原発問題-福井地裁林潤裁判長の仮処分取り消し決定を考える。

高浜原発3・4号機は2015年4月14日、福井地方裁判所の樋口英明裁判長、原島麻由裁判官、三宅由子裁判官による運転差止仮処分命令が発令されていましたが、2015年12月24日、同裁判所の林潤裁判長、山口敦士裁判官、中村修輔裁判官により仮処分命令は取り消されました。  

 今回の判決での最大の問題点は、「3.11」をもたらした「安全神話」に埋没する役割を果たしてきた「伊方原発最高裁判決」の「高度で最新の科学的、技術的、総合的な判断が必要で、行政側の合理的な判断に委だねられている」という考え方を、踏襲させてしまったということである。
 したがって、この決定について各紙は、「逆回転が加速し始めたということか。」(東京新聞)、「まるで福島原発事故以前の司法に逆戻りしたかのようだ。」(朝日新聞)、「国民が心配するのは根拠の乏しい『安全神話』復活である。それを阻止できるのは司法しかない。」(神戸新聞)、「原発訴訟では、もっぱら行政判断の合理性に重点を置いて審査された結果、これまでほぼすべてで国や電力会社側が勝訴してきた。そうした司法の『前提』は、福島第1原発事故後、根拠無き原発安全神話を補強する側面を担ってきたというほかない。」(沖縄タイムス)、と厳しく指摘した。伝えた。
 「3.11」を克服するために、それ以後の原発のあり方は、少なくとも「安全神話」の否定が出発点であったはずであった。樋口判決は、まさしくこのことを実践したのであった。
 このことについても、「司法の判断が分かれた意味は重い。」(京都新聞)、「『絶対的安全性は存在しない』『過酷事故の可能性が全く否定されるものではない』と国や電力側に重層的な対策を求めた。重い言葉だが、同時に、裁判所は原発の安全性を担保する立場にないことを浮き彫りにしている。」(福井新聞)と、評している。


 いずれにしろ、このこ判決を受けた段階で言えるのは、「国も福井県も関電も、急ぐべきは再稼働ではなく、脱原発への道筋を描くことだと肝に銘じなければならない。4年9カ月が過ぎてなお収束のめどが立たない東京電力福島第1原発事故から、決して目を背けてはならない。」(愛媛新聞)、ということである。また、「政府も電力会社も、これらの問題点を置き去りにしたまま再稼働に突き進むことは許されない。」(朝日新聞)、ということでもある。


 このことについて、考えるために、各新聞の社説等を掲載する。
 2015年12月25日及び26日の各新聞社社説等の見出しは次のものである。

①河北新報社説- 高浜原発再稼働へ/安全のお墨付きではない
②中日新聞社説-大飯・高浜原発 安全は“神話”のままだ
③福井新聞論説-地裁、高浜再稼働容認 さらに安全対策を高めよ
④京都新聞社説-高浜原発異議審  再稼働の免罪符でない
⑤神戸新聞社説-高浜原発/割れる判断に事の重大性
⑥愛媛新聞社説-高浜原発の再稼働容認 地裁決定を「お墨付き」にするな
⑦沖縄タイムス社説-[高浜原発再稼働容認]行政を追認する決定だ
⑧朝日新聞社説-高浜原発訴訟 司法の役割はどこへ
⑨毎日新聞社説-高浜で逆転決定 絶対安全の保証でない
⑩東京新聞社説-大飯・高浜原発 安全は“神話”のままだ
⑪読売新聞社説-高浜再稼働へ 「差し止め」覆す合理的決定だ


 このところのいつも通りの主張である。
 読売の過ぎた政府・電力会社寄りの姿勢と、「司法の役割はどこへ」に類似したといった多くの批判的記事との違いが、際立つこのところのいつも通りの主張の一覧となっている。
 この主張を見てみる。


