2016年3月29日0時。戦争法(安全保障関連法)が施行された。

 2016年3月29日0時、戦争法(安全補償関連法)-「歴代政権が憲法9条の下で禁じてきた集団的自衛権の行使を可能にし、他国軍の後方支援など自衛隊の活動を飛躍的に拡大させる安全保障関連法」(沖縄タイムス)-が、施行された。
 この問題を、各紙の社説・論説で考える。
 各紙の見出しは次のものである。


【3月28日】
(1)山陰中央新報論説-安保法施行へ/国民の理解が不可欠だ
(2)高知新聞社説-【安保法施行】「粛々と」では済まない
(3)西日本新聞社説-安保法施行 転換の是非問い続けよう
【3月29日】
(4)朝日新聞社説-安全保障法制の施行 「違憲」の法制、正す論戦を
(5)毎日新聞社説-安保法施行 思考停止せずに議論を
(6)東京新聞社説-安保関連法施行 「無言館」からの警鐘
(7)読売新聞-安保関連法施行 迅速な危機対処へ適切運用を
(8)北海道新聞社説- 安保関連法施行 重大な懸念は変わらない
(9)東奥日報社説-幅広い理解得られるか/安保法施行
(10)岩手日報論説-安保法施行 違憲の疑い晴れぬまま
(11)信濃毎日新聞社説-安保をただす 関連法施行 9条改憲の一里塚の懸念
(12)神戸新聞社説-安保法施行/「理解を得た」とは言い難い
(13)愛媛新聞社説-安保法施行 忘れず諦めず「ノー」を誓う日に
(14)宮崎日日新聞-安保法施行
(15)南日本新聞社説-[新安保政策・安保関連法施行] 「崇高な痩せ我慢」をやめていいのか
(16)沖縄タイムス社説-[安保法施行]違憲の疑い放置するな


 こうした社説等の見出しから伺えるのは、第一に、「違憲の疑い晴れぬまま『粛々と』では済まないために、思考停止せずに議論を行い、国民の理解を不可欠とする」、ということになる。
 この上で、忘れず諦めず「ノー」と言い続ける。何故なら、戦争法は9条改憲の一里塚だからである。
 もちろん、相変わらず読売新聞の「『違憲』批判は的外れだ」との突出ぶりは際立っている。


 最後に、毎日新聞は、無言館から鳴らす警鐘として、無言館館主の窪島誠一郎さん(74)の声を伝えて、この問題への主張とした。


「日本は一センチでも戦争に近寄ってはいけない国だ。角を曲がって戦争の臭いがしたら、戻ってこなければいけない。このままほっておけば『無言館』がもう一つ増える時代がやってくる」。


 この言葉を深く自覚したい。


 以下、各紙の社説・論説等の引用。(また、長文です)







(1)山陰中央新報論説-安保法施行へ/国民の理解が不可欠だ-2016年3月28日


 歴代政権が憲法違反として禁じてきた集団的自衛権の行使を解禁するなど、自衛隊の活動を大幅に広げる安全保障関連法が29日に施行される。昨年9月の法成立から半年。日本の安全保障政策は運用面で大きな転換点を迎えた。

 安倍晋三首相は「わが国の平和と安全を一層確かなものにする」と法制の意義を強調する。だが戦争放棄を定めた憲法9条の下で武力行使を封じてきた自衛隊の活動は今後、大きく変容する。

 北朝鮮の核・ミサイル開発や中国の海洋進出など日本を取り巻く安全保障環境の厳しさが指摘される。しかし安保法に基づく新たな活動がこうした環境の変化への対応策として有効で妥当なのか。民主国家の安保政策には国民の幅広い理解と支持が不可欠だ。平和を掲げて戦後を歩んできた日本の安全保障政策と、国際的な貢献策をあらためて議論したい。

 安保法の国会審議では、憲法学者らが「違憲」との見解を示し、法制に反対する市民団体などは廃止を求める集会やデモを今も続けている。弁護士グループらによる集団提訴の動きもある。

 安倍政権は閣議決定による憲法解釈の変更で集団的自衛権の行使を容認した。憲法は国家権力を縛るとする「立憲主義」に反すると野党は批判。民主党など野党5党は安保法の廃止法案を衆院に共同で提出。民主党と維新の党などの合流による新党「民進党」は「立憲主義の堅持」を綱領に掲げる。違憲論議の決着はついておらず、安保法は不安定な基盤の上にあると言わざるを得ない。

 施行により自衛隊の活動はさまざまな分野で拡大する。他国への攻撃が日本の「存立危機事態」に当たると判断すれば集団的自衛権が発動される場合が出てくる。他国軍への後方支援も随時行えるようになり、国連平和維持活動(PKO)では、襲われた国連職員や非政府組織(NGO)関係者を救出する「駆け付け警護」が可能となる。自衛隊の任務がより危険なものになるのは否定できない。

 ただ安倍政権は当面、自衛隊に対する新たな任務の指示は見送る方針だ。中谷元・防衛相は「自衛隊員の安全を確保しつつ、適切に新たな任務を遂行できるよう準備に万全を期す」と説明する。今夏の参院選で安保法が争点になるのを避けたいのだろう。

 しかし選挙までは具体的な活動の説明を控え、選挙が終われば危険な任務に着手するというのは、国民に対して不誠実ではないか。菅義偉官房長官は「さらに国民に理解してもらえるよう広く訴えていく」と述べたが、政権政策の是非が問われる選挙で、想定する自衛隊の活動をきちんと国民に説明すべきだ。

 安保法の妥当性もあらためて考えたい。首相は「法制によって日米同盟関係は一層強固になり、抑止力が向上した」と述べた。念頭には北朝鮮対応での日米間の情報共有化などがあると思われる。だが安保法成立後も北朝鮮の行動は深刻化しており、抑止効果には疑問符がつく。

 日米の一体化が進めば、米国の軍事行動に巻き込まれる懸念は増す。海外での自衛隊活動の拡大によって日本がテロの対象となる恐れは増えないか。さまざまな事態を想定し、冷静な議論を進めたい。


(2)高知新聞社説-【安保法施行】「粛々と」では済まない-2016年03月28日


 歴代政権が禁じてきた集団的自衛権の行使を可能にする安全保障関連法が、あす施行される。
 米国など「密接な関係にある他国」に対する武力攻撃が発生した場合、政府が「存立危機事態」と認定すれば集団的自衛権を行使できる。自衛隊の任務や活動範囲は飛躍的に拡大する。
 憲法に支えられた平和主義、自衛隊の専守防衛の原則など、戦後の安保政策は大きく転換する。安倍内閣は安保法を昨年9月、強行採決して成立させた。
 しかし法が成立しても、粛々と施行とはならない。
 そもそもこの安保法は、憲法違反ではないか。自衛隊の活動拡大に伴い、隊員のリスクが増大するのではないか。それらの疑問に対する政府の答えは、曖昧で判然としないまま自民、公明の巨大与党は審議を強引に打ち切った。
 法成立を受けた共同通信の世論調査では、「国会での審議が尽くされたとは思わない」との回答が8割近くを占めた。まだまだ議論すべきことがたくさん残されている。
 民主党と維新の党がきのう結成した民進党や共産、社民などの野党は、この国会に安保法の廃止法案を共同で提出している。まさに現在進行形の問題だ。
 日本が直接攻撃されていなくても、自国への攻撃と見なして実力で阻止する集団的自衛権の行使を歴代政権は長く禁じてきた。内閣法制局が憲法9条により「行使できない」との立場を堅持してきたからだ。
 ところが安倍内閣は一昨年7月、「行使できる」と閣議決定した。憲法の条文は一字一句変えず、解釈を正反対に変更してできた法案は、多くの憲法学者ら専門家から「違憲」と指摘された。
 時の政権次第で憲法解釈が変われば、政治権力を憲法が縛る立憲主義、さらには法治主義が大きく揺らぐ。違憲論は今も根強く、安保法は異例ともいえる状況で施行される。
 法施行で深刻なのは、どのような危機的な事態に対応する法律なのか、いまだに明確でないことだ。政府の説明は次々と変わり、最後には自らが「総合的に判断する」というしかなかった。
 自衛隊の海外での武力行使に道を開く法律なのに、その要件は定義が曖昧で分かりにくい。憲法解釈を変更した内閣法制局の横畠裕介長官は審議の過程で、核兵器の保有、運搬、使用まで憲法上は可能との見解を示している。武力行使の歯止めはどこにあるのか。
 安保法が施行されれば、法律上は直ちに自衛隊に新たな任務を付与できるが、政府は当面、見送る方針だという。準備に万全を期すためと説明するが、それではなぜ法成立を急いだのか。
 安保法は夏の参院選でも重要な争点の一つになる。有権者も議論に耳を傾け、選択の時に備えたい。日本は正しい方向に向かっているのか。判断するのは主権者たる国民だ。


