安倍首相靖国参拝違憲訴訟の「原告第4準備書面」を読む

 2015年2月16日付けの原告第4準備書面は、「平和的生存権に関する被告らの主張に対する反論」とされている。
 安倍首相靖国参拝違憲訴訟の「原告第4準備書面」は、「本件参拝をした側である被告安倍晋三の政治的信条及び被告安倍晋三が内閣総理大臣として参拝した本件参拝の意味と、本件参拝を受け入れた側である被告靖國神社が被告国と不可分一体の関係にあり、かつ「日本を戦争できる国にするための神社」であるというその特殊性からして、本件参拝が「戦争準備行為等」に該当することは明らかである。」、と結論づける。

 あらためて、平和的生存権を捉え直し、「原告第三準備書面」でも指摘された靖國神社の存在そのものを再確認すること、あわせて、安倍晋三政権並びに安倍晋三首相への警戒・分析が重要であるために、この「原告第4準備書面」を読む。


1 反論
 
 まず、被告国の反論は、被告国の第1準備書面で二点にわたって次のように主張している。
【主張1】
「原告らのいう平和的生存権は(中略)抽象的かつ不明確であり、具体的な権利内容、規範基底、主体、成立要件、法的効果等のいずれをみても極めて曖昧なもの」とし、具体的権利性を有しないと主張。
【主張2】
いわゆる百里基地訴訟最高裁判決(平成元年6月20日第3小法廷判決)および本件同種における高裁判決を根拠に、平和的生存権が具体的権利性を有しないと主張。

 被告安倍晋三は、平成26年9月30日付けの準備書面(1)で次のように主張している。
【主張3】
「その具体的権利性が極めてあいまい」であり、「法的保護に値する法的根拠とはいえない」と主張。
【主張4】
百里基地訴訟に関する最高裁判決および本件同種訴訟に関する福岡高等裁判所平成4年2月28日判決および大阪高等裁判所平成4年7月30日判決が平和的生存権の具体的権利性を否定していると主張。

 被告靖國神社は、平成26年10月21日付けの第1準備書面で、次のように主張している。
【主張5】
「平和的生存権に具体的権利性が肯定される場合があると判断した名古屋高裁判決の当否は別にしても」としながら、「『人が神社に参拝する行為自体は、他人の信仰生活等に対して圧迫、干渉を加えるような正確のものではない』し、『国事に殉ぜられた人々』を合祀している靖國神社に参拝したからといって、それが『戦争の準備行為等』に該当しないことは多言を要しないことである」と主張。


2 原告らの主張


 原告は、第1次提訴事件及び第2次提訴事件でその訴えを明確にしてきた。
 第1次提訴事件では、次のように主張した。
(1)平和的生存権を「戦争放棄および戦力不保持を堅持した日本に生存する権利」と定義し、憲法前文、憲法9条、憲法13条を総合的に解釈することによって根拠づけられるもの。
(2)平和的生存権が具体的権利性を有することを主張した上で、少なくとも名古屋高裁判決が例示した場合においては平和的生存権が侵害されたと評価できるという立場のもと、本件においては、二つの要件事実(①国による戦争の準備行為が存在すること、②それにより個人の生命、自由が侵害の危険にさらされたこと)の該当する具体的事実が存在し、不法行為の成立要件たる平和的生存権侵害の事実が認められる。
 第2次提訴事件では、次のように主張した。
 第2次提訴事件では、第2次提訴事件の原告の中に台湾現原住民族に属し、日本国民でない者がいることから、平和的生存権を「戦争放棄および戦力不保持を堅持した社会に生存する権利」とする。
 その他、根拠規定、成立要検討は第1次提訴事件と同様。