①河北新報社説
・政府や電力会社など推進側は、描いてきたシナリオの破綻が回避され、他原発でも再稼働の流れが加速すると歓迎しているが、今回の決定は安全のお墨付きではない。ましてや原発への不安や不信を取り払うものになり得ないことを肝に銘ずる必要がある。
・政府が「原子力規制委員会が適合と判断すれば再稼働を進める」との姿勢を決め込み、一方で規制委が「新基準適合と安全はイコールではない」と言い続ける構図は変わりがない。
・民意は「福島事故後は万が一の判断を避けることは許されない」と指摘した4月の仮処分決定の判断にこそ近いと言えるのではないか。
 仮処分の判断を不規則と片付けず、万が一の危険に謙虚に向き合い、前がかりに陥ることなく慎重に事を進める出発点にすべきだろう。
・エネルギー基本計画に定めた原発依存度低減の道筋を早期に示すことをはじめ、原発の不信や不透明感に応える第一の責任は政府にある。
 避難計画への関与や国民理解の促進で政府の責任が明確化された、と受け止める向きもあるようだが、まだまだ不十分と言わざるを得ない。
②中日新聞社説
・福井地裁(林潤裁判長)は、関西電力高浜原発3、4号機の再稼働を差し止めた4月の仮処分決定を取り消した。地裁判断を不服として異議を申し立てた関電側の主張を全面的に受け入れた形だ。原発訴訟における司法の流れからすれば、ある程度予想された決定ではあるが、そのことで周辺住民らの事故不安が払拭(ふっしょく)されるものではない。
・裁判所は事業者の取った対策が「新規制基準に適合する」という規制委の判断を「合理的」としただけだ。規制委自身が何度も表明しているように、その判断は「安全」を保証するものではない。今回の福井地裁も「過酷事故の可能性がまったく否定されたものではない」と、はっきり述べているではないか。
・安全性も責任の所在もあいまいなまま、再稼働へひた走る。その状況が何も変わっていないということを、忘れてはならない。
③福井新聞論説
・地裁判断を不服として異議を申し立てた関電側の主張を全面的に受け入れた形だ。原発訴訟における司法の流れからすれば、ある程度予想された決定ではあるが、そのことで周辺住民らの事故不安が払拭(ふっしょく)されるものではない。
・今回は同じ地裁で真逆の判断である。林裁判長は「周辺住民の人格権が侵害される具体的な危険性はない」と認定した。国のエネルギー政策に重要な原発の安全性の判断を、同じ下級審で変えられたのでは司法への信頼が揺らがないか。
・林裁判長は福島原発事故の教訓を踏まえ「絶対的安全性は存在しない」「過酷事故の可能性が全く否定されるものではない」と国や電力側に重層的な対策を求めた。重い言葉だが、同時に、裁判所は原発の安全性を担保する立場にないことを浮き彫りにしている。
④京都新聞社説
・司法の判断が分かれた意味は重い。福島第1原発事故を経験した日本が、国民の安全をどのように確保するかがあらためて問われている。再稼働への免罪符を得たわけではない。
・再稼働への同意権は福井県の立地自治体にしかなく、過酷事故が発生すれば重大な影響を受ける京都府、滋賀県にはない。福井、京都、滋賀3府県の避難計画にもさまざまな課題が残っており、国民の理解は決して深まっていない。国と関電は再稼働を急ぐべきではない。
⑤神戸新聞社説
・国民が心配するのは根拠の乏しい「安全神話」復活である。それを阻止できるのは司法しかない。
・住民の生命・健康を守る問題にコミットとしないと宣言する規制委でよいのか。同じ地裁の判断が真っ二つに割れるのは、それだけ再稼働に多くの問題を残すということだろう。高浜3、4号機の再稼働を急ぐことより残された課題の解決が先だ。
⑥愛媛新聞社説
・地裁決定の前に政府は要求に応じるとし、同意の舞台を整えた形だ。関電も周辺自治体の理解取り付けに奔走した。地裁決定前のこうした用意周到な再稼働への段取りは、司法軽視であり、看過できない。
・国も福井県も関電も、急ぐべきは再稼働ではなく、脱原発への道筋を描くことだと肝に銘じなければならない。4年9カ月が過ぎてなお収束のめどが立たない東京電力福島第1原発事故から、決して目を背けてはならない。
⑦沖縄タイムス社説
・原発の再稼働は、行政手続き上も、作業上も複雑で長い工程が必要だ。差し止め決定後も、関電は高浜原発の再稼働に向けた作業を着々と進めてきた。そうしたさなかの仮処分取り消しは、司法もまた、再稼働に向けた「手続き」の一つにすぎないことを示しているかのようだ。
・原発訴訟では、もっぱら行政判断の合理性に重点を置いて審査された結果、これまでほぼすべてで国や電力会社側が勝訴してきた。そうした司法の「前提」は、福島第1原発事故後、根拠無き原発安全神話を補強する側面を担ってきたというほかない。
・今決定は、画期的な前回決定から先祖返りした。決定文は司法審査の在り方について「新規制基準の内容や、規制委による新規制基準への適合性判断が合理的かどうか、という観点から判断すべきだ」としており、原発事故の反省は全く生かされていない。
・司法こそ、国民や専門家の声にもっと耳を傾けるべきである。
⑧朝日新聞社説
・まるで福島原発事故以前の司法に逆戻りしたかのようだ。
・関電は高浜の2基の再稼働が1日遅れるごとに、約4億円の経済的損失が出ると主張してきた。「司法のストッパー」が外れたことで、再稼働へ向けた手続きが加速する。だが、原発には国民の厳しい視線が注がれていることを忘れてはならない。
・福井県に多くの原発が集まる集中立地のリスクについても、議論は不十分だ。政府も電力会社も、これらの問題点を置き去りにしたまま再稼働に突き進むことは許されない。
⑨毎日新聞社説
・今回の福井地裁決定は「過酷事故が起こる可能性が全く否定されるものではない」とも述べ、国や電力会社に避難計画を含めた重層的な対策を求めた。そうした対策を取らない限り再稼働はできないはずだ。
⑩東京新聞社説
・逆回転が加速し始めたということか。「原発ゼロ」の歯止めが、また一つ外された。最大の争点は、3・11後に定められた原子力規制委員会の新たな規制基準を、原発再稼働の“お墨付き”とするか、しないかだ。規制委は二月、高浜原発3、4号機を新規制基準に適合しているとした。それを受け、関電は再稼働の準備に着手。しかし、福井地裁は四月、「新規制基準は合理性を欠く」として、周辺住民が求めた再稼働差し止めを認める決定を下していた。新規制基準の効力に根本的な疑問を投げかけたのだ。関電の不服申し立てを受けた福井地裁は、その決定を百八十度覆したことになる。
⑪読売新聞社説
・専門性が極めて高い原子力発電所の安全審査について、行政の裁量を尊重した妥当な決定だ。
・関電は25日、3号機への核燃料挿入を始めた。来年2月までに2基を順次、再稼働させるという。安全確保を最優先し、着実に準備を進めてもらいたい。
・3、4号機は今年2月、東京電力福島第一原発の事故後に厳格化された新規制基準に基づく安全審査に合格した。ところが、4月に福井地裁の当時の樋口英明裁判長が「新基準は緩やかに過ぎる」と独善的な見解を示し、再稼働を差し止めた。「ゼロリスク」に固執した不合理な決定だったと言うほかない。


