守しなければならないのが『ホットスポット』と呼ばれる生物多様性に富んだポイント、つまりたくさんの種類がひしめき合う、命の濃い区域だ。ほかの地域に命を供給する力のある場所。そして大浦湾はまさに、沖縄を代表するような『ホットスポット』なのだ。
 およそ9割のサンゴが死滅してしまっている沖縄本島の中でも、東海岸は再生が遅い。西側のように遠浅でサンゴの生息に適している場所が少ないこともある。そして西側は、サンゴが消えてしまったところでも、慶良間諸島から流れ着くサンゴの卵たちのおかげで再生のチャンスがある。しかし東海岸で、サンゴの卵を大量に供給してくれるような場所は大浦湾のほかに、なかなかない。つまり、人にたとえると、手足を刺しても生きてはいけるけれど心臓を刺したら死んでしまうのと同じように、大浦湾を埋めるのは心臓を刺すようなものなのだ。那覇空港沖を守らないと反対運動を批判している人たちは、是非那覇空港沖のサンゴを守るために立ち上がって欲しい。そして本当にサンゴのことを理解し始めたら、なぜ私たちが大浦湾を必死になって守ろうとしているかわかってくれるはずだ。」


 最後に、三上さんは、言葉として、このように訴える。
 じっくり聞こう。


 山を削り  山を泣かせて
 海を削り  海を泣かせて
 基地を造り 島を泣かせて
 爆弾で   世界中の人を泣かせる

 そんなこと、やめませんか?

 サンゴは光合成で海水の二酸化炭素の濃度を調節してくれる
 海が酸化しないように守ってくれている
 人間がこんなに負荷をかけてもじっと浄化を続け
 耐え切れなくなったら
 何も言わずに消えていく

 海の息吹は 海の悲しみは
 あなたに届いていますか?


 
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『戦場ぬ止み』のその後――沖縄の基地問題を伝え続ける三上智恵監督が、年内の公開を目標に新作製作取り組んでいます。製作費確保のため、皆様のお力を貸してください。

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 以下、三上智恵の沖縄(辺野古・高江)撮影日記第54回の引用。








第54回海の息吹が聞えますか~大浦湾でサンゴが産卵~




 「サンゴの産卵が始まりました」という便りは、いつも南から、石垣島からもたらされる。ああ、陸も海も、命の勢いが沸き上がってくるような南の島の夏が、今年もやってくる。初夏の知らせにはなぜか胸が高鳴る。

 5月になると南西の方からサンゴの産卵が始まって、だんだん北上して沖縄本島は1カ月後くらいに全盛期を迎える。1995年に沖縄の局に入ってから毎年、その撮影に関わってきた。当初、サンゴの産卵は大潮に影響されて満月の日にするという定説を長い間信じていたが、気温や海況によって例外も多く、また時間帯も種類によってまちまちなので、とにかくポイントを定め、空振り覚悟で数日間、夕方から海に浸かって待つしかない。ニュース映像を見る人たちにとっては「あら、神秘的ね!」とお花が咲いた話題と変わらない感覚かも知れないが、撮影成功までは毎回人件費、ボート代など頭の痛い取材でもある。

 今年はとんでもない事件や自衛隊の問題に振り回され、離島や本土を飛び回っているうちに6月も後半になった。今年はサンゴの産卵と無縁だったな、と寂しく思っていたときに、20年来一緒に水中撮影取材を重ねてきた長田勇カメラマンから「ちえちゃん、大浦湾のサンゴの産卵、撮ろうよ」とメールが来た。「おっ」と思った。そうだ。もうフロートも撤去されて、あの穏やかな大浦湾の風景が戻ってきていたんだ。海保や作業の船もない。サンゴたちは安心して命の営みを謳歌できるだろう。今は県と国が仮にも和解して作業は「中止」になっている。堂々と水中撮影に入ってもいい海に戻っているんだった。

 「おっ」と思ったのは、長田カメラマンから提案してくれたことが嬉しかったからだ。今、次の作品を撮影中だが、展開が予想外で撮影項目は増えるわ、まとめ方の見通しは立たないわ、あれもこれも撮っていくと体力も予算も到底足りないわで、とても水中撮影までは無理という状況だ。長田カメラマンは古い付き合いだから、といつも破格で仕事を受けてくれるが、そうそう甘えるわけにも行かない。そんな甲斐性のないない私に「牧志船長に頼めたら、行こうか?」と言ってくれた。それは本当に嬉しい申し出だった。この10年、大浦湾を守る活動の中心になっている牧志治さんも、快く案内役を引き受けてくださった。

 大浦湾という、ファンダイバーなど誰も来なかった東海岸の海が、ここまで生物多様性の宝庫だったということを、20年前の私たちは知らなかった。地域のダイバーさんや、琉球大学の学生さんが、地道に辺野古近辺の海洋生物について世に出していった1990年代。そこから、天然記念物のジュゴンやアオサンゴの大群落、数々の新種の生物などが発見され、世界的にも注目されるようになっていくのだが、長田さんの映像もずいぶんこの海の素晴らしさを伝えることに貢献してきたと思う。地元のおじさんたちとチームを組んで、ジュゴンの撮影に挑戦したのも楽しい思い出だ。しかし、2014年から私たちは「もう、今回で最後かな」と毎回つぶやきながら、覚悟をしつつ撮影した。しかしあれから2年経って、まだかろうじてこの海は守られている。

