大津地裁の高浜原発稼働禁止仮処分決定を考える。

 2016年3月9日の大津地裁の高浜原発稼働禁止仮処分決定について、考える。
 今回は、各新聞社が、この問題をどのように捉えているかをみる。
各紙の見出は次のものである。

①北海道新聞社説-「高浜」差し止め 決定を重く受け止めよ
②河北新報社説-高浜原発運転差し止め/なし崩し的な再稼働へ警鐘
③岩手日報論説-<震災5年>原発の「解禁」 福島の原点に立ち戻れ
④茨城新聞論説-高浜原発運転差し止め 原発のリスクに向き合え
⑤⑦信濃毎日新聞社説-高浜差し止め 決定を重く受け止めよ
⑥中日新聞社説-高浜原発に停止命令 フクシマを繰り返すな
⑦福井新聞論説-高浜原発運転差し止め 事故リスクに厳格な姿勢
⑧神戸新聞社説-高浜差し止め/原発の安全見直すべきだ
⑨山陽新聞社説-高浜原発差し止め 「福島」踏まえた重い警鐘
⑩山陰中央新報論説-東日本大震災と防災対策/総点検し万全の備えを
⑪愛媛新聞社説-高浜運転差し止め 国は脱原発にかじを切るべきだ
⑫高知新聞社説-【高浜差し止め】再稼働の在り方再検討を
⑬南日本新聞社説- [高浜差し止め] 原発回帰に見直し迫る
⑭沖縄タイムス社説-[大震災5年 原発事故]教訓生かされていない
⑮大分合同新聞論説-高浜原発運転差し止め 原発のリスクに向き合え
⑯朝日新聞社説-原発事故から5年 許されぬ安全神話の復活
⑰毎日新聞社説-高浜差し止め 政府も重く受け止めよ
⑱東京新聞社説-高浜原発に停止命令 フクシマを繰り返すな
⑲読売新聞社説-高浜差し止め 判例を逸脱した不合理な決定

 これは、2016年3月10日に、①から⑭までは「社説・論説 47ニュース」から、⑮以降はそれぞれのホームページから、大津地裁の高浜原発稼働禁止仮処分決定に関しての社説等を引用したものである。
 この見出しの一覧は、この高浜地裁の判断への評価をあらわしている。
ここで取りあげた19社の新聞社のうち、実に17社が、「なし崩し的な再稼働へ警鐘」といった表現を含めて、一定の評価を与えている。
 逆に言えば、読売の「判例を逸脱した不合理な決定」という言葉の使用例が、余りにも突出している。
 読売は、本当にどこに行こうとしているのか。
 さて、今回はこの内でわかりやすかった茨城新聞社と信濃毎日新聞社の社説を取りあげる。


(1)決定の意味(茨城新聞社)
①関西電力高浜原発3、4号機(福井県高浜町)の運転禁止を、隣接する滋賀県の住民が申し立てた仮処分で、大津地裁はこれを認める決定をした。仮処分の決定で運転中の原発が止まるのは初めてだ。
②東京電力福島第1原発事故から5年になるのを目前に、事故を受けて原子力規制委員会がまとめた新たな規制基準への審査に合格して再稼働した原発の運転に、司法が待ったをかけた形だ。
(2)決定内容の指摘(茨城新聞社)
①福島の事故の原因となった非常用電源対策として新規制基準が求めた対策について「このような備えで十分であるとの社会一般の合意が形成されたとはいってよいか、ちゅうちょせざるを得ない」と指摘。新規制基準やそれに基づく設置変更許可が「直ちに公共の安寧の基礎となると考えることをためらわざるを得ない」とした。
②申し立てをしたのは高浜原発から約70キロまでの滋賀県内の住民で、原発立地県ではない住民に対する広域的なリスクをどう判断するかも大きな焦点だった。これについて決定は、過酷事故の影響を受ける範囲は広く、計画通りの避難が困難で、住民が被ばくする可能性が高いとの見解を示し「住民の生命・身体の安全に対する権利が侵害されることになる」として仮処分を認めた。
③決定は、地方自治体が個別に策定する防災対策では不十分で「国家主導での具体的で可視的な避難計画が早急に策定されることが必要だ」と指摘した。国はこれを深刻に受け止めねばならない。原発防災対策を地方自治体任せにするのではなく、原発を運転する電力会社とそれを認めた国が、責任を持って具体的な防災計画をまとめるまで原発の再稼働を見合わせることも検討すべきだ。
④原発事故の原因究明も、責任の追及も不十分なまま新規制基準がつくられ、電力会社は再稼働に積極的だ。国も「原発を重要なベースロード電源」と位置づけ、エネルギー供給の中で重視する姿勢だ。だが、決定が指摘するように安全対策も防災対策も不十分で、規制基準を金科玉条として、新たな安全神話が生まれつつあるのが実情だ。
⑤決定は、事故が起これば「環境破壊の及ぶ範囲は我が国を越えてしまう可能性さえある」と指摘した。
(3)茨城新聞の結論
①すべての関係者が5年前のあの日を思い起こし、原発のリスクやコストに真剣に向き合うきっかけにしたい。新規制基準をパスした原発を再稼働させるという政府のエネルギー政策を見直し、あらためて国民的な議論を始めるべきだ。
②福島第1原発事故が日本人に教えた原発の巨大なリスクを軽視し、原発回帰を進める政府と電力会社への厳しい警告だと受け止めるべきだ。
③福島第1原発事故後に裁判所が運転を禁じた判断は3回目である。原発再稼働に否定的な司法判断が示され、脱原発を求める世論が過半であることなどを考慮すれば、原発回帰を進める現在のエネルギー政策が正当性を持つとは言い難い。2030年に原発の発電比率を20〜22%にするとの政府目標の達成も難しい。
④決定が指摘した原子力のリスクや原発を取り巻く現実に正面から向き合い、民主的で社会的公正に配慮したエネルギー政策の実現に方向転換すべきだ。
(4)判断の理由(信濃毎日新聞社)
①規制基準に対し、想定を超える災害に対応できる「十二分の余裕」を要求。対策の見落としで過酷事故が生じても「致命的な状態に陥らない思想で基準を策定するべきだ」と指摘した。その上で、新規制基準と高浜3、4号機の審査適合が「公共の安寧の基礎」になると考えるにはためらいがある、としている。
②地震対策や津波対策などが、考えられる最大限のリスクを考慮していない、という判断だ。
③福島原発事故は想定外の災害が発生すれば、幾重にも張り巡らせた対策が無力になることを浮き彫りにした。安全対策に対する地裁の判断は当然だ。
④大津地裁は2014年11月に同様の申し立てを却下している。その際にも同じ問題点は指摘していた。却下したのは「規制委がいたずらに早急に、再稼働を容認するとは考えがたい」と判断したからだ。今回の決定は規制委が地裁の信頼を裏切った結果だ。
(5)信濃毎日新聞社の主張
①仮処分決定で稼働中の原発が停止するのは初めてだ。経済的損失が出ても安全性に少しでも懸念があれば停止させる、との強い意思を司法が示したといえる。
②原発立地県以外の住民の請求を認めた意義も大きい。事故が起きれば、県境を越えて放射性物質が拡散し、広範囲に被害が及ぶ。それなのに原発の再稼働に対する同意権は立地自治体にしかない。少なくとも、避難計画の策定が必要な30キロ圏内の自治体には同意権を与えるべきだ。


 私たちはこの決定を受けて、まず、「福島第1原発事故が日本人に教えた原発の巨大なリスクを軽視し、原発回帰を進める政府と電力会社への厳しい警告だと受け止めるべきだ。」(茨城新聞社)、と捉え直す必要がある。
 このことは、企業・電力会社や政府だけでなく、日本国民の一人一人が、「危険は現に差し迫っているのである。」「効率より安全、経済より命-。憲法が保障する人格権に基づいて住民を守るという基本への回帰。」(中日新聞社)、という指摘を常に反芻することである。
 そしてそれは、「『原発ゼロ社会』の実現」(朝日新聞社)のために。