 以下、各新聞の社説等の引用。(また、ちょっと長いです)







①河北新報社説- 高浜原発再稼働へ/安全のお墨付きではない-2015年12月25日

 関西電力高浜原発3、4号機(福井県)の再稼働差し止めを決めた4月の仮処分について、福井地裁がきのう、取り消す決定を下した。
 必要となる地元自治体の同意の手続きは既に完了しており、司法判断が覆ったことで、高浜2基は運転再開の日程が動きだすことになる。
 政府や電力会社など推進側は、描いてきたシナリオの破綻が回避され、他原発でも再稼働の流れが加速すると歓迎しているが、今回の決定は安全のお墨付きではない。ましてや原発への不安や不信を取り払うものになり得ないことを肝に銘ずる必要がある。
 福井県知事の同意表明は地裁決定に先んじる形で22日に行われ、駆け込み的に間に合わせたとの批判がある。
 批判をよそに、再稼働に向けて既定路線のように手続きを積み上げていくような進め方は、安全よりも電力会社の経営を優先していると受け止められてもやむを得まい。
 政府が再稼働の根拠にする福島第1原発事故後の新しい規制基準について、再稼働を禁じた4月の仮処分決定は「緩やかすぎて、基準に適合したとしても安全性は確保されない」と厳しく指摘した。
 再稼働を認めた今回の地裁決定は「内容は合理的だ」と正反対の判断を示した。同様の判断は九州電力川内原発(鹿児島県)の差し止め申し立てを却下した鹿児島地裁の決定でも示された。司法の場では新基準の妥当性について評価が定まる方向にある。
 しかし、政府が「原子力規制委員会が適合と判断すれば再稼働を進める」との姿勢を決め込み、一方で規制委が「新基準適合と安全はイコールではない」と言い続ける構図は変わりがない。
 安全がどこで担保されるかが曖昧なままなし崩し的に再稼働が進むことに、国民の多くが疑念を募らせている。
 日本世論調査会が川内原発が8月に再稼働した後の9月中旬に行った調査では、再稼働反対が58%に上り、賛成の37%を大きく上回った。
 反対理由で一番多かったのは「安全対策、事故時の住民避難などの防災対策が不十分」。民意は「福島事故後は万が一の判断を避けることは許されない」と指摘した4月の仮処分決定の判断にこそ近いと言えるのではないか。
 仮処分の判断を不規則と片付けず、万が一の危険に謙虚に向き合い、前がかりに陥ることなく慎重に事を進める出発点にすべきだろう。
 再稼働手続きで言えば、地元自治体同意の範囲をめぐる疑問が解消されていない。
 高浜原発でも、京都府、滋賀県の一部が避難計画策定が義務付けられる30キロ圏に入りながら同意手続きの対象とされず、反発を招いている。関係する自治体の意見を再稼働手続きにきちんと反映させる仕組みを確立すべきだ。
 エネルギー基本計画に定めた原発依存度低減の道筋を早期に示すことをはじめ、原発の不信や不透明感に応える第一の責任は政府にある。
 避難計画への関与や国民理解の促進で政府の責任が明確化された、と受け止める向きもあるようだが、まだまだ不十分と言わざるを得ない。


②中日新聞社説-大飯・高浜原発 安全は“神話”のままだ-2015年12月25日


 福井県にある高浜原発、大飯原発の再稼働差し止めを求める司法判断が、覆された。だが待てよ。誰もまだ安全を保証するとは言っていない。大事故が起きた時、責任を取る覚悟も力もないままだ。

 逆回転が加速し始めたということか。「原発ゼロ」の歯止めが、また一つ外された。

 最大の争点は、3・11後に定められた原子力規制委員会の新たな規制基準を、原発再稼働の“お墨付き”とするか、しないかだ。

 規制委は二月、高浜原発3、4号機を新規制基準に適合しているとした。

 それを受け、関電は再稼働の準備に着手。しかし、福井地裁は四月、「新規制基準は合理性を欠く」として、周辺住民が求めた再稼働差し止めを認める決定を下していた。新規制基準の効力に根本的な疑問を投げかけたのだ。