(3)西日本新聞社説-安保法施行 転換の是非問い続けよう-2016年03月28日


 昨年9月に成立した安全保障関連法が、29日から施行される。

 この法律は歴代の政権が禁じてきた集団的自衛権の行使を可能にし、自衛隊の海外での任務を大幅に拡大する。法施行はまさに、戦後日本の安全保障政策を大きく転換させることになる。

 しかし、この法律がそもそも憲法違反ではないかという疑いは、法成立から半年たっても全く晴れていない。政策としての有効性にも疑問符がついたままだ。

 憲法学者の多数が「違憲」と指摘するような法律に基づいて、国の命運に関わる安全保障政策を進めていいのか。国民の総意を得ていない法律によって、自衛隊を危険な任務に就かせていいのか。

 こうした問いに、安倍晋三政権は正面から答えようとしていない。安保法は施行の段階に入ったが、むしろこれからが安全保障をめぐる論議の正念場である。
 ▼「普通の軍」に変容
 今回施行される安全保障関連法は、集団的自衛権の行使を視野に、平時から有事までさまざまな局面で自衛隊と米軍の運用を一体化させるのが特徴だ。それに加え、国連平和維持活動(PKO)に参加する自衛隊の活動についても、できる任務を増やしている。

 安保法の具体化にどこから着手するか。安倍首相は今国会で、アフリカ・南スーダンのPKOに従事する陸上自衛隊への新たな任務の付与に言及した。新任務は「駆け付け警護」だとみられる。

 駆け付け警護とは、離れた場所で武装集団に襲われるなど、危険にさらされた非政府組織(NGO)や他国のPKO部隊などを自衛隊が駆け付けて保護する活動だ。武装集団と衝突すれば武器を使用することになる可能性が高い。

 自衛隊は発足以来、海外で1人も殺しておらず、1人も殺されていない。世界でもまれな「平和的な武力組織」である。駆け付け警護で犠牲者が出れば、自衛隊はその時「殺し殺される普通の軍隊」に変貌することになる。国民はそれを許容しているのだろうか。

 安保法制施行でこれほど重大な事態が予想されるというのに、安倍政権がやっているのは徹底的な「安保隠し」である。
 ▼争点隠し図る政権
 昨年の通常国会で大混乱の中、安保法制が成立した後、野党は安保論議を続けようと、憲法に基づいて臨時国会召集を要求した。これを安倍政権は無視した。

 今国会でも、野党が合同で安保法制廃止法案を提出したのに対し、与党側は審議を始めようとはせず、法案はたなざらしのままだ。駆け付け警護など安保法制施行に伴って付与される自衛隊の新任務についても、今秋以降に先送りする方針だという。

 安倍政権が気にするのは、今夏に予定される参院選だ。昨年秋の法成立時には反対する市民が国会に押し寄せ、政権支持率も低下した。その再現を恐れ、政権は参院選で安保法問題が争点となるのを避けようとしている。

 安倍首相は前回衆院選で、消費税増税問題を争点に掲げて選挙を戦っておきながら、勝利すると安保法制の改定にまで信任を得たかのように解釈してみせた。参院選でも同じパターンを狙っているとすれば、姑息(こそく)というほかはない。
 ▼参院選で意思示せ
 安保法に反対する活動は続いている。19日にも同法廃止を訴える集会やデモが各地で行われた。東京・日比谷公園では小雨の中、野外音楽堂にあふれる参加者に向かって、壇上の弁護士や子育て世代の代表らが「市民も野党もまとまろう」と呼びかけた。

 反対する市民らも参院選を見据えている。政権とは逆に、安保法を選挙の最大の争点にし、反対の世論を盛り上げることで、法の具体的運用に歯止めをかけようという戦略だ。民進党や共産党など野党も市民の期待に応え、各選挙区での候補一本化を進める。

 参院選で「安保法を問い直す」ための環境は整ってきている。

 安保法は民意をきちんと問うことなく成立した。有権者は一度明確に安保法への意思表示をする必要がある。参院選をその舞台としたい。そうしなければまた、政権に都合よく解釈されかねない。

 施行後でも遅くない。疑問や不安があるのなら声を上げ続けよう。「まだ納得していない」と。

(4)朝日新聞社説-安全保障法制の施行 「違憲」の法制、正す論戦を-2016年3月29日


 新たな安全保障法制がきょう施行された。

 昨年9月、多くの市民の不安と反対、そして憲法専門家らの「違憲」批判を押し切って安倍政権が強行成立させた法制が、効力を持つことになる。

 11本の法案を2本にまとめた法制には、憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使容認、米軍など他国軍への兵站(へいたん)(後方支援)、国連平和維持活動(PKO)の任務拡大など、幅広い自衛隊の海外活動が含まれる。

 安倍政権はこれだけ広範な法制を、わずか1会期の国会審議で成立させた。背景に、首相自身が昨年4月に訪米中の議会演説で「(法案を)夏までに成就させる」と約束した対米公約があった、との見方が強い。

 法制の成立後、首相は「これから粘り強く説明を行っていきたい」と語ったが、実行されていない。その後の国会審議も十分とは到底言えない。
 ■投網をかけるように
 憲法が権力を縛る立憲主義の危機である。この異常事態を放置することはできない。

 幅広い国民の合意を欠く「違憲」法制は正さねばならない。法制の中身を仕分けし、少なくとも違憲の部分は廃止する必要がある。国会、とりわけ野党が果たすべき役割は大きい。

 安倍政権は、集団的自衛権の行使容認は限定的で、だから合憲だと説明してきた。

 一方で、政府の裁量をできるだけ広く残そうと、「限定」の幅についてあいまいな国会答弁を繰り返してきた。時の政権の判断で、いかようにも解釈できる余地が残されている。

 集団的自衛権を容認した眼目は、中国にいかに対抗し、抑止力を高めるかにある。

 米軍をアジア太平洋地域に引き留め、そのパワーが相対的に低下しつつある分は、自衛隊の強化や地域諸国との連携によって補う。そんな考え方だ。

 米軍との共同行動に支障を来さないよう、投網をかけるように幅広く、海外で自衛隊が動けるようにしておく。有事だけでなく平時から米軍など他国軍との共同訓練や情報共有、装備面での連携が進むことになる。
 ■9条を対話の基盤に
 問題は、そのために自衛隊の海外活動に一定の歯止めをかけてきた「9条の縛り」を緩めてしまったことだ。

 2月末、アーミテージ元国務副長官ら日米の有識者らによる日米安全保障研究会が「2030年までの日米同盟」という報告書をまとめた。

 日米の対中戦略の共有が不可欠だと強調し、「十分な予算に支えられた軍事力」「アジアやより広い地域で日米の政策、行動を可能ならば統合する」ことを日本に求めた。防衛予算の拡大をはじめ、あらゆる面で日米の一体化をめざす方向だ。

 だが、中国との関係に限らず、米国の利益と日本の利益は必ずしも一致しない。

 時に誤った戦争に踏み込む米国の強い要請を断れるのか。集団的自衛権の行使について、首相は「(日本が)主体的に判断する」と答弁したが、9条という防波堤が揺らぐ今、本当にできるのか。

 留意すべきは、米国自身、中国を警戒しながらも重層的な対話のパイプ作りに腐心していることだ。日本も自らの平和を守るためには、中国との緊密な対話と幅広い協力が欠かせない。