 以下、各新聞社の社説、論説、時評の引用。







①北海道新聞社説-「高浜」差し止め 決定を重く受け止めよ-2016年3月10日


 関西電力高浜原発3、4号機(福井県高浜町)の運転差し止めを求めた仮処分申請で、大津地裁が差し止めを認める決定をした。

 3、4号機は原子力規制委員会の新規制基準に合格し、再稼働した原発だ。

 だが、決定は新基準そのものへの不安を指摘し、「過酷事故対策に危惧すべき点があるのに、安全性の確保について説明していない」と断じた。

 再稼働直後の原発が司法判断によって止まるのは異常事態だ。

 政府と関電は判断を重く受け止め、再稼働の是非を含めて、抜本的な安全対策の見直しを進める必要がある。

 3、4号機の差し止め仮処分をめぐっては、2014年に同地裁が「規制委が早急に再稼働を容認するとは考えがたい」として、申請を却下していた。

 いわば、関電に対し、再稼働までに十分な安全対策を講じるよう「宿題」を出した形だった。

 今回はその同じ裁判長が、安全とする根拠について関電は十分説明していないと厳しく指摘した。

 その上で、新基準や3、4号機の再稼働許可は「公共の安寧の基礎になると考えることをためらわざるを得ない」とし、安全性に大きな疑問を投げかけた。

 決定は、安全かどうかの立証責任は電力会社側にあるとし、原発による発電コストより、原発事故が生じた場合の環境破壊の方が重いと言及した。

 関電は異議を申し立てる方針だ。あくまで関電が再稼働するというなら、あらためて安全性の根拠について、納得できる説明を尽くさねばならない。

 決定は、事故が起きた場合の避難経路などを定めた地域防災計画は、市町村などではなく国が主導して策定すべきだとも強調した。国はこれに応える責任がある。

 今回、差し止めを申し立てたのは、福井県民ではなく高浜原発から30キロ以上離れた滋賀県民だ。

 函館市は、最短23キロの電源開発大間原発(青森県大間町)の建設差し止めを求めて係争中だ。

 現在、市が原発立地県外であることから、訴える資格があるかどうか争っている。今回の判断は、この訴訟にも影響を与えよう。

 東日本大震災から5年。東京電力福島第1原発事故によって、避難が長期化するなどの広域被害は収束の見通しが立っていない。

 原発に対する国民の不安は根強い。大津地裁の決定は、それに応えたものといえる。


②河北新報社説-高浜原発運転差し止め/なし崩し的な再稼働へ警鐘-2016年3月10日


 運転中の関西電力高浜原発3号機、再稼働直後のトラブルで停止中の4号機(ともに福井県高浜町)について、大津地裁がきのう、運転を差し止める仮処分決定を出した。
 関電は速やかに不服を申し立てるとのコメントを発表。確定までさらに時間を要することになるが、司法判断で稼働中の原発が止まるのは全国初。原子力規制委員会の新規制基準への適合性審査に合格し再稼働した原発の運転を禁じたのも初めてだ。
 高浜原発から約70キロも離れた隣接の滋賀県の住民が申し立てた仮処分を認めた点も注目される。再稼働を進める政府のエネルギー政策や、再稼働を前提とする電力会社の経営戦略への影響は避けられないだろう。
 3、4号機の運転差し止めをめぐっては、二転三転の特異な経過をたどった。
 大津地裁が2014年に申し立てを却下した。福井地裁が同年、再稼働を認めない仮処分を決定したが、福井地裁が15年、決定を取り消し、そして今回、大津地裁が運転差し止めの仮処分を決定した。
 上級審で覆るなどして、差し止めが「確定」したケースはないが、東京電力福島第1原発の過酷事故後、地裁段階で複数の裁判官が運転差し止めを認めた事実は軽くない。司法判断が揺れ、今後相次ぐ可能性も否定できまい。
 安全神話がもろくも崩れた福島の事故を受け、安全性の確保に懸念が生じ、「世界一厳しい」と称する新たな規制基準に適合しても、安全性の「お墨付き」と評価しきれない司法の認識を示すと受け止めるべきだ。
 今回の大津地裁は「福島の事故を踏まえた過酷事故についての設計思想や外部電源に依拠する緊急時対応、耐震基準策定に問題点があり、津波対策や避難計画に疑問が残る」と判断した。
 差し止めの決定理由は詳細で、根本的な課題を突き付けられた政府や関電の衝撃は小さくないに違いない。
 今回の裁判長は前回、「再稼働は迫っておらず必要はない」と差し止めの申し立てを却下した。同じ裁判長が再稼働後の今回は運転に「否」の判断を示しており、その真意にも目を凝らす必要がある。
 福島の事故について、原因などの解明が尽くされていない中で、誰が安全性を保証し、不幸にして事故が発生した場合、誰が責任を負うのか。多くの点で曖昧なままだ。
 新規制基準ができても事故ゼロを担保するものではなく、万一に備える避難については、規制委の審査対象にもなっていない。
 各種世論調査で早期の原発再稼働に否定的な見方が多い。そうした中、4号機は再稼働直後のトラブルで原子炉が緊急停止。国民の信頼回復がまた遠のく状況にもある。
 不安を置き去りにして、原発を再稼働しても順調な進展は望み難い。
 福島の事故から5年。今回の司法判断は、なし崩し的に原発回帰に動く政府や電力会社に対する「拙速」の戒めだろう。司法の問題提起に真(しん)摯(し)に向き合い、まずは安全と信頼のレベル向上に努めるべきだ。


③岩手日報論説-<震災5年>原発の「解禁」 福島の原点に立ち戻れ-2016年3月10日


 「原発解禁」にかじを切った政府にとって衝撃的な「運転中止命令」だ。関西電力高浜原発3、4号機(福井県)に対し大津地裁が運転差し止めの仮処分を決定。稼働中の原発では初のケースとなる。

 東京電力福島第1原発事故後、国内は「稼働ゼロ」の空白期もあった。だが、昨年以来、新規制基準下での再稼働が相次いでいる。

 しかし、新基準に適合して運転を始めた原発に対する差し止め。司法の厳しい判断が今後、政府のエネルギー政策や電力会社の方針に大きな打撃を与えるのは必至だ。

 福島の事故から5年。原因が十分究明されないままに、「脱原発」の政策は維持・推進方向に転換。再稼働がこれからも続くのは既定路線となっていた。

 決定はそれへの警鐘。あらためて「安全」について考える機会としたい。

 もし、もう一度過酷事故が発生したら、日本が存亡の危機に直面するかもしれない。そんな国難を招かないためには、原発を無くすることが一番だ。稼働するにしても危険回避に最大限努力すべきだ。

 しかし、このところ憂慮すべき姿勢がみられる。

 その一つが老朽原発の「延命」だ。関西電力は40年超となる高浜1、2号機の「60年運転」に向けた審査を昨年申請。原子力規制委員会は先ごろ事実上の合格を出した。

 福島の事故の教訓に立って法律が定めた運転期間は「原則40年」。あくまで特例措置のはずの運転延長は今回、多額の資金投入による安全対策が評価され認められたが、前例になればルールは骨抜きとなる。

 憂慮すべき姿勢のもう一つは、新基準下で再稼働第1号となった九州電力川内(せんだい)原発(鹿児島県)の施設整備。事故時の対応拠点となる免震重要棟の新設を撤回、既存施設拡充の方針に転換した。

 これは危機管理に対する意識の欠如ではないのか。福島事故当時の東電社長が後に「あれ(免震重要棟)がなかったら、と思うとぞっとする」と語っていた施設だ。

 川内原発は避難計画の実効性確保などの課題を残したまま再稼働に踏み切っている。消えたはずの「安全神話」がよみがえってはいないか。

 基本的な原則に外れていても、安全対策上の問題が指摘されても、次々「解禁」されてきた再稼働。事故を受けて目指したはずの「脱原発」に逆行する流れとなっている。

 あらためて5年前を原点に考えたい。本県を含め広大な範囲に被害を及ぼした事故。あの時、原発ありきの社会から転換を目指したはずだ。その意味でも、事故対策を厳しく指摘した司法判断を重く受け止めたい。


④茨城新聞論説-高浜原発運転差し止め 原発のリスクに向き合え-2016年3月10日


関西電力高浜原発3、4号機(福井県高浜町)の運転禁止を、隣接する滋賀県の住民が申し立てた仮処分で、大津地裁はこれを認める決定をした。仮処分の決定で運転中の原発が止まるのは初めてだ。

東京電力福島第1原発事故から5年になるのを目前に、事故を受けて原子力規制委員会がまとめた新たな規制基準への審査に合格して再稼働した原発の運転に、司法が待ったをかけた形だ。