 関電の不服申し立てを受けた福井地裁は、その決定を百八十度覆したことになる。

 安全対策上想定すべき最大の揺れの強さ(基準地震動)、その揺れや津波に対する関電側の対策、使用済み核燃料保管の危険性…。どれをとっても規制委の審査に「不合理な点はない」として、原発が周辺住民の人格権や、個人が暮らしや生命を守る権利を侵害する恐れはないと判断した。

 昨年五月、同様に運転差し止めを認めた大飯原発3、4号機に関しても「規制委の審査中であるから」と、差し止めを却下した。

 高浜に関しては、西川一誠知事が二十二日再稼働に同意して、地元同意の手続きを終えている。関電は、まず3号機から運転開始を急ぐという。

 だが、よく考えてもらいたい。

 裁判所は事業者の取った対策が「新規制基準に適合する」という規制委の判断を「合理的」としただけだ。規制委自身が何度も表明しているように、その判断は「安全」を保証するものではない。

 今回の福井地裁も「過酷事故の可能性がまったく否定されたものではない」と、はっきり述べているではないか。

 知事の判断も同じである。

 安全確保は事業者の責務。事業者の規制は国の責務。県は監視するだけという、及び腰の最終同意である。事業者にも国にも“責任能力”などないことは、福島の現状を見れば、明らかではないか。

 安全性も責任の所在もあいまいなまま、再稼働へひた走る。その状況が何も変わっていないということを、忘れてはならない。


③福井新聞論説-地裁、高浜再稼働容認 さらに安全対策を高めよ-2015年12月25日

 福井地裁(林潤裁判長)は、関西電力高浜原発3、4号機の再稼働を差し止めた4月の仮処分決定を取り消した。地裁判断を不服として異議を申し立てた関電側の主張を全面的に受け入れた形だ。原発訴訟における司法の流れからすれば、ある程度予想された決定ではあるが、そのことで周辺住民らの事故不安が払拭(ふっしょく)されるものではない。

 関電は既に地元同意手続きを終え、1月下旬から順次運転を再開予定だ。一層の安全対策が求められるのは当然だが、国や県には防災対策の強化、住民避難態勢の実効性を高める責任が強く求められる。

 異議審では基準地震動策定の妥当性や設備の耐震安全性、使用済み核燃料プールの耐震性、さらに原子力規制委員会が策定した新規制基準の合理性が主要な争点だった。

 林裁判長は、司法審査の在り方として規制委の「高度な専門性、独立性」への評価を加えた上で、基準地震動について「規制委が審査するという新規制基準の枠組みには合理性があり」事業者は「国際基準に照らしても保守的な評価によって策定しており、規制委の判断などに不合理な点はない」と認定。同じ視点で住民らの主張を次々退けた。

 また、大飯原発3、4号機運転差し止め仮処分については「再稼働が差し迫っていない」ことを理由に請求却下の決定を出した。

 4月に高浜の再稼働差し止めを命じる決定を下した当時の樋口英明裁判長は、規制委の新基準を「緩やかに過ぎる」と不合理性を指摘。基準地震動に関し「信頼に値する根拠は見いだせない」「楽観的」とまで断じた。炉心損傷の危険性を認め、再稼働で「250キロ圏内の住民に人格権が侵害される具体的な危険がある」と結論付けた。

 樋口裁判長は昨年5月の大飯3、4号機運転差し止め訴訟でも住民側の言い分を全面的に認める判決を言い渡している。地震国における原発稼働を全否定したとも思われる樋口氏は名古屋家裁に異動した。

 今回は同じ地裁で真逆の判断である。林裁判長は「周辺住民の人格権が侵害される具体的な危険性はない」と認定した。国のエネルギー政策に重要な原発の安全性の判断を、同じ下級審で変えられたのでは司法への信頼が揺らがないか。

 最高裁は数多い原発訴訟に対処するため研修を実施しているが、原発の安全性に科学的、専門技術的な判断を示すことは困難だ。

 今年4月には鹿児島地裁が九州電力川内(せんだい)原発1、2号機の再稼働差し止め仮処分申し立てを却下した。今回も鹿児島地裁同様、新基準の根拠に科学的専門性をもって踏み込んだ判断ではない。専門家の意見を尊重した国に広い裁量権を与えた四国電力伊方原発(愛媛県)行政訴訟の最高裁判決(1992年)を踏襲する姿勢を示したといえる。

 林裁判長は福島原発事故の教訓を踏まえ「絶対的安全性は存在しない」「過酷事故の可能性が全く否定されるものではない」と国や電力側に重層的な対策を求めた。重い言葉だが、同時に、裁判所は原発の安全性を担保する立場にないことを浮き彫りにしている。