 長田カメラマンも、この夏を無事越えることができそうな大浦湾の生き物たちに、会いに行きたくなったのだろう。そして埋め立てを免れた海の息吹を多くの人に伝えたいと思ってくれていたのだと思うと、胸が熱くなった。予算繰りでうしろ向きになっていた自分が恥ずかしくなった。もし3月4日に「和解」という展開になっていなかったら、3月中には埋め立てが始まっていたのだ。さらなるトンブロックとクレーンを積んだ台船がもう海上に待機していたのだから。本当に埋められる寸前だった大浦の海。

 今回の動画は、工事が中止になったのに遅々として進まないフロートの撤去の様子を水中から撮影した5月の映像から始まる。2トンから40トンまで、すでに海に投入されたコンクリートの固まりは何百と言う数だ。今、オレンジ色のフロートだけはなくなったが、海の底に転がったトンブロックは引き上げていない。たくさんのサンゴを破壊して「岩礁破砕」に当たると県が正式にクレームをつけているブロックは、日陰を作り光合成するサンゴを殺してしまう。軽いものは台風で引きずられる。海に負荷をかけ続けている。

 その近くにあるユビエダハマサンゴやミドリイシの枝サンゴ、大きな塊のハマサンゴの仲間など、地形が起伏に飛んでいる大浦湾は、透明度こそ良くないものの、多種多様な種類が一堂に会している、まさにサンゴの博物館だ。この夏の新撮映像を長田さんの好意で紹介させてもらった。是非楽しんで欲しい。

 「基地反対の人たちは大浦湾を埋めるなと言うのに、那覇空港の埋め立てに反対しない」と批判する人がいる。たしかに、地球環境の劣化が激しい中でも、サンゴ礁域の破壊は深刻な問題だ。地球の海の生物のおよそ3割が、海洋面積わずか0.2%しかないサンゴ礁の海に集中しているのだ。この10年、国際研究機関や学者たちが次々にサンゴの全滅の可能性を指摘している。このまま温暖化や汚染が進めば、2050年を待たずにサンゴ礁は消える。そうなるとドミノ式に生態系が崩れて海の資源を食料にすることができなくなり、東南アジアを中心に5億人が生きられなくなるという説もある。サンゴの海はどこだって、守らないと間に合わないのは事実だ。

 ただ、今すぐ全部を守れないとしたら、優先順位はある。絶対に死守しなければならないのが「ホットスポット」と呼ばれる生物多様性に富んだポイント、つまりたくさんの種類がひしめき合う、命の濃い区域だ。ほかの地域に命を供給する力のある場所。そして大浦湾はまさに、沖縄を代表するような「ホットスポット」なのだ。

 およそ9割のサンゴが死滅してしまっている沖縄本島の中でも、東海岸は再生が遅い。西側のように遠浅でサンゴの生息に適している場所が少ないこともある。そして西側は、サンゴが消えてしまったところでも、慶良間諸島から流れ着くサンゴの卵たちのおかげで再生のチャンスがある。しかし東海岸で、サンゴの卵を大量に供給してくれるような場所は大浦湾のほかに、なかなかない。つまり、人にたとえると、手足を刺しても生きてはいけるけれど心臓を刺したら死んでしまうのと同じように、大浦湾を埋めるのは心臓を刺すようなものなのだ。那覇空港沖を守らないと反対運動を批判している人たちは、是非那覇空港沖のサンゴを守るために立ち上がって欲しい。そして本当にサンゴのことを理解し始めたら、なぜ私たちが大浦湾を必死になって守ろうとしているかわかってくれるはずだ。

 山を削り  山を泣かせて
 海を削り  海を泣かせて
 基地を造り 島を泣かせて
 爆弾で   世界中の人を泣かせる

 そんなこと、やめませんか?

 サンゴは光合成で海水の二酸化炭素の濃度を調節してくれる
 海が酸化しないように守ってくれている
 人間がこんなに負荷をかけてもじっと浄化を続け
 耐え切れなくなったら
 何も言わずに消えていく

 海の息吹は 海の悲しみは
 あなたに届いていますか?


三上智恵
三上智恵(みかみ・ちえ): ジャーナリスト、映画監督/東京生まれ。大学卒業後の1987年、毎日放送にアナウンサーとして入社。95年、琉球朝日放送(QAB)の開局と共に沖縄に移り住む。夕方のローカルワイドニュース「ステーションQ」のメインキャスターを務めながら、「海にすわる〜沖縄・辺野古 反基地600日の闘い」「1945〜島は戦場だった オキナワ365日」「英霊か犬死か〜沖縄から問う靖国裁判」など多数の番組を制作。2010年には、女性放送者懇談会 放送ウーマン賞を受賞。初監督映画『標的の村~国に訴えられた沖縄・高江の住民たち~』は、ギャラクシー賞テレビ部門優秀賞、キネマ旬報文化映画部門1位、山形国際ドキュメンタリー映画祭監督協会賞・市民賞ダブル受賞など17の賞を獲得。現在も全国での自主上映会が続く。15年には辺野古新基地建設に反対する人々の闘いを追った映画『戦場ぬ止み』を公開。ジャーナリスト、映画監督として活動するほか、沖縄国際大学で非常勤講師として沖縄民俗学を講じる。『戦場ぬ止み 辺野古・高江からの祈り』(大月書店)を上梓。
(プロフィール写真/吉崎貴幸)


by asyagi-df-2014 | 2016-07-08 05:46 | 沖縄から | Comments(0)

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