すべての関係者が5年前のあの日を思い起こし、原発のリスクやコストに真剣に向き合うきっかけにしたい。新規制基準をパスした原発を再稼働させるという政府のエネルギー政策を見直し、あらためて国民的な議論を始めるべきだ。

決定は、福島の事故の原因となった非常用電源対策として新規制基準が求めた対策について「このような備えで十分であるとの社会一般の合意が形成されたとはいってよいか、ちゅうちょせざるを得ない」と指摘。新規制基準やそれに基づく設置変更許可が「直ちに公共の安寧の基礎となると考えることをためらわざるを得ない」とした。

申し立てをしたのは高浜原発から約70キロまでの滋賀県内の住民で、原発立地県ではない住民に対する広域的なリスクをどう判断するかも大きな焦点だった。

これについて決定は、過酷事故の影響を受ける範囲は広く、計画通りの避難が困難で、住民が被ばくする可能性が高いとの見解を示し「住民の生命・身体の安全に対する権利が侵害されることになる」として仮処分を認めた。

決定は、地方自治体が個別に策定する防災対策では不十分で「国家主導での具体的で可視的な避難計画が早急に策定されることが必要だ」と指摘した。国はこれを深刻に受け止めねばならない。原発防災対策を地方自治体任せにするのではなく、原発を運転する電力会社とそれを認めた国が、責任を持って具体的な防災計画をまとめるまで原発の再稼働を見合わせることも検討すべきだ。

原発事故の原因究明も、責任の追及も不十分なまま新規制基準がつくられ、電力会社は再稼働に積極的だ。国も「原発を重要なベースロード電源」と位置づけ、エネルギー供給の中で重視する姿勢だ。

だが、決定が指摘するように安全対策も防災対策も不十分で、規制基準を金科玉条として、新たな安全神話が生まれつつあるのが実情だ。

決定は、事故が起これば「環境破壊の及ぶ範囲は我が国を越えてしまう可能性さえある」と指摘した。福島第1原発事故が日本人に教えた原発の巨大なリスクを軽視し、原発回帰を進める政府と電力会社への厳しい警告だと受け止めるべきだ。

福島第1原発事故後に裁判所が運転を禁じた判断は3回目である。原発再稼働に否定的な司法判断が示され、脱原発を求める世論が過半であることなどを考慮すれば、原発回帰を進める現在のエネルギー政策が正当性を持つとは言い難い。2030年に原発の発電比率を20〜22%にするとの政府目標の達成も難しい。

決定が指摘した原子力のリスクや原発を取り巻く現実に正面から向き合い、民主的で社会的公正に配慮したエネルギー政策の実現に方向転換すべきだ。


⑤信濃毎日新聞社説-高浜差し止め 決定を重く受け止めよ-2016年3月10日


 東京電力福島第1原発の事故から、あすで5年。事故の教訓を真正面から受け止めた意義のある決定だ。

 大津地裁がきのう、関西電力高浜原発3、4号機(福井県高浜町)の運転を差し止める仮処分を決定した。関電は営業運転中の3号機をきょう停止する。トラブルで停止中の4号機も再稼働できない。

 仮処分決定で稼働中の原発が停止するのは初めてだ。経済的損失が出ても安全性に少しでも懸念があれば停止させる、との強い意思を司法が示したといえる。

 3、4号機は原子力規制委員会の新規制基準に適合している。政府が「世界一厳しい」とする規制委の新規制基準と審査に対する司法の異議でもある。

 関電と政府、規制委は決定に真摯(しんし)に向き合うべきだ。高浜原発だけでなく、審査中の全ての原発について、最大限のリスクに対応した安全性が確保されているのか、十分に検証する必要がある。

 今回の決定で大津地裁が問題があると判断したのは、過酷事故対策についての設計思想や、緊急時対応、耐震基準策定、津波対策、避難計画などだ。

 判断の理由は明快だ。

 規制基準に対し、想定を超える災害に対応できる「十二分の余裕」を要求。対策の見落としで過酷事故が生じても「致命的な状態に陥らない思想で基準を策定するべきだ」と指摘した。その上で、新規制基準と高浜3、4号機の審査適合が「公共の安寧の基礎」になると考えるにはためらいがある、としている。

 地震対策や津波対策などが、考えられる最大限のリスクを考慮していない、という判断だ。

 福島原発事故は想定外の災害が発生すれば、幾重にも張り巡らせた対策が無力になることを浮き彫りにした。安全対策に対する地裁の判断は当然だ。

 大津地裁は2014年11月に同様の申し立てを却下している。その際にも同じ問題点は指摘していた。却下したのは「規制委がいたずらに早急に、再稼働を容認するとは考えがたい」と判断したからだ。今回の決定は規制委が地裁の信頼を裏切った結果だ。

 原発立地県以外の住民の請求を認めた意義も大きい。

 事故が起きれば、県境を越えて放射性物質が拡散し、広範囲に被害が及ぶ。それなのに原発の再稼働に対する同意権は立地自治体にしかない。少なくとも、避難計画の策定が必要な30キロ圏内の自治体には同意権を与えるべきだ。


⑥中日新聞社説-高浜原発に停止命令 フクシマを繰り返すな-2016年3月10日


 稼働中の原発を司法が初めて止める。関西電力高浜3、4号機の安全性は不十分だからと。国民の命を守る司法からの重いメッセージと受け止めたい。

 3・11から五年を前に、司法の良識を見たようである。住民の安堵(あんど)の声も聞こえてくるようだ。

 3・11後、再稼働した原発の運転の可否をめぐる初めての司法判断は、原発は「危険」と断じただけでなく、事故時の避難計画策定も十分でないままに、原発の再稼働を「是」とした原子力規制委員会の「合理性」にも、「ノー」を突きつけた。

よみがえった人格権
 大津地裁の決定は、高浜原発3、4号機が、そもそも危険な存在だという前提に立つ。

 その上で、最大の争点とされた基準地震動(耐震設計の目安となる最大の揺れ)に危惧すべき点があり、津波対策や避難計画についても疑問が残るとし、住民の「人格権」が侵害される恐れが高い、と判断した。

 昨年暮れ、福井地裁が危険性は「社会通念上無視し得る程度まで管理されている」と切り捨てて、同地裁が下していた両機の運転差し止めの判断を覆したのとは、正反対の考え方だ。

 一昨年の十一月、大津地裁も「避難計画などが定まらない中で、規制委が早急に再稼働を容認するとは考え難く、差し迫る状況にはない」と申し立てを退けていた。

 ところが、規制委は「避難計画は権限外」と、あっさり容認してしまう。

 今回の決定からは、そんな規制委への不信さえうかがえる。危険は現に差し迫っているのである。

 住民の命を守り、不安を解消するために、今何が足りないか。3・11の教訓を踏まえて、大津地裁は具体的に挙げている。

 ▽建屋内の十分な調査を踏まえた福島第一原発事故の原因究明▽事故発生時の責任の所在の明確化▽国家主導の具体的な避難計画▽それを視野に入れた幅広い規制基準-。私たちが懸念してきたことでもある。

 県外住民からの訴えを認めたことで、原発の“地元”を立地地域に限定してきた電力会社や政府の方針も明確に否定した。

 そして、その上で言い切った。

 「原子力発電所による発電がいかに効率的であり、コスト面では経済上優位であるとしても、その環境破壊の及ぶ範囲は我が国さえも越えてしまう可能性さえある。単に発電の効率性をもって、これらの甚大な災禍と引き換えにすべき事情であるとは言い難い」

過酷事故が具体論へと

 効率より安全、経済より命-。憲法が保障する人格権に基づいて住民を守るという基本への回帰。司法の常識が働いた。

 五年前、東日本大震災による福島第一原発の事故が起きる前まで、司法は原発事故と真剣に向き合っていたといえるだろうか。「起きるはずがない」という安全神話に司法まで染まっていたのではないだろうか。

 震災前までは多くの原発訴訟の中で、二〇〇三年のもんじゅ訴訟控訴審(名古屋高裁金沢支部)と〇六年の志賀原発訴訟一審(金沢地裁)の二つの判決以外は、すべて原告が負け続けていた。