④京都新聞社説-高浜原発異議審  再稼働の免罪符でない-2015年12月25日


 「安全性が確保されていない」として、高浜原発3、4号機(福井県)の運転差し止めを命じた仮処分決定について、福井地裁(林潤裁判長)が関西電力の異議申し立てを認め、取り消した。
 原発の安全性の基準に対する考え方の違いが正反対の結論を導いたといえよう。司法の判断が分かれた意味は重い。福島第1原発事故を経験した日本が、国民の安全をどのように確保するかがあらためて問われている。再稼働への免罪符を得たわけではない。
 今年4月、福井地裁の樋口英明裁判長は、原発の安全基準には「深刻な災害を引き起こすおそれが万が一にもないといえる厳格な内容」が求められると指摘、原子力規制委員会の新規制基準は「緩やかに過ぎる」として差し止めを命じた。発生から5年を迎えても福島事故は収束せず、多くの住民が故郷に戻れなくなった過酷な現実をみれば、国民の安全を最優先にした厳正な判断といえよう。
 一方、決定を取り消した林裁判長は、裁判所が原子炉の安全性を判断する際には、新規制基準の内容や規制委の基準適合性の判断が合理的かどうかという観点から行うべきと指摘したうえで、新規制基準は合理性があるとして3、4号機を合格とした規制委の判断を支持。基準地震動や設備の耐震安全性の評価を適切だと認めた。
 専門性の高い規制委の判断を尊重した形といえるが、国民の不安を解消することにはならない。原発の安全性をめぐる司法の判断の揺れは、安全性のレベルをどう設定すべきかという重い問いかけと考えるべきだ。
 林裁判長は、過酷事故が起こる可能性を全く否定するものではないとして、国や電力会社に実効性のある対策を講じ続けるよう求めた。事故を引き起こした「安全神話」に再び陥らないよう、慎重さが求められるのは当然だ。
 差し止めを求めた住民側は、取り消しを不当として、名古屋高裁金沢支部に不服を申し立てる。一方、法的な問題はなくなったとして関電はきょうにも3号機の燃料装填(そうてん)を開始し、来年1月下旬から運転を始める構えだ。
 しかし、再稼働への同意権は福井県の立地自治体にしかなく、過酷事故が発生すれば重大な影響を受ける京都府、滋賀県にはない。福井、京都、滋賀3府県の避難計画にもさまざまな課題が残っており、国民の理解は決して深まっていない。国と関電は再稼働を急ぐべきではない。


⑤神戸新聞社説-高浜原発/割れる判断に事の重大性-2015年12月25日


同じ地裁で、これほど対照的な判断が示されるのも珍しい。

 関西電力高浜原発3、4号機(福井県)の運転を差し止めた仮処分への関電の異議申し立てに、福井地裁は再稼働を認める決定をした。

 高浜3、4号機は原子力規制委員会の安全審査に適合し、西川一誠知事の先日の同意で地元手続きを終えた。地裁の決定で再稼働に向けた障壁が取り払われた形になる。

 ただ、運転差し止めを求める原告は不服を申し立てる方針で、すんなり再稼働となるかは不透明だ。

 4月の仮処分決定は、関電による地震想定の不十分さなどを挙げて新規制基準や規制委の審査を根本的に否定した。基準地震動を超える地震が過去に何回も起きていることを指摘し、予測は限られた数しかない昔の地震のデータなどに頼り、信頼性が足りないと疑問を呈した。

 ひとたび過酷事故が起きれば広い範囲に被害が及ぶ-。新規制基準は周辺住民に人格権の侵害をもたらす具体的危険性を有しているとしたのは、2011年3月の原発事故を踏まえた判断といえる。

 一方、異議審は、争点となった設備の耐震安全性や基準地震動の策定方法などに合理性があり、新規制基準の妥当性についても問題ないとした。人格権の侵害も否定した。

 高浜3、4号機は、事故対応の拠点となる免震重要棟が設置されてない。外部電源の確保策などにも不安を残し、万全な形で再稼働を迎えようとしているわけではない。

 国民が心配するのは根拠の乏しい「安全神話」復活である。それを阻止できるのは司法しかない。

 安全は原発対策だけで事足りるわけではない。高浜原発は京都府や滋賀県に近い場所に立地し、電力会社が立地自治体以外は認めないとする「安全協定」の在り方が曖昧だ。避難計画が義務付けられる半径30キロ圏の自治体の避難計画の実効性も問題になっている。広域避難計画の経路となる道路整備や移動手段の確保、渋滞対策も決まっていない。