 それなのに日本は日米同盟の強化に傾斜し、日中関係の人的基盤は細るばかりだ。中国に近い地理的な特性や歴史の複雑さを思えば、その関係はより微妙なかじ取りが求められる。

 米国の軍事行動とは一線を画し、専守防衛を貫くことで軍拡競争を避ける。憲法9条の機能こそ、抑止と対話の均衡を保つための基盤となる。
 ■問われる国会の役割
 夏に参院選がある。衆参同日選の可能性も指摘されている。

 そんななか安倍政権は、平時の米艦防護やPKOに派遣する自衛隊の「駆けつけ警護」、米軍への兵站を拡大する日米物品役務相互提供協定(ACSA)改定案の国会提出など、安保法制にもとづく新たな動きを参院選後に先送りしている。

 選挙前は「経済」を掲げ、選挙が終われば「安保」にかじを切る。特定秘密保護法も安保法制も同じパターンだった。

 政権は今回も、選挙に勝てば一気に進めようとするだろう。

 安倍政権は特定秘密保護法、国家安全保障会議(NSC)の創設など、政府への権限を集中させる外交・安保施策を次々と打ち出してきた。

 だからこそ、国会のチェック機能が重要なのに、肝心の国会が心もとない。野党が共同で提出した安保法制の廃止法案や対案を審議すらしない現状が、国会の機能不全を物語る。

 野党の使命は極めて重い。政党間の選挙協力を着実に進め、市民との連帯を広げる。立憲主義を守り、「違憲」の法制を正す。それは、日本の政治のあり方を問い直す議論でもある。


(5)毎日新聞社説-安保法施行 思考停止せずに議論を-2016年3月29日


国論割れたまま運用へ

 昨年9月19日、多くの反対を押し切って、強行採決により法律が成立してから半年余り。安倍政権は、国民の理解を深めようという努力をほとんどしてこなかった。逆に、反対世論の沈静化を図るかのように、昨秋の臨時国会の召集を見送った。国論は今も割れたままだ。

 安保関連法で可能になる新たな任務が自衛隊に付与されるのも、今秋以降になる。

 いずれも、夏の参院選への影響を考えて、安保法制の問題が蒸し返されるのを避けたいというのが、大きな理由と見られている。

 安倍政権は安保法制の整備を喫緊の課題だと強調していたのではなかったか。選挙のために先送りできるぐらいなら、安保関連法を拙速に成立させる必要はなかったはずだ。

 安倍政権は、安保法制の宣伝には極めて熱心だ。

 安倍晋三首相は、今月18日の参院予算委員会で、北朝鮮への対応で安保関連法や日米防衛協力の指針(ガイドライン)改定が果たした役割を問われて、「日米の信頼関係は大きく向上し、同盟関係はいっそう強固になった。北朝鮮の核実験、弾道ミサイル発射への対処では、日米の連携は従来よりもいっそう緊密かつ円滑に行われた」と語った。

 新たなガイドラインで、日米が平時から連絡や政策調整をする仕組みとして同盟調整メカニズム(ACM)が設置されたことが円滑な対応に役立った面はある。

 だが、この時点では安保関連法は施行前でもあり、北朝鮮対応に直接の関係があったわけではない。米軍のモチベーション(やる気)を高める程度の効果はあっただろうと言われている。

 政府・与党が、安全保障環境が厳しいから安保法制が必要だというなら、最近の情勢を踏まえて、野党が国会に提出した廃止法案と対案の審議に応じ、堂々と議論すればいい。
 昨年の国会審議は、集団的自衛権をめぐる憲法の解釈変更に焦点があたり、その他の多くの論点は未消化に終わった。国連平和維持活動(PKO)協力法の改正などは、ほとんど議論されていない。その状態のまま今秋以降、日本のPKOの性格はがらりと変わる。異常なことだ。

 だが政府・与党には、野党の対案を審議することで、安保法制の議論をさらに深めようという気はなさそうだ。議論はもう終わったとでもいうかのようだ。

 いま政府が、日米同盟との関係で神経をとがらせているのが、米大統領選の共和党候補者指名争いで首位を走る、実業家ドナルド・トランプ氏の言動だ。

 トランプ氏は米紙ニューヨーク・タイムズのインタビューで、日米安全保障条約について「米国が攻撃されても日本は何もしなくていいが、日本が攻撃されれば米国は全力で防衛しなければならない。極めて一方的な合意だ」と不満を示した。

同盟強化一辺倒を懸念

 日本が在日米軍の駐留経費負担を増額しなければ在日米軍を撤退させる考えや、日本の核兵器保有を容認する姿勢も示した。

 日米安保条約は、米国が日本防衛の義務を負う代わりに、日本は米軍基地を提供し、米国は基地を極東の軍事拠点として使える枠組みだ。

 トランプ氏が言う「日本は何もしなくていい」というのは誤解であり、それどころか日本は広大な米軍基地を提供し、多額の在日米軍駐留経費を日米地位協定の枠を超えてまで負担している。

 トランプ氏の発言は、米国の国力の低下による内向き志向を反映している。過剰反応すべきではないが、「日米安保ただ乗り論」を公然と語る人物が、大統領指名候補をうかがう時代になったことには注意を払う必要があるだろう。

 安保法制は、集団的自衛権の行使や地球規模での後方支援によって日米同盟を強化し、内向きになりつつある米国にアジア太平洋への関与を続けさせ、中国や北朝鮮の情勢に対応するのが目的とされる。

 だからといって米国の要求にあわせて、日本がどこまでも米軍への軍事貢献を拡大するのは、およそ現実的ではない。

 安倍政権が安保法制の推進にあたり強調してきたような、日本の軍事的貢献を強めれば、日米同盟による抑止力が自動的に高まるという考え方も安易に過ぎる。

 日米同盟は重要だ。だが、同盟強化一辺倒では、国際秩序の大きな構造変化に対応できないだろう。日本は思考停止に陥ってはならない。外交と防衛のバランスをとりながら安全保障政策のあり方を点検していく必要がある。


(6)東京新聞社説-安保関連法施行 「無言館」からの警鐘-2016年3月29日


 集団的自衛権を行使できるようにする安全保障関連法が施行された。戦後貫いてきた専守防衛政策の変質だ。平和憲法の重みをいま一度思い起こしたい。

 長野県上田市の南西部に広がる塩田平(しおだだいら)。その山裾に「無言館(むごんかん)」は立つ。昭和の時代、画家を目指しながら志半ばで戦火に散った画学生の作品を集め、展示する慰霊のための美術館だ。

 コンクリート打ちっ放しの瀟洒(しょうしゃ)な建物。扉を開けると、戦没画学生の作品が目に飛び込む。館内を包む静寂。作品は何も語らず、圧倒的な存在感が、向き合う者を無言にさせる。故に「無言館」。
◆戦火に散った画学生
 無言館は、館主の窪島誠一郎(くぼしませいいちろう)さん(74)が一九九七年、近くで経営する「信濃デッサン館」の分館として開館した。

 きっかけは、東京美術学校(現在の東京芸術大学)を繰り上げ卒業した後、旧満州(中国東北部)に出征した経験を持つ洋画家の野見山暁治(のみやまぎょうじ)さんとの出会いだった。

 「戦死した仲間たちの絵をこのまま見捨てておくわけにはゆかない」という野見山さんとともに戦没画学生の遺族を全国に訪ね、作品収集を続けた。

 召集され入営する直前まで、また戦地に赴いても絵筆や鉛筆を握り続けた画学生たち。無言館に展示されている絵の大半は、妻や両親、兄弟姉妹らごく親しい人や、身近な山や川を描いたものだ。

 死を覚悟しながらも、絵を描き続けたいという情熱。そのひた向きさ、家族への感謝や愛情の深さが、無言館を訪れる多くの人を無言にさせ、涙を誘う。

 戦争さえなければ、彼らの中から日本を代表する芸術家が、何人も生まれたかもしれない。その好機を奪った戦争は嫌だ、平和は尊い。それが無言館のメッセージであることは確かだ。
◆平和憲法耕し、花咲く
 窪島さんには無言館が反戦・平和の象徴とされることへのためらいがあるという。「絵を描くという純粋な行為を、政治利用することはできない」と考えるからだ。その考えは今も変わらない。