 この二つの判決も上級審で取り消され、原告敗訴に終わっている。原発差し止め-という確定判決は一つも存在しなかった。

 ただ、「レベル7」という福島原発の事故を目の当たりにして、司法界でも過酷事故は抽象論から具体論へと変質したはずだ。

 司法は原発問題で大きな存在だ。経済性よりも国民の命を守ることの方が優先されるべきなのは言うまでもない。司法が国民を救えるか-。

 その大きな視点で今後の裁判は行われてほしい。

 現に動いている原発を止める-。重い判断だ。しかし、国会、行政とともに三権のうちにあって、憲法のいう人格権、人間の安全を述べるのは司法の責務にちがいない。

 繰り返そう。命は重い。危険が差し迫っているのなら、それは断固、止めるべきである。

規制委は変われるか

 対策も不十分なままに、四十年を超える老朽原発の再稼働が認められたり、再稼働の条件であるはずの免震施設を建設する約束が反故(ほご)にされてしまったり、規制委の審査にパスした当の高浜4号機が、再稼働直前にトラブルを起こしたり…。

 再稼働が進むのに比例して、住民の不安は増している。

 規制委は、司法の重い判断を受け止めて、審査の在り方を大きく見直すべきだ。

 政府は福島の現状も直視して、再稼働ありきの姿勢を根本から改めるべきである。


⑦福井新聞論説-高浜原発運転差し止め 事故リスクに厳格な姿勢-2016年3月10日

 関西電力高浜原発3、4号機の再稼働差し止めを隣接する滋賀県の住民が申し立てた仮処分について、大津地裁(山本善彦裁判長)は、運転を差し止める決定をした。決定は直ちに効力を持つため、関電は運転中の3号機を停止させる。仮処分決定で稼働中の原発が止まる例は初めて。関電は不服を申し立てる方針だが、緊急停止した4号機も対策を講じても再稼働できず異例の事態だ。

 東京電力福島第1原発事故後、原発の再稼働や運転を禁じた司法判断は3例目となる。しかし、原子力規制委員会の新規制基準の適合性審査に合格し、再稼働した原発に「待った」をかけたのは初のケース。国の原子力行政と規制に与える影響は深刻である。

 申し立てたのは原発から約70キロまでの滋賀県内の住民だ。「過酷事故が起きれば、琵琶湖の汚染で近畿一帯の飲料水に影響が出る」との訴えは、広域に及ぶ原子力災害の問題を浮き彫りにしたともいえる。

 争点は新規制基準の妥当性や審査のあり方、地震・津波対策、過酷事故対策などだった。山本裁判長は「発電の効率性を甚大な災禍と引き換えにはできない」として福島原発事故を踏まえた過酷事故対策や耐震基準策定、津波対策にも疑問が残るとした。避難計画についても、地方自治体の防災対策では不十分で「国家主導での具体的で可視的な避難計画が早急に策定されることが必要だ」と指摘した。言葉は丁寧だが、対策を「全否定」したに等しい。

 高浜3、4号機は昨年4月にも福井地裁が再稼働を差し止める決定を出したが、同年12月に別の裁判長が取り消した。大津地裁では同様の仮処分申し立てに関し2014年11月、山本裁判長が「再稼働は迫っておらず、差し止めの必要性はない」と却下していた。

 このように真逆の判断が出るような状況は異常だ。そのたびに住民や国、電力事業者が振り回される。

 昨年4月の福井地裁決定や15年4月の九州電力川内原発1、2号機の運転差し止め仮処分申し立てでは、専門家の意見を尊重した国に広い裁量権を与えた四国電力伊方原発(愛媛県)行政訴訟の最高裁判決(1992年)を踏襲する姿勢を示した。新規制に一定の評価を与えるものだった。

 4月の福井地裁決定は、新規制の枠組みに合理性を認め、原発の危険性についても「社会通念上、無視できる程度にまで管理されているかどうか」で判断されるべきとした。リスクをどう現実判断するかの視点だ。

 しかし、今回の仮処分決定は、科学的、専門技術的知見を踏まえた安全性の根拠、責任を電力側に求め「主張および疎明が尽くされない場合には、電力会社の判断に不合理な点があることが事実上推認されるものというべきである」と厳格な判断を示した。

 福島原発事故から5年たっても避難住民の帰還ができない状況がある。原発訴訟は住民の波状攻撃のように全国で起き、高浜原発も名古屋高裁金沢支部で抗告審が進行中だ。原発に依拠する政府のエネルギー政策はこのままでよいのか。国の「再稼働ありき」の姿勢が厳しく問われている。

⑧神戸新聞社説-高浜差し止め/原発の安全見直すべきだ-2016年3月10日


再稼働した原発の運転を止める異例の司法判断である。

 滋賀県の住民が関西電力高浜原発3、4号機(福井県)の運転差し止めを求めた仮処分申請で大津地裁が差し止めを認める決定をした。

 決定を受け、関電は1月に再稼働した3号機の運転を停止する。先月再稼働した4号機は原子炉の緊急停止トラブルで停止中だ。

 運転中の原発を司法が止めるのも立地県以外の住民の訴えに司法が応えたのも、共に初めてである。政府や原子力規制委員会、関電は決定を謙虚に受け止めねばならない。

 裁判で滋賀県民が訴えたのは、3、4号機で考えられる最大の揺れの強さである基準地震動を、700ガル(加速度)とした関電の想定や新規制基準の妥当性だ。

 住民側は、関電の想定は「安全を担保するのに不十分」とし、事故が起きれば滋賀県民も被ばくし、琵琶湖の汚染で近畿地方の飲料水に影響すると主張した。新規制基準も安全レベルは低く、実効性のある避難計画も作られていないと訴えた。

 地裁は「過酷事故に対する設計思想や緊急時の対応、耐震基準策定の問題点があり、津波対策や避難計画にも疑問が残る」とした。住民側の主張を、ほぼ受け入れた形だ。

 高浜3、4号機は2011年3月の原発事故後に国が策定した新規制基準に基づく安全審査を経て再稼働した。しかし決定は、新基準や規制委の安全審査は安全の担保にならないと指摘した。

 こうした司法判断が近年、相次いでいる。一つは関電大飯原発3、4号機(福井県)の運転差し止めを決めた2014年5月の福井地裁判決(二審で審理中)だ。高浜3、4号機の再稼働差し止めの仮処分を決めた15年4月の決定もある。

 共通するのは、原発の安全をより厳格に見極めようという姿勢だ。再稼働で得られる電力供給の安定性や経済性よりも、環境権や生存権を最優先する考え方は一貫している。原発事故に真剣に向き合う司法の姿勢に多くの国民は共感するだろう。

 政府は「再稼働を進める方針は変わらない」とし、関電も不服申し立ての構えだが、本当に再稼働できるような状況なのか。原発の安全性について、司法が2度ならず3度も疑問を呈した意味は極めて重い。立ち止まって考え直すべきだ。


⑨山陽新聞社説-高浜原発差し止め 「福島」踏まえた重い警鐘-2016年3月10日


 東京電力福島第1原発事故から5年を迎え、政府や電力会社が新規制基準に適合した原発の再稼働を進める中、原発の安全性に対して司法があらためて疑問を呈した。

 関西電力高浜原発3、4号機(福井県)の運転禁止を滋賀県の住民が申し立てた仮処分で、大津地裁は関電に運転差し止めを命じた。福島の事故を受けて策定された新規制基準への適合審査に合格し再稼働した原発に対し、運転を禁じたのは初めてだ。福島の事故を踏まえた極めて重い判断といえよう。

 住民側は、原発の耐震設計の目安となる地震の揺れ「基準地震動」について、関電の設定では安全性が確保できないなどと主張。事故が起きれば放射性物質の拡散で滋賀県の住民も被ばくし、琵琶湖の汚染で近畿一帯の飲み水にも影響が出ると訴えていた。

 注目されるのは、関電の安全対策に関して不十分さを指摘した点だ。山本善彦裁判長は「関電側の主張では福島の原発事故を踏まえた過酷事故対策についての設計思想や、外部電源に依存する緊急時対応、耐震基準の策定に問題点がある。津波対策や避難計画にも疑問が残る」とした。

 新規制基準自体についても、福島の事故の原因究明が進んでいない状況を重視し「公共の安心、安全の基礎と考えるのはためらわざるを得ない」と疑問を投げ掛けた。

 安倍政権は原発を「重要なベースロード電源」と位置付けており「世界一厳しい」とされる新規制基準に適合した原発を再稼働させる方針を掲げてきた。この方針の下、九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県)と高浜原発3、4号機の4基が再稼働した。このうち高浜4号機は先日、再稼働直後にトラブルで原子炉が停止している。