 住民の生命・健康を守る問題にコミットとしないと宣言する規制委でよいのか。

 同じ地裁の判断が真っ二つに割れるのは、それだけ再稼働に多くの問題を残すということだろう。高浜3、4号機の再稼働を急ぐことより残された課題の解決が先だ。


⑥愛媛新聞社説-高浜原発の再稼働容認 地裁決定を「お墨付き」にするな- 2015年12月25日


 関西電力高浜原発3、4号機(福井県)の再稼働をめぐり、福井地裁は4月に命じた運転差し止めの仮処分を取り消した。立地する高浜町の野瀬豊町長と西川一誠知事は既に再稼働に同意しており、関電はきょうにも燃料装てんに着手し、1月からの運転を目指す。
 だが、決定により原発の安全性が保証されたわけでは決してない。裁判長は過酷事故の可能性も否定しなかった。再稼働を急ぐ国や県、関電が司法のお墨付きを得たかのごとく、さらに前のめりになることは断じて許されない。
 知事が再稼働への同意を表明したのは3日前だ。同地裁は4月、原子力規制委員会の新規制基準を緩やかすぎて合理性がないと指摘し、基準に適合していても再稼働を認めないとしていた。にもかかわらず今回の決定を待たずに同意を国に伝えた。
 知事は、四国電力伊方原発3号機の再稼働をめぐり中村時広知事が前提条件として国の責任の明確化を要求したように、政府に原発の重要性に対する国民理解を進めることなどを求めていた。地裁決定の前に政府は要求に応じるとし、同意の舞台を整えた形だ。関電も周辺自治体の理解取り付けに奔走した。
 地裁決定前のこうした用意周到な再稼働への段取りは、司法軽視であり、看過できない。
 西川知事は「県民の信頼を得られる判断をしたい」としていたが、住民説明会さえ開いていない。国に追随し、責任を国に委ねる姿勢は、住民の命を守る首長として無責任だ。
 高浜原発は半径30キロ圏に福井だけでなく京都府と滋賀県も含む。同意の権利を持つ「地元」を福井県と高浜町だけだとする知事の姿勢にも納得できない。事故時の影響は立地自治体にとどまらない。九州電力川内原発1、2号機で、地元を鹿児島県と薩摩川内市に限定し、周辺自治体を切り捨てた「川内方式」を踏襲している。国が「地元」の明確な規定も示さない中、前例に沿い、なし崩し的に再稼働が進むことを強く危惧する。
 事故時は3府県の最大約18万人が避難することになるが、国が了承した広域避難計画も実効性が疑われる。豪雪地帯であり交通渋滞や移動手段の確保に懸念は尽きない。避難訓練も実施されず、あくまで机上の計画にすぎない。住民の安全の置き去りは断じて容認できない。
 関電は原発の停止で火力燃料費がかさみ、業績が悪化しており、経営改善を急ぐ。利益は電気料金の引き下げに充てるとし利用者のためだとうたうが、再稼働は自由化によって新電力に顧客を奪われないようにとの経営の都合と言わざるを得ない。
 国も福井県も関電も、急ぐべきは再稼働ではなく、脱原発への道筋を描くことだと肝に銘じなければならない。4年9カ月が過ぎてなお収束のめどが立たない東京電力福島第1原発事故から、決して目を背けてはならない。


⑦沖縄タイムス社説-[高浜原発再稼働容認]行政を追認する決定だ-2015年12月25日


 この国の司法の課題を露呈した決定だ。

 福井地裁が、関西電力高浜原発3、4号機(福井県高浜町)の再稼働差し止めを命じたことし4月の仮処分を取り消す決定をした。関電が異議を申し立てていた。仮処分の取り消しで、高浜原発は来月にも順次運転を始める。

 原発の再稼働は、行政手続き上も、作業上も複雑で長い工程が必要だ。差し止め決定後も、関電は高浜原発の再稼働に向けた作業を着々と進めてきた。今月22日には西川一誠知事の同意を得て地元同意手続きを完了。現在、原子力規制委員会による使用前検査が行われており、25日には原子炉に燃料を入れる作業を始める計画を示している。

 そうしたさなかの仮処分取り消しは、司法もまた、再稼働に向けた「手続き」の一つにすぎないことを示しているかのようだ。

 前回の差し止め決定で福井地裁は、電力会社が原発の耐震設計で最大の揺れと想定する「基準地震動」を超す地震に、すでに5回も襲われていることを挙げるなど新規制基準そのものに疑義を呈した。

 一方、今回は「新規制基準の枠組みは合理的」とし、「関電の基準地震動が新規制基準に適合するとした規制委の判断は合理的だ」とし、関電側主張の追認にとどまった。

 こうした追認型の判断は、1992年の四国電力伊方原発訴訟で最高裁が、原発の安全審査について「行政側の合理的な判断に委ねられる」としたことによる。
    ■    ■
 原発訴訟では、もっぱら行政判断の合理性に重点を置いて審査された結果、これまでほぼすべてで国や電力会社側が勝訴してきた。そうした司法の「前提」は、福島第1原発事故後、根拠無き原発安全神話を補強する側面を担ってきたというほかない。

 今決定は、画期的な前回決定から先祖返りした。決定文は司法審査の在り方について「新規制基準の内容や、規制委による新規制基準への適合性判断が合理的かどうか、という観点から判断すべきだ」としており、原発事故の反省は全く生かされていない。

 高浜原発は、避難計画の策定が義務づけられる半径30キロ圏内に、福井県以外に京都府と滋賀県が入る。両府県は関電に対し福井並みの同意権を求めているが、来月締結予定の原子力安全協定には盛り込まれない見込みだ。

 福井の同意を取り付けた関電にとって唯一の障害が差し止め決定という状況下での仮処分取り消しは、追認以上の意味を持つ。
    ■    ■
 福井地裁は今回、並行して審理を進めていた大飯原発3、4号機(福井県おおい町)の再稼働差し止め仮処分も却下する決定を出した。本来、別だった審理の一本化は裁判所側が提案した。結果として同地裁は4基に一括して再稼働のお墨付きを与えた。