 しかし、安倍晋三首相の政権が成立を強行した特定秘密保護法と安保関連法をきっかけに、時代への危機感が募り始めたという。

 防衛・外交などの「特定秘密」を漏らした公務員らを厳罰に処す特定秘密保護法は、国民の「知る権利」を脅かしかねない。真実を隠蔽(いんぺい)し、画学生たちをも戦地へと駆り立てた戦中の記憶と重なる。

 そして、きょう施行日を迎えた安保関連法である。

 軍民合わせて日本国民だけで三百十万人、アジア全域では二千万人以上に犠牲を強いた反省から、戦後、先人は憲法九条に戦争放棄と戦力不保持を書き込んだ。

 その後、日米安全保障条約を結び、米軍の日本駐留を認める一方で、急迫不正の侵害を排除する必要最小限度の実力組織として自衛隊を保有するには至った。

 政府は、自らを守る個別的自衛権のみ行使する専守防衛に徹し、外国同士の戦争に加わる集団的自衛権の行使を禁じてきた。

 歴代内閣が継承してきたこの憲法解釈を、一内閣の判断で変え、集団的自衛権の行使に道を開く安保関連法の成立を強行したのが安倍政権である。

 自衛隊はきょうを境に「戦争できる」組織へと法的に変わった。

 首相が視野に入れるのはそれだけではない。

 自民党の党是は憲法改正。夏の参院選で他党を含めて「改憲派」で三分の二以上の議席を確保し、改正の発議を目指す。究極の狙いは九条改正による「国防軍」創設と集団的自衛権の行使を明文規定で認めることだ。

 窪島さんには今、声を大にして言いたいことがあるという。

 「平和憲法を耕していた年月がある。先人は憲法を耕し、育てた。種をまいたのはマッカーサー(連合国軍最高司令官)かもしれないが、耕し続けたのは日本人。無数の花が咲いている。そのことをもっと誇りに思うべきだ」
◆「厭戦」という遺伝子
 画学生が生き、そして戦火に散った戦争の時代。その時代に近づくいかなる兆候も見逃してはならない。それが命を受け継ぎ、今を生きる私たちの責務だろう。

 戦中、戦後の苦しい時代を生き抜いた窪島さんは、「厭戦(えんせん)」という遺伝子を持つという。地元長野で、特定秘密保護法や安保関連法の廃止を目指す市民団体の呼び掛け人にも名を連ね、五十年以上ぶりにデモにも参加した。

 「日本は一センチでも戦争に近寄ってはいけない国だ。角を曲がって戦争の臭いがしたら、戻ってこなければいけない。このままほっておけば『無言館』がもう一つ増える時代がやってくる」。窪島さんが無言館から鳴らす警鐘である。


(7)読売新聞-安保関連法施行 迅速な危機対処へ適切運用を-2016年03月29日


 ◆訓練重ねて国際平和の一翼担え◆
 平時から有事まで切れ目のない、迅速かつ効果的な危機対処が可能になった。日本の平和と地域の安定を確保するうえでその意義は大きい。

 安全保障関連法が施行された。昨年9月に成立、公布され、半年間の周知期間を経て、関連政令などが閣議決定された。

 関連法の最大の柱は、日本防衛の強化である。存立危機事態には、集団的自衛権の行使を限定的に可能にする。平時には自衛隊が、ともに活動する米軍艦船を防護できる。朝鮮半島有事などの際は、米軍や他国軍に後方支援を行う。
 ◆意義深い日米同盟強化
 包括的法制に基づき、危機の進展に応じた柔軟な自衛隊の部隊運用ができるのは重要な前進だ。

 もう一つの柱は、国際平和協力活動の拡充である。日本の安全に影響する事態が発生する度に特措法を制定しなくても、人道復興支援や他国軍への後方支援活動に自衛隊を機動的に派遣できる。

 国連平和維持活動(PKO)に参加中の自衛隊の部隊による駆けつけ警護や、邦人救出も可能になった。

 留意するべきは、日本の安全保障環境が厳しさを増していることだ。

 北朝鮮の金正恩政権は今年、国際社会の警告を無視し、核実験に続いて弾道ミサイル発射を強行した。軍事的挑発は過激化し、予測困難の度合いが強まった。

 中国は、「強軍路線」の下、軍備増強を加速させつつ、南シナ海での人工島造成など、力による現状変更の固定化を図っている。

 イスラム過激派による国際テロや、サイバー攻撃などの脅威も確実に拡散してきた。

 こうした中で、安保関連法の施行により、日米同盟と国際連携を強化し、抑止力を高めることは、極めて時宜に適かなうと言える。

 2月の北朝鮮のミサイル発射時には、日米共同の警戒活動や情報共有が従来より円滑に進んだ。安保関連法制定で日米の信頼関係が深まった効果にほかならない。
 ◆「違憲」批判は的外れだ
 自衛隊は従来、目前で米軍艦船が攻撃されても、反撃できず、傍観するしかなかった。これでは真の同盟関係は成立するまい。同盟の実効性を維持するには、米国にとって「守るに値する国」であり続ける努力が欠かせない。

 大切なのは、万一の際に自衛隊が効果的な活動ができるような態勢を整えておくことだ。

 安保関連法に基づく部隊行動基準や作戦計画を策定する。米軍などとの共同訓練を重ね、問題点が判明すれば、計画を練り直す。

 こうした地道な作業が、様々な危機を未然に回避する抑止力の更なる向上につながる。

 民進など4野党は、「集団的自衛権の行使は憲法違反だ」「世界各地で戦争を可能にする」などと安保関連法を批判し、廃止法案を国会に提出している。

 しかし、関連法は、日本の存立が脅かされる事態に限定して、必要最小限の武力行使を認めているにすぎない。「違憲」といった主張は全くの的外れである。

 国際平和協力活動を拡充し、安倍政権の「積極的平和主義」を具現化することも重要課題だ。

 日本が世界各地の安定に応分の貢献をすることは、自由貿易の恩恵を享受する主要国として、当然の責務である。

 国際的な発言力の向上や、自国の安全確保にもつながる。安保関連法が大多数の国に評価、支持されている点も見逃せない。

 南スーダンPKOに参加中の陸上自衛隊に対する、駆けつけ警護などの新任務の付与は、今秋以降に先送りされる見通しだ。

 中谷防衛相が「隊員の安全を確保し、任務を適切に遂行できるよう、準備に万全を期したい」と語るのは理解できる。
 ◆リスクの極小化を図れ
 従来は、仮に暴徒に包囲された民間人から救援を要請されても、基本的に断るしかなかった。偵察名目で現場に接近して自らを危険にさらし、正当防衛の状況を作り出すことでしか武器を使えない、いびつな法律だったからだ。

 今後、陸自部隊が駆けつけ警護の選択肢を持つことは、他国の部隊や関係機関などとの信頼関係の構築につながるはずだ。

 無論、PKOの現場には様々な危険が潜む。想定外のトラブルが発生することもあろう。

 だからこそ、現地情勢の情報収集には、従来以上に力を入れる必要がある。新たな部隊行動基準に基づき、多様なシナリオを想定した教育・訓練を行い、隊員のリスクを極小化する入念な準備をしておくことが一段と大切になる。


(8)北海道新聞社説- 安保関連法施行 重大な懸念は変わらない-2016年3月29日


 憲法9条の解釈を変更し、集団的自衛権の行使を可能にした安全保障関連法が施行された。

 半年前、大勢の国民が抗議の声を上げる中で、政府・与党は戦後の安全保障政策の大転換となる法案の成立へ強引に突き進んだ。

 多くの憲法学者、内閣法制局長官や最高裁長官の経験者までもが「違憲」と断じた法律が持つ数々の重大な懸念や疑問に、政府は今に至るまで誠実に答えていない。

 先の大戦の惨禍を経て不戦を誓った平和憲法の理念や専守防衛の原則と相反する安保関連法は、廃止するよう重ねて求めたい。

派遣の歯止めどこに

 安保関連法は、日本の存立が脅かされる存立危機事態で集団的自衛権の行使を限定的に認める。

 日本の安全に重要な影響を与える事態では自衛隊の後方支援活動を地球規模で実施し、対象を米軍以外の他国軍にも拡大した。

 首相は「安全保障環境が変化し、あらゆる事態に切れ目のない対応が必要だ」と説明してきた。

 だが、政府は国連平和維持活動(PKO)での「駆け付け警護」や平時からの米艦防護など、自衛隊の武器使用が想定される新任務の運用を先送りする方針だ。

 「切れ目なく」と言いながら危険を伴う任務については夏の参院選後―。これでは、関連法そのものの必要性を疑わざるを得ない。

 首相がどう言い繕っても、法律の根幹にある危うさは消えない。

 例えば集団的自衛権の行使だ。政府は「限定的」と言うが、どこまで許されるのか。専守防衛の原則と矛盾しないのか。

 自衛隊の海外派遣の範囲をめぐっても、首相は国会論戦で「日本の平和と安全に重大な影響を及ぼす地域は限られない」などと述べ、「地球の裏側」に行く可能性さえ否定はしなかった。