 今回の決定を受けた記者会見でも、菅義偉官房長官は「原子力規制委員会が専門的見地から十分時間をかけて世界最高水準と言われる新規制基準に適合すると判断した。政府としてはその判断を尊重する」と、従来の方針に変わりはない考えを強調した。

 だが、原発の審査について、原子力規制委の田中俊一委員長はこれまで「基準の適合性を審査した。安全だということは申し上げない」と述べ、審査は必ずしも原発の安全性を担保したものではないとの認識を示してきた。

 今回の決定は、再稼働した原発や再稼働への審査が進む原発の安全性について、厳しく警鐘を鳴らしたといえる。政府のエネルギー政策への影響は避けられまい。

 原発に対する国民の不安は拭えていない。核のごみ処理など懸案も先送りしたまま再稼働を進める政府や電力会社の姿勢には疑問も大きい。国や事業者は不安や懸念に真摯(しんし)に向き合うべきだ。


⑩山陰中央新報論説-東日本大震災と防災対策/総点検し万全の備えを-2016年3月10日


 東日本大震災の教訓を受けて南海トラフ巨大地震、首都直下地震などに備えた防災態勢が整備されてきた。津波対策では、防潮堤だけで住民を守ることは難しく、揺れがあったらまず「逃げる」対応も組み合わせた取り組みが進んでいる。

 津波から逃げるための避難ビルの指定、避難タワーの建設、高台に逃げるための階段の整備などは、国の支援もあり充実してきた。課題は、家族が周辺にいない高齢者や障害者ら「災害避難時の要支援者」の避難だ。

 改正災害対策基本法では名簿の作成が義務付けられ、どこに住んでいるのかは分かるようになったが、まだ不十分だ。自ら逃げる「自助」に加えて、隣近所で助け合う「共助」が重要で、特に要支援者には共助が不可欠だ。

 しかし、若者の流出や高齢化によって、要支援者と一緒に行動できる人が限られている。消防団の人からは、津波の際に助けに行くのは命の危険もあり、団員に命令はできないという悩みも聞く。

 共同通信の全国自治体アンケートでは、要支援者は全国で少なくとも586万人に達する。一緒に逃げる人と、その避難先を明記した「個別計画」の策定済みは、全市区町村の1割超しかない。

 町内会や自主防災組織に支援を要請するしかないが、現状では限界があるだけに、てこ入れ策が必要だ。

 長期的には、まちづくりによって避難せずに済むようにすることが重要だ。老人ホームや病院、幼稚園、学校などの施設は、建て替えに合わせ、津波などの被害が想定されない安全な地域に移転することを原則とすべきだろう。

 被災地では、被害を受けた海沿いの集落を高台に移す事業も盛んだ。他の地域でも地震に備え、安全な場所に今から集団移転することも検討するべきではないか。

 大震災の記憶が風化するにつれ、避難や安全への意識が薄れるようでは困る。住民の生命、財産を守る責任がある自治体の長は、長期的な視点に立って、できるだけ安全な地域に人が住むように都市計画などの手法を活用し、誘導してほしい。

 東日本大震災では、仮設住宅だけで被災者を収容することができず、民間の賃貸住宅を借り上げる「みなし仮設」の制度が導入された。今後はみなし仮設に住む被災者への家賃補助をいつ打ち切るのかが焦点となる。もともと住んでいた地域の仮設住宅がなくなるタイミングに合わせるのが現実的な対応策だろう。

 全国の空き家は820万戸と推定される。巨大地震が起きた場合は、今後も仮設住宅の建設だけでは限界があり、空き家も活用した「みなし仮設」を中心とすべきだ。そのためには、入居ルールの明確化が必要だし、被災者の孤立を防ぐ方策も早急に整えるべきだ。

 震災を受け、火災を防ぐため揺れを検知し電気を遮断する「感震ブレーカー」の導入、3日分の食料や水の備蓄が提唱された。震災時に路上に放置された自動車や交通の混雑により消火や救急の活動に支障が出ることも懸念されている。これらの取り組み状況とともに、大規模な訓練を通じて、現在の防災体制の実効性をチェックし、万全を期してもらいたい。


⑪愛媛新聞社説-高浜運転差し止め 国は脱原発にかじを切るべきだ- 2016年03月10日


 立地県以外の住民の不安を正面から受け止めた重い判断といえる。関西電力高浜原発3、4号機(福井県)の運転禁止を滋賀県の住民が申し立てた仮処分で、大津地裁が運転を差し止める決定をした。停止中の4号機は再稼働できず、運転中の3号機は停止させることになる。
 山本善彦裁判長が重視したのは、東京電力福島第1原発事故を踏まえた過酷事故対策の不十分さだ。「設計思想や外部電源に依拠する緊急時対応、耐震基準策定の問題点がある」と指摘し、津波対策や避難計画にも疑問が残ると断じた。
 3、4号機の事故対策が原子力規制委員会の審査に「合格」していることを考えれば、政府が「世界一厳しい」と強調する新規制基準に疑問を呈したとも映る。避難計画の実効性を含めて全国の多くの原発に当てはまる可能性があり、原発回帰の動きに対する司法の警鐘だと肝に銘じるべきだ。政府は原発に依存しない社会へと、速やかにかじを切らねばならない。
 決定は、事故の懸念について「環境破壊が国外に及ぶ可能性さえある」と述べた。住民らは放射性物質の拡散で琵琶湖が汚染され、近畿一帯の飲み水に影響が出ると訴えていた。ひとたび事故が起きれば、立地県も隣接地域もないのは当然だ。立地か隣接かで再稼働の同意手続きなどに差をつけてきた姿勢を、政府や原発事業者は真摯(しんし)に省みるとともに、周辺住民の不安に向き合う必要がある。
 福島の事故後、原発の再稼働や運転を禁じた司法判断は3例目だ。昨年4月には福井地裁が「新規制基準は合理性を欠く」などとして高浜3、4号機の再稼働を認めない仮処分決定を出し、12月に別の裁判長が取り消した。今年1月には3号機が再稼働。4号機も先月再稼働したが、原子炉が緊急停止するトラブルで運転を止めていた。
 未曽有の原子力災害から、あすで5年になる。教訓を未来に生かすことは、国策として原発を推し進めた政府や電力会社はもちろん、社会に突きつけられた重い課題のはずだ。
 ところが政府は今、まるで事故がなかったかのように原発回帰を加速させている。エネルギー基本計画では、将来にわたり重要なベースロード電源と位置付けた。避難計画の実効性向上や事故対応拠点整備を棚上げして再稼働を急ぐ政府や電力会社の姿勢からは、教訓を生かそうという意思が感じられない。
 山本裁判長は「単に発電の効率性をもって甚大な災禍と引き換えにすべき事情だとは言い難い」とも指摘した。経済性に重きを置くのは関電だけではあるまい。「安全性の確保について説明を尽くしていない」と批判されたことを、電力業界全体で受け止めてもらいたい。
 差し止めを申し立てた住民からは「福島に学んだ判断」と決定を評価する声が上がった。政府は福島の教訓に鑑み、脱原発への道筋を早急に示すべきだ。