3 反論に対する反論


 被告国、被告安倍晋三、被告靖國神社が準備した「反論」(【主張1】から【主張五】)に対して、原告はこの準備書面で次のように明確に反論する。


【主張1に対して】


(平和手生存家の権利内容)
 本件で原告らの主張する平和的生存権の権利内容は、「戦争放棄および戦力不保持を堅持した日本に生存する権利」であり、一義的に特定されている。
(根拠規定)
 本件で原告らの主張する平和的生存権根拠規定は憲法前文、憲法9条、憲法13条であり、特定されている。
(享有主体)
 平和的生存権の享有主体は、平和的生存権が憲法前文を重要な根拠とする権利であり、憲法前文においては「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚」し、「平和を愛する諸国民の公正と正義に信頼して、わららの安全と生存を保持しようと決意」したうえで、「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認」しているのであるから、自然人一般である、と主張。
(成立要件)
 平和的生存権が侵害される場合の要件は、①国による戦争の準備行為が存在すること、②それにより個人の生命、自由が侵害の危険にさらされたこと、として極めて具体的に特定している。
(法的効果)
(1)平和的生存権を裁判上主張することにより生じる法律効果(法的効果)としては、①国による戦争の準備行為が存在すること、②それにより個人の生命、自由が侵害の危険にさらされたこと、という二要件が充足される場合には、侵害行為の違法性と被侵害利益のいずれもが明白であるため、損害賠償請求権の発生が認められる。
②平和的生存権が憲法13条が定める基幹的人格的自律権の基礎をなす権利であることからして、損害賠償請求権に加えて差止請求権も発生する。


【主張2に対して】


(1)被告国は、百里基地訴訟最高裁判決を引用し、平和的生存権の裁判規範性を否定している。
 しかし、当該判決は、平和的生存権の権利主体性について判断したものではない。同判決の射程は、そこにいう「平和」は私法上の行為の効力、すなわち契約が有効か無効化の判断基準とならない、ということにとどまっているのであって、本件のような国家賠償請求権、差止請求権が問題になっている場合に該当するものではない。
※百里基地訴訟最高裁判決
「上告人らが平和的生存権として主張する平和とは、理念ないし目的としての抽象的概念であって、それ自体が独立して。具体的訴訟において私法上の行為の効力の判断基準になるものとはいえない」
(2)被告国は、本件同種訴訟に関する福岡高等裁判所平成4年2月28日判決および大阪高等裁判所平成4年7月30日判決が平和的生存権の具体的権利性を否定していることを指摘しているが、当該判決は、平成20年名古屋高裁判決によって乗り越えられたと考えるべきである。
(3)被告国は、平成20年名古屋高裁判決について、主文の結論に影響しないいわゆる「傍論」で平和的生存権の具体的権利性を肯定した点について、「被控訴人である国が上訴審における審査を受ける余地のないかたちで憲法判断を示したものであり、違憲審査の在り方を誤ったものである」と主張している。しかしながら、自衛隊のイラク派遣の違憲性の判断が求められた際には、平和的生存権の具体的権利性について判断することは必須であり、それは最終的に確認の利益や訴訟としての適法性を理由に請求が棄却されることとなっても変わるところはない。訴訟において裁判所が問いかけられた論点について正面から明確に回答を行ったという点で、平成20年名古屋高裁判決はむしろ積極的に捉えられるべきと言える。


【主張3・主張4に対して】


 これについては、【主張1に対して】【主張2に対して】で同様に反論している。


【主張5に対して】


 特に、靖國神社をどのように捉えるかということと関連して、重要な記述となる、
 以下、次のように指摘する。


(本件参拝の特殊性)
(1)本件では、参拝した側が通常の一般市民ではなく、憲法9条の「改正」を自らの政治家としての目標とする現在の日本国総理大臣であるところの被告安倍晋三であるという特殊性がある。
(2)参拝を受け入れた側が、国家から独立して存在する通常の神社ではなく、原告がこれまで説明するとおり、国家と一体となって戦争を推し進める神社であるところの被告靖國神社であるという特殊性がある。
(3)この参拝した側および参拝を受け入れた側の特殊性に鑑みると、本件参拝が「戦争の準備行為」に該当することは明らかとなる。


(参拝を受け入れた側の特殊性)