 後方支援活動も弾薬の提供や発進準備中の戦闘機への給油が可能となり、格段に危険性を増す。

 何より懸念するのは、事態の認定から自衛隊の派遣に至る一連の動きが、時の政権の「総合的判断」というあいまいな状況下で行われることだ。

 存立危機、重要影響事態での派遣の国会承認も、緊急時は「事後」であってもいいという。これでは恣意的(しいてき)な運用になりかねない。

 同盟国である米国の要請によって、自衛隊が歯止めなく海外に派遣され、他国の軍隊と「殺し、殺される」状況になる。そんなことは誰も望んでいない。

信頼関係の構築こそ

 国際情勢は憂慮すべき事態が続いている。

 東アジアでは北朝鮮が今年に入り核実験や事実上の長距離弾道ミサイル発射を強行し、中国は南シナ海で地対空ミサイルを配備するなど軍事拠点化を進めている。

 首相は北朝鮮のミサイル発射と安保関連法に関連して「従来にも増して、日米がしっかりと連携できた」と成果を強調した。

 だから安保関連法が必要だということにはならない。

 北朝鮮のミサイルにはこれまでも、日米は専守防衛を前提に対処してきた。法律の施行前に成果を誇るのは「脅威に便乗している」としか見えない。

 南シナ海では、自衛隊が米軍と共同で警戒監視活動に当たる可能性も取り沙汰されている。

 中国を刺激し、緊張をあおるような行動を取れば、相手に軍拡路線を進める口実を与える。

 抑止力ばかりを強調し、安全保障は外交と信頼醸成によって成り立つという原則が置き去りにされることがあってはならない。

国民の声に耳傾けよ

 日本国憲法は今年11月に公布から70年を迎える。

 自衛隊の活動はインド洋やイラクへの派遣など海外に広がり、日米の防衛協力も強化された。憲法の歴史は9条空洞化の歩みだとも言われてきた。

 だが、自衛隊・日米安保体制と9条の際どい整合性を保つために歴代政権が堅持してきたのが「集団的自衛権の行使は許されない」とする憲法解釈だった。

 それが、自衛隊が海外で他国軍と戦火を交えない歯止めだったからだ。憲法解釈自体を変えた閣議決定と安保関連法の重大性を、あらためて問い直したい。

 国家権力は憲法の枠内で行使するという立憲主義を踏み外した安倍政権に対し、学生や母親、学者、弁護士などのさまざまな団体が今も抗議の集会を続けている。

 一人一人の行動は参院選に向けた野党共闘の動きを後押しした。

 安全保障政策は国民世論の支持がなければ成り立たない。現場の自衛官も戸惑うばかりだろう。

 野党は今国会に安保関連法の廃止法案を共同提出した。政府・与党は審議に応じ、懸念に対する説明を尽くすことが、参院選で審判を下す有権者への責務である。


(9)東奥日報社説-幅広い理解得られるか/安保法施行-2016年3月29日


 安全保障関連法が29日施行された。戦後日本の安全保障政策は、大きな転換点を迎えた。歴代政権が憲法違反として禁じてきた集団的自衛権の行使を解禁、自衛隊の海外活動は地球規模に広がる。

 北朝鮮の核・ミサイル開発や中国の海洋進出など日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増しているといわれる。共同通信社の先ごろの全国電話世論調査では、安保法を「評価しない」がほぼ半数(49.9%)を占めた。「評価する」は39.0%で、国民の理解が十分得られているとは言えない状況にある。安保法に基づく新たな活動が、安保環境の変化への対応策として有効か。国民の幅広い理解と支持を得ることが欠かせない。

 安倍政権は2014年7月に憲法解釈の変更を閣議決定し、集団的自衛権の行使を容認した。野党は「立憲主義」に反すると批判。憲法学者らは「違憲」という見解を示した。

 法施行で、自衛隊の活動はさまざまな分野で拡大する。米国など「密接な関係にある他国」への武力攻撃が発生した場合に、政府が「存立危機事態」と認定すれば集団的自衛権が発動される場合が出てくる。

 地理的制約はなく、他国軍への後方支援が可能となり、他国軍への弾薬提供や発進準備中の戦闘機への給油など支援範囲も広がる。国連平和維持活動(PKO)では、武装集団に襲われた国連要員らを救出する「駆け付け警護」などが可能になる。

 ただ、安倍政権は当面、自衛隊に対する新たな任務の指示は見送る方針だという。今夏に実施される参院選で安保法が争点になるのを避けたいとの思惑があるからだろう。政権政策の是非が問われる選挙の機会に、想定する自衛隊の活動をきちんと国民に説明すべきだ。

 安倍政権は、法施行によって日米同盟が強化され、紛争回避へ抑止力が高まる-とする。北朝鮮対応での日米間の情報共有化などが念頭にあると思われる。だが安保法成立後も北朝鮮の行動は深刻化しており、抑止の効果には疑問符もつく。

 日米の一体化が進めば、米国の軍事行動に巻き込まれる懸念も出てくる。海外での自衛隊活動の拡大によって日本がテロの対象となる恐れはないか。さまざまな事態を想定しながらも、冷静に議論を進める必要がある。


(10)岩手日報論説-安保法施行 違憲の疑い晴れぬまま-2016年3月29日


 集団的自衛権行使に道を開き、自衛隊の活動を大幅に広げる安全保障関連法が29日、施行された。戦後日本の安全保障政策を変容させる法が運用段階に入る。

 法成立から半年がたつ。この間、世界の安全保障環境は大きく揺れ動いた。

 北朝鮮は1月早々から、核実験とミサイル発射を行った。その後も米韓の合同軍事演習に対抗して挑発的行動をエスカレートさせている。

 ヨーロッパでは昨年11月のパリに続き、3月にはベルギーでも多くの市民を巻き込んだテロが起きた。犯行声明を出した過激派「イスラム国」(IS)は、世界各地でテロを引き起こしている。

 多くの日本人も危険が身近に迫っていると感じざるを得ない。だからといって、ことさら脅威をあおるだけでは判断を誤る。

 国民が知りたいのは、安保法の下で展開されようとしている新たな活動がいかに有効に働き、抑止力を高めるのかという点だ。現政権はそれを日米同盟関係の強化に求めるが、今のところその効果ははっきり見えない。

 むしろ、日米の一体化が進んで米軍の軍事行動に巻き込まる恐れはないか、日本がテロの標的になることはないかという不安が国民の中にあることは否定できない。

 3月下旬、共同通信社が行った世論調査では、安保法を「評価しない」が50%に上った一方で、「評価する」は39%にとどまった。国民の理解は進んでいないとみるべきだろう。

 この法には広範な反対運動が起きている。歴代政権が禁じてきた集団的自衛権の行使容認には、多くの憲法学者が「違憲」の見解を示した。

 今国会には野党5党が廃止法案を提出したが、安倍晋三首相は「廃止されれば、国民を守るために強化された日米同盟の絆は大きく損なわれる」と反論。自民党大会で敵意をむき出しにした。

 法の施行で、国連平和維持活動(PKO)に参加する自衛隊による「駆け付け警護」や、他国軍と共同で行う宿営地防衛などが可能になるが、現政権は新たな任務の指示は秋以降とする方針だ。