⑫高知新聞社説-【高浜差し止め】再稼働の在り方再検討を-2016年03月10日


 東京電力福島第1原発事故から5年を前に、原発再稼働のありようを問い直す司法判断が示された。
 関西電力高浜原発3、4号機(福井県高浜町)の運転禁止を隣接する滋賀県の住民が申し立てた仮処分で大津地裁が、運転を差し止める決定をした。関電は2基のうち運転中の3号機を停止させる。
 異例の展開といえよう。高浜3、4号機は昨年4月、福井地裁が再稼働を認めない仮処分決定をした後、同年12月に同地裁の別の裁判長が取り消し、今年1月、再稼働したばかりだった。それが隣県の司法判断により再び運転が禁じられた。
 仮処分決定で運転中の原発が止まるのは全国でも例がないという。各地の原発再稼働に影響を与える可能性がありそうだ。
 昨年、再稼働を禁じた福井地裁は規制基準に「万が一にも深刻な災害が起きないといえる厳格さ」を求めて注目された。
 大津地裁は今回、関電が示した事故対策について「(関電の)備えで十分だとの社会一般の合意が形成されたといって良いか」と疑問を投げかけた。地震の想定や避難計画にも問題点を指摘し、「関電は安全性の確保について説明を尽くしていない」と断じた。
 原発の技術や事故対策はとかくブラックボックスになりがちだ。住民目線でのより厳格な安全確保と責任ある説明を求めたといえよう。再稼働を推進する安倍政権や電力会社は重く受け止めなければならない。
 福島第1原発事故後、原発の再稼働や運転を禁じた司法判断はいずれも福井地裁による関電大飯原発3、4号機の差し止め訴訟判決と高浜3、4号機の仮処分決定に続く3例目となる。
 一方で、鹿児島地裁は昨年、九州電力川内(せんだい)原発1、2号機について申し立てを却下し、大津地裁も2014年に高浜3、4号機について却下した経緯がある。
 司法判断がこうして目まぐるしく変わるのは、原発の安全性の確保がそれだけ困難であり、検証と論議を重ねる必要がある証しだ。政官財界でつくる「原子力ムラ」の論理では安全が確保できないのは福島第1原発事故で明らかである。
 しかし、安倍政権は、30年の電源の原発比率を「20~22%」とするエネルギー政策を掲げている。これは原発を増設したり、原発寿命を延長したりしない限り、達成できない数値だ。
 菅官房長官は大津地裁の決定に対しても記者会見で、「再稼働を進める方針に変わりない」と述べている。原発のない社会を望む多くの国民の意識とは懸け離れている。
 新基準を「世界一厳しい」とし、原発再稼働を進める政府や業界は、いま一度、再稼働の在り方を再検討すべきだ。新規制基準による審査で合格し、再稼働した原発の運転を禁じるのも初めてのケースとなる。原子力規制委員会にも重い課題が突き付けられている。


⑬南日本新聞社説- [高浜差し止め] 原発回帰に見直し迫る-2016年3月10日


 東京電力福島第1原発の未曽有の事故から5年を前に、事故を受けて作られた新規制基準を「世界一厳しい」と強調し、原発回帰を鮮明にする政府に見直しを迫る司法判断だ。

 関西電力高浜原発3、4号機(福井県高浜町)の運転禁止を隣の滋賀県の住民が求めた仮処分で、大津地裁が運転差し止めを命じる決定をした。

 運転中の原発が司法判断で止まるのは初めてだ。決定はすぐ効力が生じ、関電は稼働中の3号機を停止させる。

 今後、決定は上級審で覆る可能性がある。だが、原子力規制委員会の新規制基準への適合性審査に合格して再稼働した、原発の運転を禁じた意味は重い。

 関電と政府は決定を真摯(しんし)に受け止めるべきだ。再稼働に前のめりの政府は、エネルギー政策を見直す契機にしてもらいたい。

 高浜3、4号機については、1年近く前にも再稼働差し止めの仮処分で、再稼働を認めない判断が示された。2度にわたる差し止めの決定を、関電や政府は肝に銘じてほしい。

 今回の決定は、高浜原発から約70キロまでの滋賀県住民の訴えを認めた。広域被害や地元同意の範囲も再考を促したと言える。

 山本善彦裁判長は「福島の事故を踏まえた過酷事故対策についての設計思想や、外部電源に依拠する緊急時対応、耐震基準策定の問題点があり、津波対策や避難計画にも疑問が残る」と指摘した。

 住民側の「関電の基準地震動(原発の耐震設計の目安となる地震の揺れ)では、安全性を確保できず、津波対策も過去の記録などを無視して不十分」という主張に沿った判断だろう。「新基準による対策で安全性に問題はない」との関電の主張は退けた。 

 高浜原発の半径30キロ圏には京都府と滋賀県の8市町が含まれ、人口は京都府の方が福井県より2倍以上多い。だが、地元同意は福井県と高浜町だけだった。

 決定は、福島の事故を念頭に「原発事故が発生すれば、環境破壊は国外に及ぶ可能性さえあり、単に発電の効率性をもって甚大な災禍と引き換えにすべき事情だとは言い難い」とした。

 国外にまで言及したことを考えれば、「事故が起きれば滋賀県でも多くの住民が被ばくする」との危惧をくんだことは明らかだ。

 関電は不服申し立ての手続きを急ぐ考えだ。政府も再稼働を進める方針に変わりはないという。だが、必要なのは「安全神話」が崩壊した福島の事故をいま一度省みることではないか。


⑭沖縄タイムス社説-[大震災5年 原発事故]教訓生かされていない-2016年3月10日


 東日本大震災から5年を迎える。史上最悪となった東京電力福島第1原発事故の節目に合わせるかのように、原発再稼働を急ぐ政府や電力会社に対し強く警告し、待ったをかける司法の決定が出た。

 関西電力高浜原発3、4号機(福井県高浜町)の運転禁止を求め、隣接する滋賀県の住民らが申し立てた仮処分で、大津地裁は9日、運転を差し止める決定をした。

 3号機は営業運転をしているが、決定は直ちに効力を持つため、関電は3号機を停止しなければならない。原子力規制委員会のお墨付きを得て稼働中の原発が仮処分決定で停止されるのは全国で初めてだ。画期的な決定である。

 4号機はトラブルを起こし、原子炉は緊急停止中だ。

 山本善彦裁判長は福島原発事故を踏まえ「環境破壊は日本を越える可能性さえあり、単に発電の効率性をもって甚大な災禍と引き換えにすべき事情だとは言い難い」と指摘。関電を「(生命や身体の安全に対する)住民らの人格権侵害の恐れが高いが、安全性の確保について説明を尽くしていない」などと批判した。

 注目されるのは原発所在地以外の住民による差し止めを認めた点だ。避難計画の策定が必要な半径30キロ圏内は滋賀県や京都府の一部を含む。50キロ圏内には近畿1400万人の「水がめ」である琵琶湖もある。いったん事故が起これば致命的だ。

 決定は避難計画について「個々の地方自治体ではなく国主導による具体的で可視的な避難計画の策定が必要だ」と指摘した。国に自治体任せを改めるよう求めたものだ。
■    ■
 福島原発事故は「現在進行形」である。汚染水は増えるばかりで、除染の進(しん)捗(ちょく)状況は地域によってばらつきがある。除染廃棄物を保管する中間貯蔵施設の用地交渉は進んでいない。廃炉は事故後30~40年を目指しているが、不透明だ。1~3号機で「炉心溶融」(メルトダウン)が起きたが、溶け落ちた燃料がどこにあり、どういう状態なのか、皆目分からない。

 東電の無責任体質を示す事実が最近も明らかになった。社内マニュアルには炉心損傷割合が明記され、事故4日目には炉心溶融と判断してしかるべきだったのに、事故を過小評価して炉心損傷と説明し続けた。溶融を認めたのは2カ月後である。マニュアルに5年たって気づいたというが、にわかに信じがたい。

 誰も原発事故の責任を問われていない。被災者らが東電の元会長ら旧経営陣3人を強制起訴に持ち込んだ。大津波を予測させるデータが示されたのに対策を取らなかったのはなぜか。法廷で明らかにしてもらいたい。
■    ■
 原発を基幹電源と位置付け、原発に回帰している安倍政権は、再稼働に前のめりだ。今回の決定が出ても再稼働を推進する考えを変えない。