【被告靖國神社と国家との関わり】
(1)靖國神社は、明治時代に国家神道の頂点に位置するものとして創建されたものであり、天皇のために戦死したものを勲功顕彰するための宗教的施設であった。
(2)靖國神社は、日清戦争及び日露戦争を機に、戦死者を英霊として慰霊顕彰し、天皇制への帰依を強化する施設としての機能を発揮し、軍国主義の生成及び発展についての精神的支柱としての役割を果たすとともに、戦争完遂のために戦死を美化する宗教的思想的装置として極めて重要な役割をになった。
(3)第2次世界大戦後、靖國神社は宗教法人となったが、国家神道の思想を堅持しており、戦死者を神として崇めることにより、戦死を空襲などによる戦災者などとは明確に区別し、戦死を気高いものとして美化している点において第2次世界大戦前と何ら変わるところはなく、戦前の軍国主義的性格を継承している。
(4)被告靖國神社が行う最も重要な宗教的行為である戦没者の合祀は、敗戦後においても、被告国の主体的・積極的支援・協力がなければ不可の応であり、被告靖國神社は通常の神社とは異なり被告区にとの密接な、あるいは不可分一体ともいえる関係にある。
(5)合祀した戦没者や戦犯を祭神とする被告靖國神社は、だれを、いつ、合祀し祭神するかを主導していた被告国の関与なくして、存立し続けることは不可能でああった。被告国が合祀基準を定め、合祀者を選考し、合祀予定者を祭神名票に記入し、これお厚生省(厚労省)引揚援護局から被告靖國神社に送付することによって、被告靖國神社は初めて組の重要な宗教的行事である合祀を行うことができたのである。
(6)被告国の被告靖國神社に対する支援は、憲法89条に反することが明らかである。また、被告靖國神社が被告国から合祀予定者の情報の提供を受け入れてきたことは、憲法20条2項に反することは明らかである。
(7)被告靖國神社が被告国からの情報提供なくして存続し得ないという意味で、同神社が他の通常の神社と異なることは明白である。


【被告靖國神社の戦争称揚的教義】

 靖國神社は、戦争称揚的教義を有する、いはば「日本を戦争できる国にするための神社」であることは明らかである。その理由は、次のことによる。
①靖國神社の社憲(1952年9月30日)前文には、「本神社は明治天皇の思召に基き、嘉永6年以降國事に殉じられたる人々を奉齋し、その御名を万代に顕彰するため、明治二年六月二九日創立せられた神社である。」と記載されている。ここで靖國神社は、戦争に参加して命を落とすことことを「国事に殉ずる」、すなわち、すすんで国のために役立って命をささげたと規定しており、自らの「聖戦思想」すなわち、国の政策によって戦争に参加し、命を落とすことことは素晴らしいことであるという思想を鮮明にしている。
②靖國神社の社憲第一章(総則)第二条(目的)では、「本神社は御創立の精神の基づき、祭祀を執行し、祭神の神徳を弘め、その理想を祭神の遺族・崇敬者及び一般に宣揚普及し、社運の隆昌を計り、万世にゆるぎなき太平の基を開き、以て理想の實現に寄輿するを以て根幹の目的とする。」と記載されている。ここで被告靖國神社は、戦争に参加したことを「神徳」と表現しているが、かかる表現が戦争を称揚することに繋がることは論を俟たない。
③「靖國神社規則」第三條には、「本法人は明治天皇の宣らせ給うた『安國』の聖旨に基づき、國事に殉ぜられた人々を奉齋し、神道の祭祀を行ひ、その神徳をひろめ、本神社を信奉する祭神の遺族その他の崇敬者(以下「崇敬者」という)を教化育成し、社會の福祉に寄與し、その他本神社の目的を達成するための業務を行うことを目的とする。」と記載されているが、ここで靖國神社は、祀られている戦死者を顕彰することによって、後に続く者を聖戦思想のもと「教化育成」するという立場を明らかにしている。
④被告靖國神社の社憲および神社規則の内容からしても、靖國神社が決して憲法9条にいう「戦争の放棄」の思想に共鳴せず、むしろ国家と一体となり、自らが是とする「聖戦」を称揚し、その準備を促す役割を有していることは明らかであると言える。


(参拝主体の特殊性)