 参院選への影響を避けるため、「危険」を伴いかねない活動の説明を控えるのは党利優先としかみえない。これでは不誠実だ。

 違憲の疑い。運用上の「政府の裁量」への不安。法をめぐる疑問は解消していない。あらためて議論すべき問題が山積している。

 国の根幹でもある安全保障政策が、国民の理解と支持が不十分なままに展開されようとしていることこそ、民主国家の足元を危うくするものではないか。


(11)信濃毎日新聞社説-安保をただす 関連法施行 9条改憲の一里塚の懸念-2016年3月29日


 多くの問題点を残したまま、安全保障関連法が施行された。

 歴代の政権が憲法上認められないとしてきた集団的自衛権の行使が可能になる。米軍などの「後方支援」でも自衛隊を随時、海外に派遣できる。

 憲法9条の下、抑制的な姿勢を取ってきた戦後日本の防衛政策の大転換だ。「専守防衛」の枠を超え、自衛隊が海外で武力行使することになりかねない。

 安保法を表立って運用するのは夏の参院選後とみられる。政府の動きを注視しつつ、廃止を訴え続けたい。
<争点化避けようと>
 施行日を決めた閣議で、安倍晋三首相は「わが国の平和と安全を一層確かなものにする歴史的な重要性を持つ」と強調した。「抑止力向上と地域、国際社会の平和と安定にこれまで以上に積極的に貢献する」とも述べている。

 与党による成立強行から6カ月余り、政府は必要な法律だと主張するばかりで、疑問に正面から答えようとしない。理解を得られるよう努力を続けると繰り返しながら、目につくのは国民の関心をそらそうとする対応だ。

 安保法に基づく新たな任務は当面、実施しない。国連平和維持活動(PKO)に参加する自衛隊による「駆け付け警護」や、他国軍との宿営地の共同防衛は秋以降になる。平時からの米艦の防護も見送ろうとしている。

 参院選での争点化を避けたいのは明らかだ。集団的自衛権の違憲性、任務拡大に伴う隊員の危険性増大など、安保法の問題点について納得のいく説明ができないことの証しではないか。
<抑止力は高まるか>
 日本を取り巻く安保環境は確かに厳しさを増している。

 とりわけ、核実験やミサイル発射で挑発行動を繰り返す北朝鮮は見過ごせない。中距離弾道ミサイル「ノドン」は日本のほぼ全域を射程に収める。核弾頭の小型化に成功し、ミサイルに搭載可能になれば脅威は一段と増す。

 だからといって、安保法が必要だということにはならない。仮に日本に向けてミサイルが発射されたとしても、個別的自衛権で対処すべき問題である。

 2月に事実上の長距離弾道ミサイルが発射された際の対応について安倍首相は安保法と新たな日米防衛協力指針(ガイドライン)に触れて「強化された日米同盟が円滑に効果を挙げた」とした。施行前に円滑に対処できたのなら、安保法がなぜ必要なのか。

 施行で状況が好転するのかも疑問だ。北朝鮮の核・ミサイル開発や挑発行動が変化するとは考えにくい。中国の海洋進出や国防費増大についても言える。日本の政策転換が逆に、軍備増強の口実に使われないとも限らない。

 力には力で―と張り合うよりも粘り強く対話していく努力を求めたい。北朝鮮に核を放棄させるために日米韓の連携はもちろん、中国とも協力関係を強めなければならない時だ。

 安保法や新ガイドラインの背景として、「米国に見捨てられるのではないか」という政府の危機感が指摘される。中国と衝突したときに守ってもらえるよう米国に対して協力を強める、それが抑止力を向上させることにもなる―。そんな発想だ。

 協力強化で見捨てられる危険が減るとしても、一方で別の危険が膨らむ。米国の戦争に巻き込まれる恐れだ。「あり得ない」と首相が断言したところで、法律上できることを要請された場合に拒めるのか不安は消えない。
<廃止法案の審議を>
 1991年の湾岸戦争後、ペルシャ湾の機雷除去に掃海艇が派遣されて以降、自衛隊は徐々に海外任務を広げてきた。どうにかして憲法との整合を取ろうと、その都度、腐心しながらのことだ。

 安保法は違う。これまでの制約を一気に取り払った。

 このまま運用されれば、先に待ち受けるのは改憲論議だ。首相は集団的自衛権を「限定容認」した安保法が施行されていない段階で全面容認の必要性に言及した。9条改憲への通過点にすぎないことが鮮明になっている。

 自民党からは「9条2項を変えないでいることの方が立憲主義の空洞化につながる」との声も出ている。乱暴な論法であり、聞き流すことはできない。

 合流前の民主、維新両党など野党5党が2月に安保法の廃止法案を衆院に提出した。これに対して首相は「せっかく強化された日米同盟の絆が大きく損なわれる。わが国の安全保障に極めて重大な影響を与える」と批判している。

 多くの国民が反対する中、審議を打ち切って成立させた法律である。憲法解釈を変えた閣議決定と合わせ、違憲性や妥当性を議論し直す必要がある。廃止法案をたなざらしにせず、審議に応じるよう与党にあらためて求める。


(12)神戸新聞社説-安保法施行/「理解を得た」とは言い難い-2016年3月29日


安全保障関連法がきょうの午前0時をもって施行された。

 これまでは日本周辺に限定された自衛隊と米軍との連携が地球規模に拡大する。「邦人救出」や他国部隊などの「駆け付け警護」によって自衛隊の海外任務は飛躍的に広がり、その分、隊員らの危険も増す。

 きょうからはこうした懸念が法律の運用として現実の問題となる。

 国民の命と平和な暮らしを守るための法整備で、「戦争法」との指摘は当たらないと政府は強調する。だが、憲法9条の下で「平和主義」を掲げた戦後日本の安保政策が大きく変容することは間違いない。

 国の針路の転換ともいえるこの法律の内容と必要性を、政府はどれだけ丁寧に説明したか。国民の多くは今も首をかしげており、「理解を得た」とは言い難い状況だ。

 疑問点を曖昧にしたまま既成事実化を図る。その姿勢は「国民不在」と批判されても仕方がない。
       ◇
 そもそも、この法律で政府、与党は何を目指しているのか。いくら説明を聞いてもよく分からない。

 私たちは半年前にそう指摘したが、状況は今も同じだ。

 共同通信社の先週末の世論調査では、49・9%が安保法を「評価しない」としている。昨年9月の法成立直後も「反対」と「憲法違反」の回答がともに約5割を占めていた。

 「時が経ていく中で理解は広がっていく」と安倍晋三首相は述べていた。そうした政府の思惑と異なり、疑問視する声は依然、強い。

 おととい、全国の高校生が連絡を取り合い、東京で安保法施行に反対するデモを行った。そうした動きは地域や世代を超えて広がる。

 明確な反対だけでなく、戸惑いや疑問、不安、憤りなど、さまざまな思いが渦巻いている。それが国民の受け止め方ではないか。

政府判断の危うさ

 昨年の国会での法案審議は210時間を超えた。与党などは「議論を尽くした」として質疑を打ち切ったが、審議を重ねるほど答弁のつじつまが合わなくなっていた。

 例えば、邦人を救出する米艦船を守る-とした事例である。

 2年前の会見で、首相は子どもと母親が米艦船に乗ったイラストを掲げ、「国民を守るには集団的自衛権の行使が必要」と訴えた。

 ところが昨年の国会審議で、中谷元・防衛相は「必ずしも日本人が乗った船が防護の対象ではない」と述べ、議論の迷走を招いた。

 集団的自衛権行使の前提として、政府は「日本の存立が脅かされる明白な危険がある」(存立危機事態)など武力行使の新要件を定め、法に盛り込んだ。政府が「行使はあくまで限定的」とする根拠だ。

 それに照らせば、日本人が乗船しているかどうかだけで判断するのは無理がある。結局は政府もそう認めたことになる。

 首相が集団的自衛権行使の例として挙げた中東ホルムズ海峡での機雷掃海活動も、「現実味に欠ける」と答弁せざるを得なくなった。

 一方で矛盾点を追及されれば、最後は「政府の総合判断」と繰り返した。明らかになったのは、武力行使が時の政権の恣意(しい)的な判断に委ねられる制度自体の危うさだ。

丁寧な説明もなく

 政府の説明を「不十分」とする人は直後の世論調査で8割に上った。さすがに首相も民意との乖離(かいり)を気にしたのか、「丁寧に粘り強く説明していきたい」と語っていた。