 日本は世界有数の地震国である。再び大震災が起こる可能性は誰も否定できない。

 脱原発を求める世論は過半を占める。「フクシマの教訓」をくんだ司法の判断を重んじるのであれば、脱原発に舵(かじ)を切るべき時である。


⑮大分合同新聞論説-高浜原発運転差し止め 原発のリスクに向き合え-2016年3月10日


 関西電力高浜原発3、4号機(福井県高浜町)の運転禁止を、隣接する滋賀県の住民が申し立てた仮処分で、大津地裁はこれを認める決定をした。仮処分の決定で運転中の原発が止まるのは初めてだ。
 東京電力福島第1原発事故から5年になるのを目前に、事故を受けて原子力規制委員会がまとめた新たな規制基準への審査に合格して再稼働した原発の運転に、司法が待ったをかけたことの意義は大きい。
 すべての関係者が5年前のあの日を思い起こし、原発のリスクやコストに真剣に向き合うきっかけにしたい。新規制基準をパスした原発を再稼働させるという政府のエネルギー政策を見直し、あらためて国民的な議論を始めるべきだ。
 決定は、福島の事故の原因となった非常用電源対策として新規制基準が求めた対策について「このような備えで十分であるとの社会一般の合意が形成されたとはいってよいか、ちゅうちょせざるを得ない」と指摘。新規制基準やそれに基づく設置変更許可が「直ちに公共の安寧の基礎となると考えることをためらわざるを得ない」とした。
 申し立てをしたのは高浜原発から約70キロまでの滋賀県内の住民で、原発立地県ではない住民に対する広域的なリスクをどう判断するかも大きな焦点だった。
 決定は、過酷事故の影響を受ける範囲は広く、計画通りの避難が困難で、住民が被ばくする可能性が高いとの見解を示し「住民の生命・身体の安全に対する権利が侵害されることになる」として仮処分を認めた。
 決定は、地方自治体が個別に策定する防災対策では不十分で「国家主導での具体的で可視的な避難計画が早急に策定されることが必要だ」と指摘した。国はこれを深刻に受け止めねばならない。原発防災対策を地方自治体任せにするのではなく、原発を運転する電力会社とそれを認めた国が、責任を持って具体的な防災計画をまとめるまで原発の再稼働を見合わせることも検討すべきだ。
 原発事故の原因究明も、責任の追及も不十分なまま新規制基準がつくられ、電力会社は再稼働に積極的だ。国も「原発を重要なベースロード電源」と位置づけ、エネルギー供給の中で重視する姿勢だ。
 決定は、事故が起これば「環境破壊の及ぶ範囲は我が国を越えてしまう可能性さえある」と指摘した。福島第1原発事故が日本人に教えた原発の巨大なリスクを軽視し、原発回帰を進める政府と電力会社への厳しい警告だと受け止めるべきだ。
 福島第1原発事故後に裁判所が運転を禁じた判断は3回目である。原発再稼働に否定的な司法判断が示され、脱原発を求める世論が過半であることなどを考慮すれば、原発回帰を進める現在のエネルギー政策が正当性を持つとは言い難い。2030年に原発の発電比率を20~22%にするとの政府目標の達成も難しい。
 決定が指摘した原子力のリスクや原発を取り巻く現実に正面から向き合い、民主的で社会的公正に配慮したエネルギー政策の実現に方向転換すべきだ。


⑯朝日新聞社説-原発事故から5年 許されぬ安全神話の復活-2016年3月10日


 できるだけ早く原子力発電に頼らない社会を実現すべきだ。

 東日本大震災と福島第一原発の事故が起きてから、明日で5年になる。私たちは社説で改めて、「原発ゼロ社会」の実現を訴えていく。

 大津地裁はきのう、関西電力高浜3、4号機(福井県)の運転を差し止める仮処分決定を出した。稼働中の原発を司法が止めるのは初めてのことだ。

 安倍政権は、福島の原発事故の教訓をできる限り生かしたとは到底言えない。原発政策を震災前に押し戻し、再稼働へ突き進もうとしている。

 今回の地裁の判断は、なし崩しの再稼働に対する国民の不安に沿ったものでもある。安倍政権は、原発事故がもたらした社会の変化に真摯(しんし)に向き合い、エネルギー政策の大きな転換へと動くべきである。
 ■新基準にも疑問
 高浜をめぐっては昨年4月にも福井地裁が再稼働を禁じる仮処分決定を出した。

 約8カ月後に別の裁判長が取り消したとはいえ、原子力規制委員会が「新規制基準に適合している」と判断した原発の安全性が2度にわたり否定された。

 昨年4月の際、原発推進の立場からは「特異な裁判長による特異な判断」との批判もあったが、もはやそんなとらえ方をするわけにはいかない。

 今回の決定は、事故を振り返り、環境破壊は国を超える可能性さえあるとし、「単に発電の効率性をもって、甚大な災禍とひきかえにすべきだとは言い難い」と述べた。

 そのうえで事故原因の究明について関電や規制委の姿勢は不十分と批判。規制委の許可がただちに社会の安心の基礎となるとは考えられないと断じた。

 新たな規制基準を満たしたとしても、それだけで原発の安全性が確保されるわけではない。その司法判断の意味は重い。

 安倍政権は「規制委の判断を尊重して再稼働を進める方針に変わりない」(菅官房長官)としている。だが、事故後の安全規制の仕組み全般について、司法が根源的な疑問を呈した意味をよく考えるべきだ。
 ■問われる避難計画
 朝日新聞は2011年7月に社説で「原発ゼロ社会」を提言した。当面どうしても必要な原発の稼働は認めるものの、危険度の高い原発や古い原発から閉めて20~30年後をめどにすべて廃炉にするという考えだ。

 実際にはこの5年のうち約2年1カ月は国内の原発がすべて止まっていた。当初心配された深刻な電力不足や経済の大混乱は起きず、「どうしても必要な原発」はさほど多くないことがわかった。再稼働の条件は厳しく設定すべきである。

 原発の即時全面停止や依存度低減といった脱原発を求める世論が高まり、先月の朝日新聞の世論調査でも過半数が再稼働に反対している。

 安倍政権は当初は「原発依存度の低減」を掲げたが、徐々に新たな「安全神話」を思わせる言動が目立っている。

 安倍首相は13年、東京五輪招致で原発の汚染水状況を「アンダーコントロール(管理下にある)」と世界にアピールした。規制委の新基準についても国会で「世界一厳しい」と持ち上げた。だが、今回の地裁決定は、その基準も再稼働の十分条件ではないとの判断を示した。

 さらに避難計画の不備はかねて懸念の的だった。新基準に避難計画は入っておらず、規制委の審査対象になっていない。

 高浜の場合、福井、京都、滋賀の3府県にまたがる約18万人が避難を余儀なくされるが、再稼働前に計画の実効性を確かめる訓練も実施されなかった。

 地裁は「避難計画をも視野に入れた幅広い規制基準をつくる義務が国家にあるのではないか」と投げかけた。政府がただちに答えるべき問いだ。
 ■国民の重大な関心事
 あれだけの事故でありながら原発を推進してきた人たちの責任は明らかになっていない。

 大津地裁が言う通り、原発事故を経験した国民は事故の影響の範囲について、「圧倒的な広さとその避難に大きな混乱が生じたことを知悉(ちしつ)している」。

 にもかかわらず、政府と電力会社は事故を忘れたかのように再稼働へ足並みをそろえる。

 東京電力が炉心溶融の判定基準を今ごろ「発見」したり、九州電力が川内(せんだい)原発の再稼働前に約束していた免震重要棟の建設を撤回したりと、事業者の反省、安全優先の徹底は怪しい。

 専門家をうまく使い、事故前のように仲間内で決めようとしているのか。疑念が膨らむ。

 原子力政策は難解だが、原発は、人びとの暮らし方、生き方の選択と直結した問題であることを事故は思い起こさせた。

 政権と少数の「原発ムラ」関係者たちが、いくら安全神話を復活させようとしても、事故前に戻ることはできない。原発はすでに大多数の国民の、身近で重大な関心事なのである。


⑰毎日新聞社説-高浜差し止め 政府も重く受け止めよ-2016年3月10日


 東京電力福島第1原発事故から5年の節目を迎えるのを前に、原発に対して高度な安全性を求める司法判断が再び示された。

 今年1月と2月に相次いで再稼働した関西電力高浜原発3、4号機(福井県)について、大津地裁が運転差し止めを命じる仮処分決定を出した。決定の効力は直ちに生じるため、関電は運転の停止作業に入る。今後の裁判手続きで決定の取り消しや変更がない限り、再開できない。

 福島の事故後、原発の運転を差し止める仮処分命令は、昨年4月に福井地裁が同じく高浜3、4号機に対して出して以来2例目。運転中の原発停止を命じたのは初めてだ。政府と電力会社は、なし崩し的な再稼働の動きに対する司法からの重い警告と受け止めるべきだ。

 高浜3、4号機は新規制基準に基づく原子力規制委員会の安全審査に合格した。今回の決定は、新基準自体に合理性がないとまでは述べていない。しかし、合格したとしても、それだけで安全性を保証したものとは言えないという考えを示した。