 ここでは、安倍晋三政権並びに安倍晋三首相への警戒・分析としても。


【被告安倍晋三の政治的信条】


 被告安倍晋三は、改憲、特に憲法9条に関する改憲について非常に強い意欲を有している。安全保障に関する同人の見解の是非はともかく、同人の政治的信条が憲法9条を変更し、日本を戦争できる国にすることにあることは明らかである。
【被告安倍晋三の具体的行為について】
(1)被告安倍晋三は、2012年冬の総選挙で政権公約に96條の先行改憲を掲げ、首相就任直後の衆議院本会議では、憲法96条の完成に取り組む方針を明言していた。同人の政治的信条が憲法9条改憲であることからすると、憲法96条改憲の議論も、憲法9条改憲の準備であると捉えることができる。
(2)2013年12月17日、第2次安倍内閣は「防衛計画の大綱(防衛大綱)」を閣議決定した。そこでは、陸海空の自衛隊の一体運用と機動力強化の方針が鮮明にされるとともに、裏付けとして今後5年間の防衛費の増額が打ち出されたまた、新型輸送機や無人偵察機、水陸両用車を調達する計画も盛り込まれている。
(3)武器輸出三原則(共産圏諸国、国連決議による武器禁輸対象国、国際紛争の当事者またはそのおそれのある国への武器輸出を認めないとする政策)の見直しも盛り込まれ、
防衛装備品の輸出や他国との共同開発にも道が開かれることになった。これら防衛大綱の内容が、専守防衛を旨とする憲法9条と親和しないことは論をまたない。
(4)2014年7月1日、第2次安倍内閣は臨時閣議において、他国への攻撃に自衛隊が反撃する集団的自衛権の行使を認めるために憲法解釈を変更するとの閣議決定を行った。被告安倍晋三は、その積み重ねを無視して、憲法の支柱である平和主義を根本から覆す解釈改憲を行ったものと評価することができる。かかる閣議決定による解釈改憲が、憲法9条を変更するという同人の政治的信条に基づくことは明らかである。
(5)2013年11月27日、第2次安倍内閣は、米国の国家安全保障会議(NSC)をモデルにした国家安全保障会議の創設関連法を国会で成立させ、それを受けて同年12月4日に国家安全保障会議(日本版NSC))を発足させた。日本版NSCは首相官邸に設置され、外交・安全保障に関する情報収集や政策決定を行うことになる。
(6)2014年12月6日、第2次安倍内閣は、特定秘密保護法を国会で成立させ、同法は同年12月10日から施行されている。特定秘密保護法と日本版NSC創設とは、一体となった日本の防衛力を高めるものと言える。かかる一連の政策も憲法9条の定める専守防衛の枠を越えるものと評価しうる。


【被告安倍晋三による本件参拝の意味】


(1)被告安倍晋三による本件参拝も、被告安倍晋三の政治的信条に基づき、一連の具体的行為の一環としてなされたものとして評価しなければならない。
(2)本件参拝は、靖國神社という戦前の全体主義的な政治的象徴を承認、称揚、鼓舞するという行為である。そして、被告安倍晋三が、これまでの内閣法制局の見解を無視し、集団的自衛権の行使について憲法に違反しないと主張している上記事実等から鑑みれば、本件参拝は、靖國神社の有していた戦前の軍国主義の精神的支柱としての役割を現在において積極的に活用しようという意図のもとに行われたものと考えざるをえない。被告安倍晋三が靖國神社に参拝し、「国のための戦士」を美化するのは、集団的自衛権の行使容認によって自衛隊の海外派兵が現実味を帯びてくる中で、再び日本国民を精神的に支配し、戦争協力に動員しようとしているものと言える。
(3)靖國神社は、上述のとおり、戦争称揚的性格を有しているところ、かかる神社に憲法9条改憲の意欲をもち、その実現のための具体的政策を遂行してきた被告安倍晋三が参拝するということは、当該参拝も、憲法9条を改憲し、戦争を準備するための意義を有するものである。


by asyagi-df-2014 | 2015-12-19 05:46 | 安倍首相靖国参拝違憲訴訟 | Comments(0)

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