 その約束が果たされたと考える国民はどれだけいるのか。

 憲法学者の大半が「違憲」と批判する集団的自衛権行使容認の憲法解釈変更について、内閣法制局は協議の過程を明らかにしていない。政府は行使容認を「合憲」と主張し、議論が深まらない。

 当の首相は「経済が最優先」と発言し、安保問題にあまり言及しなくなった。野党は安保法の廃止法案を共同提出したが、与党は審議入りに応じない。これでは本当に説明する気があるのか疑わしい。

 武装集団などに捕らわれた邦人を救出する。襲撃された国連要員らを救出する。安保法では、国連平和維持活動(PKO)の駆け付け警護などが新たに任務に加わった。いずれも自衛隊に犠牲者が出る危険性は否定できない。

 政府は今のところ、これらの任務の実施を見送ったままだ。平時の米艦船の防護についても当面、実施を見合わせるという。

 夏の参院選への影響を恐れて先送りしたのなら姑息(こそく)というしかない。

 政府は安保法制の運用を全面的に見合わせた上で、国民への説明にもっと力を注ぐべきだ。国会も野党の廃止法案を取り上げ、時間をかけて議論しなければならない。国民の懸念に誠実に向き合うか。問われているのは政府、与党の姿勢である。


(13)愛媛新聞社説-安保法施行 忘れず諦めず「ノー」を誓う日に- 2016年03月29日


 安全保障関連法がきょう、施行された。
 「憲法9条の下では集団的自衛権の行使は許されない」―長年守り抜かれた政府見解を、安倍政権は憲法解釈を正反対に変更して集団的自衛権の行使を容認。その上で昨年9月19日、多くの学者や国民が違憲性を指摘して反対する中、他国軍への後方支援拡大など飛躍的に自衛隊任務を拡大する新たな安保政策を反映した法律を、数の力で押し切って強行成立させた。
 「あの日」から、半年。しかしこの間、法の根本的な問題も違憲の疑義も、何も解消されたわけではない。施行で効力を持つようになっても、それは変わらない。幸いにして自衛隊員はまだ派兵されていないが、あらためて今こそ、日本が立憲主義と平和主義の危機を迎え、戦争に参加できる国へと変容する大きな転換点にあるとの認識を持たねばならない。諦めることなく問い続け、考え続けて、安保法廃止を強く求めたい。
 「法案に支持が広がっていないのは事実だが、成立した暁には間違いなく理解が広がっていく」。安倍晋三首相は昨年、そう強弁しつつ成立後も「国民に説明する努力を続ける」と約束した。だが、臨時国会召集は拒否し、今通常国会でも「戦争法案との指摘は全く当たらない」など空疎な答弁に終始。「対案を出せ」と再三求めながら、5野党が廃止法案を共同提出しても審議さえしようとしない。約束はほごにされ、理解どころか疑念と不安が広がっている。
 そもそもなぜ今、憲法の解釈をねじ曲げてまで集団的自衛権が必要なのか。その根源的な疑問に対し、政府は「国民の命と平和な暮らしを守る」と繰り返すだけで、根拠は示されない。「日本を取り巻く安保環境の厳しさ」も強調されるが、直接的な脅威なら個別的自衛権の問題であり、中韓など近隣国との関係改善こそ政治や外交の責務。安保法と日米同盟強化で「抑止力が高まる」というが、軍拡への懸念が東アジアの関係を悪化させる可能性も否定できない。
 しかもあれほど強硬に成立を急ぎながら、施行時点では自衛隊の「駆け付け警護」など、危険な任務は先送りするという。参院選へのマイナス要因になるとの思惑で実施を先送りできるなら、緊急性は低く、国会でもっと慎重に議論できたはず。ご都合主義の選挙戦術で、国民の目を欺くことは許されない。
 詰まるところ、首相の眼目は対米追従を強め、自衛隊が「米軍の戦い」を切れ目なく支援し世界中で積極的に軍事貢献できるようにすることに尽きよう。違憲との批判に耳を貸そうともしない政治姿勢のその先に、当然に「改憲」もある。
 安保法廃止を目指して今、若者や母親、弁護士ら多くの人々が抗議を続け、廃止の大義の下に、野党も結集し始めた。昨年の暴挙を忘れず、「ノー」の声を上げる。そのことを胸に刻み誓い直す日としたい。


(14)宮崎日日新聞-安保法施行-2016年3月29日


◆あらためて妥当性問いたい◆
 歴代政権が憲法違反として禁じてきた集団的自衛権の行使を解禁するなど、自衛隊の活動を大幅に広げる安全保障関連法が施行された。昨年9月の法成立から半年。日本の安全保障政策は実際の運用面で大きな転換点を迎えた。

 北朝鮮の核・ミサイル開発や中国の海洋進出など、日本を取り巻く安全保障環境の厳しさが指摘される。しかし環境の変化への対応策として有効で妥当なのか。民主国家の安保政策には国民の幅広い理解と支持が不可欠だ。平和を掲げて戦後を歩んできた日本の安全保障政策と、国際的な貢献策をあらためて議論する必要がある。

廃止求める声根強く

 安保法の国会審議では憲法学者らが「違憲」との見解を示し、市民団体などによる廃止を求める集会やデモは今も続いている。弁護士グループらによる集団提訴の動きもある。

 安倍政権は閣議決定による憲法解釈の変更で集団的自衛権の行使を容認した。「立憲主義」に反すると野党は批判し、民主党など野党5党は廃止法案を衆院に共同で提出。民主党と維新の党などの合流による「民進党」は「立憲主義の堅持」を綱領に掲げる。

 違憲論議の決着はついておらず、安保法は不安定な基盤の上にあると言わざるを得ない。

 自衛隊の活動は施行によりさまざまな分野で拡大する。米国など「密接な関係にある他国」への攻撃が発生し、日本の「存立危機事態」に当たると判断すれば集団的自衛権が発動される場合が出てくる。

 他国軍への後方支援も随時行えるようになり、国連平和維持活動(PKO)では襲われた国連職員や非政府組織(NGO)関係者を救出する「駆け付け警護」が可能となる。自衛隊の携わる任務がより危険なものになるのは否定できない。

「争点隠し」は不誠実

 安倍政権は当面、自衛隊に対する新たな任務の指示は見送る方針だ。中谷元・防衛相は「安全を確保しつつ、適切に新たな任務を遂行できるよう準備に万全を期す」と説明する。

 しかし政権の狙いは今夏の参院選で安保法が争点になるのを避けることだろう。選挙までは具体的な説明を控え、選挙が終われば危険な任務に着手するというのは、国民に対して不誠実ではないか。

 政権政策の是非が問われる選挙の機会に、想定する自衛隊の活動をきちんと国民に説明すべきだ。

 同法の妥当性も考えたい。安倍晋三首相は「法制によって日米同盟関係は一層強固になり、抑止力が向上した」と述べた。念頭には北朝鮮対応での日米間の情報共有化があると思われる。だが法成立後も北朝鮮の行動は深刻化しており、抑止効果には疑問符がつく。

 日米の一体化が進めば、米国の軍事行動に巻き込まれる懸念が高まる。海外での自衛隊活動拡大により日本がテロの対象となる恐れは増さないか。さまざまな事態を想定し、冷静な議論を進めたい。