 原発の再稼働をめぐり司法が判断すべきは何なのか。「行政判断の合理性」だけではあまりに偏った判断と言わざるを得ない。

 司法こそ、国民や専門家の声にもっと耳を傾けるべきである。


⑧朝日新聞社説-高浜原発訴訟 司法の役割はどこへ-2015年12月25日


まるで福島原発事故以前の司法に逆戻りしたかのようだ。

 福井地裁がきのう、関西電力高浜原発3、4号機(福井県)の再稼働を禁じた4月の同地裁の仮処分決定を取り消した。

 新規制基準について、4月の決定は「緩やかに過ぎ、適合しても原発の安全性は確保されない」と断じていた。だが今回は「高度の専門性、独立ログイン前の続き性を有する原子力規制委員会が審査する新規制基準の枠組みには合理性がある」とし、規制委の審査についても「判断に不合理な点はない」と結論づけた。

 同時に審理していた大飯原発3、4号機(同)の運転差し止め仮処分申請も、「再稼働が差し迫っているとはいえない」として却下した。

 4月の決定は05年以降、四つの原発に5回も耐震設計の目安となる基準地震動を超える地震が来たことや、使用済み核燃料プールの設備も堅固でないと指摘した。これらの点も今回の決定は「危険性は社会通念上無視し得る程度にまで管理されている」と述べた。

 原子力専門家の知見を尊重し、安全審査に見過ごせないほどの落ち度がない限り、司法は専門技術的な判断には踏み込まない――。92年、四国電力伊方原発訴訟で最高裁が示した判例だ。今回の決定は、この考え方を踏襲したといえる。

 だがこの枠組みで司法が判断を避け続ける中で、福島事故が起きたのではなかったか。

 原発はひとたび大事故を起こせば広範囲に長期間、計り知れない被害をもたらす。専門知に判断を委ね、深刻な事故はめったに起きないという前提に立ったかのような今回の決定は、想定外の事故は起こり得るという視点に欠けている。「3・11」後の原発のあり方を考える上で大切な論点だったはずだ。

 関電は高浜の2基の再稼働が1日遅れるごとに、約4億円の経済的損失が出ると主張してきた。「司法のストッパー」が外れたことで、再稼働へ向けた手続きが加速する。

 だが、原発には国民の厳しい視線が注がれていることを忘れてはならない。

 電力会社は原発再稼働の同意を得る地元の範囲を県と原発立地自治体に限っている。高浜原発の30キロ圏内には、京都や滋賀も含まれる。同意を得る範囲は見直すべきだ。

 福井県に多くの原発が集まる集中立地のリスクについても、議論は不十分だ。政府も電力会社も、これらの問題点を置き去りにしたまま再稼働に突き進むことは許されない。


⑨毎日新聞社説-高浜で逆転決定 絶対安全の保証でない-2015年12月25日 


 福井地裁が関西電力高浜原発(福井県)3、4号機の再稼働を差し止めた仮処分決定を取り消した。地元同意手続きは完了しており、関電は九州電力川内原発1、2号機に続く運転再開に向けて準備を進める。

 運転を禁じた4月の仮処分決定に関電が異議を申し立て、別の裁判長が審理した。新規制基準に基づく原子力規制委員会の審査の判断に合理性があるかが争点となった。

 今回の決定は、原発施設の耐震性評価に最新の科学的、技術的知見が反映され、規制委に高度の専門性、独立性があるとし、新基準による審査は合理性があると判断した。関電側の主張を認め、安全性に欠ける点があるとは言えないと結論付けた。

 一方、運転差し止めを命じた仮処分決定は、深刻な災害が万が一にも起きない厳格さを新基準に求めた。事故のリスクがわずかでもあれば運転を認めないという考えに基づく判断だが、今回はそれを全面的に覆した。東京電力福島第1原発事故を受けて原発の安全を巡る司法の評価は定まっていないとも言えよう。

 過去の訴訟で裁判所は原発の安全性を自ら判断するのに消極的だった。1992年の四国電力伊方原発訴訟最高裁判決が「高度で最新の科学的、技術的、総合的な判断が必要で、行政側の合理的な判断に委ねられている」との見解を示し、その枠組みが守られてきた。
 ところが福島原発事故は、国の審査に合格しても事故は起き、多数の住民の生命が脅かされることを明らかにした。行政側の判断について裁判所は、より厳しく審査する必要があるのではないか。

 関電大飯原発3、4号機の運転差し止めを命じた昨年5月の福井地裁判決は高浜原発差し止めを命じたのと同じ裁判長だが、住民の生命を守る人格権を優先して「具体的危険性が万が一でもあれば差し止めが認められる」と述べた。大津地裁は昨年11月、大飯、高浜原発の差し止め仮処分申請を退けつつ「避難計画策定が進まなければ再稼働はあり得ない」と早急な再稼働にくぎを刺した。

 しかし、川内原発の再稼働差し止めを却下した今年4月の鹿児島地裁決定は、新基準に不合理な点はなく規制委の審査も妥当と判断した。今回の福井地裁決定も規制委の裁量を広く認めており、従来の消極的姿勢に戻る傾向が見られる。

 関電は3号機の原子炉に核燃料を装着し来年1月下旬の再稼働を目指す。今回の福井地裁決定は「過酷事故が起こる可能性が全く否定されるものではない」とも述べ、国や電力会社に避難計画を含めた重層的な対策を求めた。そうした対策を取らない限り再稼働はできないはずだ。