 その背景には福島原発事故の原因究明が不十分との認識がある。規制委がその不十分性を容認しているのであれば「新基準にも不安を覚える」と指摘した。その上で、具体的な疑問に対し、電力会社による明確な説明や証明がなければならないと事実上の立証責任を負わせた。

 さらに決定は、過酷事故の際に、住民の避難計画の策定が再稼働の重要な条件となるという見解も示した。地元自治体ではなく、国が主導して「具体的で可視的な」計画を早急に策定する必要があると述べた。

 現在、避難計画は安全審査の対象外になっている。このため、国に対し、避難計画を含めた幅広い規制基準の策定を求めるとともに、福島原発事故を経験した今、そういう基準策定の「信義則上の義務」は国にあると言い切った。

 事故が起きれば、住民は府県境を越えて広域避難する。計画の実効性を高めるには訓練が必要だが、高浜3、4号機は福井県内での防災訓練を実施しただけで再稼働した。

 毎日新聞は、避難計画の策定や訓練など事故時の対応が再稼働の条件と主張してきた。今回の決定はこうした考えに沿ったものだ。今後の安全審査にも生かしたい。

 規制委は稼働から40年を超す高浜1、2号機についても事実上の合格証をまとめた。だが、より新しい3、4号機が差し止められたことを考えると、関電は1、2号機についても厳しい局面に立たされるだろう。

 福島原発事故の総括をあいまいにしたまま原発回帰を進めようとする政府に再考を求める決定でもある。


⑱東京新聞社説-高浜原発に停止命令 フクシマを繰り返すな-2016年3月10日


 稼働中の原発を司法が初めて止める。関西電力高浜3、4号機の安全性は不十分だからと。国民の命を守る司法からの重いメッセージと受け止めたい。

 3・11から五年を前に、司法の良識を見たようである。住民の安堵(あんど)の声も聞こえてくるようだ。

 3・11後、再稼働した原発の運転の可否をめぐる初めての司法判断は、原発は「危険」と断じただけでなく、事故時の避難計画策定も十分でないままに、原発の再稼働を「是」とした原子力規制委員会の「合理性」にも、「ノー」を突きつけた。
◆よみがえった人格権
 大津地裁の決定は、高浜原発3、4号機が、そもそも危険な存在だという前提に立つ。

 その上で、最大の争点とされた基準地震動(耐震設計の目安となる最大の揺れ)に危惧すべき点があり、津波対策や避難計画についても疑問が残るとし、住民の「人格権」が侵害される恐れが高い、と判断した。

 昨年暮れ、福井地裁が危険性は「社会通念上無視し得る程度まで管理されている」と切り捨てて、同地裁が下していた両機の運転差し止めの判断を覆したのとは、正反対の考え方だ。

 一昨年の十一月、大津地裁も「避難計画などが定まらない中で、規制委が早急に再稼働を容認するとは考え難く、差し迫る状況にはない」と申し立てを退けていた。

 ところが、規制委は「避難計画は権限外」と、あっさり容認してしまう。

 今回の決定からは、そんな規制委への不信さえうかがえる。危険は現に差し迫っているのである。

 住民の命を守り、不安を解消するために、今何が足りないか。3・11の教訓を踏まえて、大津地裁は具体的に挙げている。

 ▽建屋内の十分な調査を踏まえた福島第一原発事故の原因究明▽事故発生時の責任の所在の明確化▽国家主導の具体的な避難計画▽それを視野に入れた幅広い規制基準-。私たちが懸念してきたことでもある。

 県外住民からの訴えを認めたことで、原発の“地元”を立地地域に限定してきた電力会社や政府の方針も明確に否定した。

 そして、その上で言い切った。

 「原子力発電所による発電がいかに効率的であり、コスト面では経済上優位であるとしても、その環境破壊の及ぶ範囲は我が国さえも越えてしまう可能性さえある。単に発電の効率性をもって、これらの甚大な災禍と引き換えにすべき事情であるとは言い難い」
◆過酷事故が具体論へと
 効率より安全、経済より命-。憲法が保障する人格権に基づいて住民を守るという基本への回帰。司法の常識が働いた。

 五年前、東日本大震災による福島第一原発の事故が起きる前まで、司法は原発事故と真剣に向き合っていたといえるだろうか。「起きるはずがない」という安全神話に司法まで染まっていたのではないだろうか。

 震災前までは多くの原発訴訟の中で、二〇〇三年のもんじゅ訴訟控訴審(名古屋高裁金沢支部)と〇六年の志賀原発訴訟一審(金沢地裁)の二つの判決以外は、すべて原告が負け続けていた。

 この二つの判決も上級審で取り消され、原告敗訴に終わっている。原発差し止め-という確定判決は一つも存在しなかった。

 ただ、「レベル7」という福島原発の事故を目の当たりにして、司法界でも過酷事故は抽象論から具体論へと変質したはずだ。

 司法は原発問題で大きな存在だ。経済性よりも国民の命を守ることの方が優先されるべきなのは言うまでもない。司法が国民を救えるか-。

 その大きな視点で今後の裁判は行われてほしい。

 現に動いている原発を止める-。重い判断だ。しかし、国会、行政とともに三権のうちにあって、憲法のいう人格権、人間の安全を述べるのは司法の責務にちがいない。

 繰り返そう。命は重い。危険が差し迫っているのなら、それは断固、止めるべきである。
◆規制委は変われるか
 対策も不十分なままに、四十年を超える老朽原発の再稼働が認められたり、再稼働の条件であるはずの免震施設を建設する約束が反故(ほご)にされてしまったり、規制委の審査にパスした当の高浜4号機が、再稼働直前にトラブルを起こしたり…。

 再稼働が進むのに比例して、住民の不安は増している。

 規制委は、司法の重い判断を受け止めて、審査の在り方を大きく見直すべきだ。

 政府は福島の現状も直視して、再稼働ありきの姿勢を根本から改めるべきである


⑲読売新聞社説-高浜差し止め 判例を逸脱した不合理な決定-2016年03月10日


 裁判所自らが、原子力発電所の安全審査をするということなのか。

 滋賀県の住民29人が、福井県の関西電力高浜原子力発電所3、4号機の運転差し止めを求めた仮処分申請で、大津地裁が差し止めを命じる決定を出した。

 重大事故や津波の対策、事故時の避難計画の策定などについて、「関電側が主張や説明を尽くしていない」との理由である。

 原子力規制委員会は、福島第一原発事故後に厳格化された新規制基準に従い、1年半をかけて3、4号機の審査を実施した。昨年2月、合格証にあたる「審査書」を交付し、関電は今年1月に3号機を再稼働させた。

 大津地裁は、規制委と同様、関電に原発の安全性の技術的根拠を説明するよう求めた。関電は、審査データを提出し、安全性は担保されていると主張した。

 だが、大津地裁は「対策は全て検討し尽くされたのか不明だ」として、受け入れなかった。

 司法として、関電に過剰な立証責任を負わせたと言えないか。

 最高裁は、1992年の四国電力伊方原発訴訟判決で、原発の安全審査は「高度で最新の科学的、技術的、総合的な判断が必要で、行政側の合理的な判断に委ねられている」との見解を示した。

 高度な専門性が求められる原発の安全性の判断で、司法は抑制的であるべきだとする判例は、その後の判決で踏襲されてきた。

 今回の決定も、最高裁判例に言及はしている。だが、再稼働のポイントとなる地震規模の想定などについてまで、自ら妥当性を判断する姿勢は、明らかに判例の趣旨を逸脱している。

 大津地裁が、規制委の新規制基準に疑問を呈したのも問題だ。

 新基準は、第一原発事故を踏まえ厳しくなったにもかかわらず、規制委の策定手法などに対して、「非常に不安を覚える」と独自の見解を示した。原発にゼロリスクを求める姿勢がうかがえる。

 菅官房長官が「世界最高水準の基準に適合するという(規制委の)判断を尊重していく」と強調したのは、もっともである。

 仮処分決定を受け、関電は、再稼働したばかりの高浜3号機を停止する作業に入る。4号機は2月に再稼働したが、直後のトラブルで停止している。

 関電は、大津地裁に対し、保全異議などを申し立てる。それが認められなければ、高裁に抗告することになろう。裁判所には、冷静で公正な判断を求めたい。


by asyagi-df-2014 | 2016-03-11 15:07 | 書くことから-原発 | Comments(0)

壊される前に考えること。そして、新しい地平へ。「交流地帯」からの再出発。


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