(15)南日本新聞社説-[新安保政策・安保関連法施行] 「崇高な痩せ我慢」をやめていいのか-2016年3月29日


 「隣近所が銃を持っているのに、この家は銃を持たないと宣言した」

 軍隊の保持を禁じる日本国憲法の理念を、映画監督の森達也さんはこう表現した。

 「もちろん一人だけ丸腰は怖い。膝が震える」。不安や恐怖だってある。

 「その意味では痩せ我慢に近い。でも崇高な痩せ我慢だ。震えながら世界を信頼すると決意した」(現代思想「安保法案を問う」)。

 この「痩せ我慢」をやめる一歩を、いよいよ踏み出したのだろうか。

 強行成立から半年余、集団的自衛権の一部行使を盛り込んだ安全保障関連法がきょう施行される。

 憲法9条は集団的自衛権の行使を禁じている。これが自民党をはじめ歴代内閣の解釈であり、国民的合意でもあった。

 安倍内閣は最高法規である憲法を1文字も変えず、1内閣の解釈で安全保障政策を大転換させた。

 国際社会での役割を果たす上で当然、という意見もある。一方、多くの憲法学者らが指摘した、立憲主義に反し「違憲」との疑念はぬぐえない。
■「丁寧な説明」どこへ
 安保法は、自衛隊法など10の法改正を一括した「平和安全法制整備法」と、他国軍の後方支援のため自衛隊を海外に随時派遣できるようにする新法「国際平和支援法」で構成されている。

 集団的自衛権の行使容認のほか、米軍や他国軍への燃料や弾薬などの提供も、地域を日本周辺に限定せず可能になる。

 安保法が成立したとき、安倍晋三首相は「これから粘り強く、丁寧に法案の説明を行っていきたい」と述べた。

 ところが、その後に野党が求めた臨時国会には応じなかった。野党5党が共同提出した安保法を廃止する法案も、民主と維新の党による対案も、一度も審議されずに棚ざらしにしたままだ。

 そもそも平和安全法制整備法は10本をひとくくりにしたため、論議が尽くされていない点も多い。

 日本の安保環境がどう変化するのか、自衛隊は何が可能になり、どんな危険にさらされるのか、いまだによくわからない。「丁寧な説明」はどこへいったのか。

 例えば、国連平和維持活動(PKO)では、武装集団に襲われた国連要員らを自衛隊員が武器を使って救出する「駆け付け警護」が可能になる。

 首相は、南スーダンPKOでの任務拡大を検討しながら、「いかなる業務を付与するかは慎重に検討する」と曖昧なままだ。

 過激派組織「イスラム国」(IS)への軍事作戦や南シナ海での米軍の「航行の自由」作戦にも、「参加する考えはない」などと断言する。

 しかし、米国は安保法を「より積極的な役割を果たそうという日本の取り組み」と歓迎している。米国の軍事行動へ支援要請があったとき断り切れるか懸念もある。

 一方で首相は年初来、憲法改正に踏み込む発言を続けている。

 中でも気がかりなのは、自民党の憲法改正草案に触れながら、集団的自衛権行使を全面的に認める必要性に言及していることだ。

 自民党草案は9条で自衛権を明示し、「国防軍」の保持を打ち出している。

 強引な解釈改憲で国民を慣らしておいて、最終的には条文改正で集団的自衛権の全面行使を狙っているのだとすれば看過できない。

 南日本新聞社加盟の日本世論調査会によると、9条改正の「必要はない」が57%と半数を超えている。

 民意との隔たりを無視するようでは、国民との溝は深まるばかりだ。
■主権は国民に存する
 国会で「1強」の安倍政権は、国民からの異論に耳を傾けようとしない姿勢が目立つ。

 安保法だけではない。米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の辺野古移設も原発の再稼働も、国民の不安や疑問に答えようとはせず、自らの主張を押しつけるばかりである。

 安倍政権は、PKOの「駆け付け警護」など、法施行に伴う自衛隊の任務拡大を秋以降としている。米艦などに対象を広げた「武器等防護」も当面見送るという。

 夏の参院選への悪影響を避けるための先送りであれば、誠実さに欠けると言わざるを得ない。

 施行を前にした今月中旬、反対派市民の集会が東京で開かれた。

 国会をデモの市民が取り囲んだ半年前に比べれば、「熱気」が弱まっているという指摘もある。

 それでも、若者グループ「SEALDs(シールズ)」の奥田愛基さんは「デモへの参加は普通のことという社会に変わってきた。今度は選挙に関わることを普通にしたい」と活動を続ける。

 法施行後であっても、国民の反対が強ければ国会で歯止めをかけられることはあるはずだ。

 「主権が国民に存する」。憲法の前文を心にとめ、法律の行方から目を離さずにいたい。


(16)沖縄タイムス社説-[安保法施行]違憲の疑い放置するな-2016年3月29日


 歴代政権が憲法9条の下で禁じてきた集団的自衛権の行使を可能にし、他国軍の後方支援など自衛隊の活動を飛躍的に拡大させる安全保障関連法が、きょう施行された。

 戦後日本の安保政策の大きな転換点となるだけでなく、「法的安定性は関係ない」と言い切った首相補佐官の本音発言に象徴されるように、「法の支配」や「立憲主義」をも深く傷つけた法律である。

 憲法9条は、日本が直接攻撃を受けていないにもかかわらず、他国防衛のために海外で武力を行使することを認めていない。例外を認めた規定も存在しない。安保法に対しほとんどの憲法学者が「違憲」で一致しているのは、集団的自衛権の行使容認が憲法解釈の限界を超えているからである。

 違憲の疑いが濃厚で、国民の支持も得ていない法律によって、自衛官を危険にさらしていいのか。

 今春、防衛大学校を卒業した学生の任官拒否が47人と昨年の倍近くに増えたことを、政府は深刻に受け止めるべきだ。

 問題は多岐にわたっている。安保法は廃止すべきである。
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 ここでは四つの問題を指摘しておきたい。

 まず集団的自衛権の行使容認の閣議決定に際し、内閣法制局が検討過程を公文書として残していなかった問題だ。

 これでは集団的自衛権行使が、どのような協議を経て認められたのかを検証することができない。国民に対する説明責任を放棄したのと同時に、政府の憲法解釈の監視役を担う役割も放棄したのである。

 野党側が憲法53条に基づき要請した臨時国会召集を、安倍政権が見送ったのもあまりに一方的だった。自民党の改憲草案に、衆参いずれかで4分の1以上の議員が要求すれば「20日以内に召集」と書き込んでおきながらである。

 安保法成立のためには通常国会を大幅延長するが、その説明責任が求められる臨時国会は開かない。ご都合主義も甚だしい。

 法律が複雑で分かりにくいのは、そのあいまいさにも原因がある。

 他国への攻撃が、日本の「存立危機事態」に当たると判断すれば集団的自衛権を使った反撃を認めているが、どのような事態が存立危機で、誰が判断するのか。3要件があいまいで、時の政権による恣意(しい)的判断の恐れが消えない。

 日本の主権に関わる重大な問題も見過ごせない。

 安保法案は慎重審議を求める圧倒的世論を無視して、衆参両院で強行採決を繰り返し成立した。一方、米国に対しては法案提出前に安倍晋三首相が「この夏までに成就させます」と約束していたのである。
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 安保法と辺野古の新基地建設は密接に関係している。二つを結びつけているのが昨年4月に改定された日米防衛協力指針(ガイドライン)である。

 安保法によって自衛隊の活動は大幅に広がり、ガイドラインによって自衛隊と米軍の協力関係や共同作戦も飛躍的に拡大することになる。沖縄の演習場や周辺海空域における日米共同訓練の頻度が高まりそうだ。

 自衛隊と米軍の一体化が進めば、米国の軍事行動に巻き込まれる可能性も増す。負担軽減の掛け声とは裏腹に、沖縄では軍事的負担の増大が懸念される。

 大規模な反対運動が展開された安保法の成立から半年余りがたった。違憲の疑いやさまざまな疑問は今も解消されていない。 

 すでに決まった政策に従わざるを得ないという「既成事実への屈服」が、日本を戦争に導き、破滅の淵に追いやった歴史の事実を忘れてはならない。

 大学生らのグループ「SEALDs(シールズ)」などの市民団体は「法廃止」を掲げ、全国でデモや集会、署名活動を続けている。

 憲法の平和主義や立憲主義を守ろうという60年安保以来の大きなうねりを、どのように維持していくか。運動の側も試されている。

 最大の試金石は夏の参院選だ。


by asyagi-df-2014 | 2016-03-30 06:18 | 書くことから-憲法 | Comments(0)

壊される前に考えること。そして、新しい地平へ。「交流地帯」からの再出発。


by あしゃぎの人
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