⑩東京新聞社説-大飯・高浜原発 安全は“神話”のままだ-2015年12月25日


 福井県にある高浜原発、大飯原発の再稼働差し止めを求める司法判断が、覆された。だが待てよ。誰もまだ安全を保証するとは言っていない。大事故が起きた時、責任を取る覚悟も力もないままだ。

 逆回転が加速し始めたということか。「原発ゼロ」の歯止めが、また一つ外された。

 最大の争点は、3・11後に定められた原子力規制委員会の新たな規制基準を、原発再稼働の“お墨付き”とするか、しないかだ。

 規制委は二月、高浜原発3、4号機を新規制基準に適合しているとした。

 それを受け、関電は再稼働の準備に着手。しかし、福井地裁は四月、「新規制基準は合理性を欠く」として、周辺住民が求めた再稼働差し止めを認める決定を下していた。新規制基準の効力に根本的な疑問を投げかけたのだ。

 関電の不服申し立てを受けた福井地裁は、その決定を百八十度覆したことになる。

 安全対策上想定すべき最大の揺れの強さ(基準地震動)、その揺れや津波に対する関電側の対策、使用済み核燃料保管の危険性…。どれをとっても規制委の審査に「不合理な点はない」として、原発が周辺住民の人格権や、個人が暮らしや生命を守る権利を侵害する恐れはないと判断した。

 昨年五月、同様に運転差し止めを認めた大飯原発3、4号機に関しても「規制委の審査中であるから」と、差し止めを却下した。

 高浜に関しては、西川一誠知事が二十二日再稼働に同意して、地元同意の手続きを終えている。関電は、まず3号機から運転開始を急ぐという。

 だが、よく考えてもらいたい。

 裁判所は事業者の取った対策が「新規制基準に適合する」という規制委の判断を「合理的」としただけだ。規制委自身が何度も表明しているように、その判断は「安全」を保証するものではない。

 今回の福井地裁も「過酷事故の可能性がまったく否定されたものではない」と、はっきり述べているではないか。

 知事の判断も同じである。

 安全確保は事業者の責務。事業者の規制は国の責務。県は監視するだけという、及び腰の最終同意である。事業者にも国にも“責任能力”などないことは、福島の現状を見れば、明らかではないか。

 安全性も責任の所在もあいまいなまま、再稼働へひた走る。その状況が何も変わっていないということを、忘れてはならない。


⑪読売新聞社説-高浜再稼働へ 「差し止め」覆す合理的決定だ-2015年12月26日


 専門性が極めて高い原子力発電所の安全審査について、行政の裁量を尊重した妥当な決定だ。

 関西電力高浜原発3、4号機の再稼働差し止めを命じた仮処分の保全異議審で、福井地裁が、差し止め決定を取り消す決定を下した。

 「原子力規制委員会の判断に不合理な点はなく、3、4号機の安全性にも欠ける点がない」というのが、取り消しの理由だ。

 3、4号機については、地元の福井県知事と高浜町長が既に、再稼働に同意している。

 関電は25日、3号機への核燃料挿入を始めた。来年2月までに2基を順次、再稼働させるという。安全確保を最優先し、着実に準備を進めてもらいたい。

 3、4号機は今年2月、東京電力福島第一原発の事故後に厳格化された新規制基準に基づく安全審査に合格した。

 ところが、4月に福井地裁の当時の樋口英明裁判長が「新基準は緩やかに過ぎる」と独善的な見解を示し、再稼働を差し止めた。「ゼロリスク」に固執した不合理な決定だったと言うほかない。

 今回、林潤裁判長は「新基準や規制委の判断に不合理な点があるか否かの観点から審理・判断するのが相当だ」と指摘した。

 その上で、「危険性は社会通念上、無視できる程度にまで管理されている」と結論付けた。

 原発の安全審査について、最高裁は1992年の四国電力伊方原発訴訟判決で、「最新の科学的、技術的、総合的な判断が必要で、行政側の合理的な判断に委ねられている」との考え方を示した。

 司法の役割を抑制的に捉えたこの判例が、原発訴訟での司法判断の基準となっている。

 今回の決定も、判例に則のっとった常識的な内容だと言える。

 一方で、林裁判長は決定の中で、関電と規制委が安全神話に陥ることなく、高い安全性を目指す努力を継続するよう求めた。

 福島第一原発事故の教訓を踏まえれば、関電だけでなく、原発を保有するすべての電力会社に当てはまる注文である。

 避難計画の実効性を高めることも欠かせない。

 高浜原発で万一、重大事故が発生した場合には、半径30キロ圏内の住民が、バスや自家用車に分乗し、兵庫、徳島両県に避難する計画だ。福井県と京都府の17万9000人が対象となる。

 政府と関係自治体には、住民が県境を越えて円滑に避難できるよう、体制整備が求められる。


by asyagi-df-2014 | 2015-12-28 06:17 | 書くことから-原発 | Comments(0)

壊される前に考えること。そして、新しい地平へ。「交流地帯」からの再出発。


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