1億総活躍社会とは、「成長戦絡」へのごまかしではないか。本当は、国が貧困対策でどこまで直接関与するかだ。

 毎日新聞は2015年11月20日、安倍晋三政権の「1億総括役社会」について、特集を組んだ。
 毎日新聞は、「安倍晋三政権の新スローガン『1億総活躍社会』の具体策が、ようやく見えてきた。検討中の政策は『3世代同居・近居の推進』といった家族の支え合いを促すものが目につき、貧困対策などは後回しにされそうな雲行きだ。何だか時代に逆行しているような……これで本当に誰もが活躍できるのだろうか。」、と総括している。
 例えば、安倍首相が優先順位を明確にした出生率アップがなぜ緊急なのかということについて、上野千鶴子さんは、「出生率低下や離婚率上昇といったマクロなトレンドは、政治家が古い家族観に戻そうとしても変えられるものではない。人口減少社会を避けがたい現実として受け入れたうえで戦略を立てるべきなのに、現実を否認するから無理がある」、と断定する。


 目新しいものとして出された「希望出生率1・8」に寄与するとされる「3世代同居・近居の推進策」についても、「福井モデル」を全国に広げられるかというと、専門家は懐疑的だ、と次のように分析する。 


 「福井県は京都、大阪、名古屋の近郊ながら通勤圏ではないので、産業構造上、県内に中小企業が多く、人口移動も少ない。女性の働く場が近くにあるからこそ、3世代近居で子育てを手伝ってもらえる。どこでもできるという話ではない」。そう指摘するのは、3世代同居や近居の実態調査と研究を続ける福井県立大学の塚本利幸准教授だ。
 しかも「3世代同居は福井県でも減少傾向にあり、政策的に増やそうとしても無理ですよ。有効なのは3世代近居です」とクギを刺す。同居は子供世代のストレスが高まるという調査結果も出ているという。また、福井県は保育施設の待機児ゼロ、病児デイケアなど育児の社会化が進んでおり「3世代同居が社会整備の不足を補うのではない」と強調する。
 福井県の統計で気になるのは女性管理職率11・7%で全国41位という低さ。県と共同の社会生活調査に加わった金井郁・埼玉大准教授は「福井の女性は昇進見通しのない周辺的な仕事を続けることが多く、40代で昇進昇格の意欲が20〜30代よりも10ポイント前後落ちて2割を切ります。女性活躍社会とは言えません」と冷静に分析する。3世代同居内の家事分担を見ると、子育て世代の34歳以下では妻と母がほぼ半々で分担し、夫や父の分担は10%未満。「家事は女性の仕事という観念は都会に比べて強く、全国モデルにはなり得ない」


 もう一つの緊急対策の柱、「介護離職ゼロ」についての、介護休業(最大93日)を3回程度に分けて取得できるようにする制度改正や、20年代初めまでに在宅・施設サービスの受け皿を40万人分増やす案についても、次の疑問を紹介する。


 「施設はあっても介護士不足でサービスできないのが実情。今年4月に介護報酬が引き下げられ、介護士の平均年収は300万円未満に落ち込んだからなり手がない。サービス低下の原因をつくっておいて整備拡充とは、言行不一致だ」と憤るのは、介護保険制度の立案にも加わった市民福祉団体全国協議会専務理事の田中尚輝さんだ。
 介護休業制度改正についても田中さんは「有給8割で1年ぐらい認めないと効果がない」と指摘する。「そもそも介護離職をなくすには、介護保険を拡充して、重すぎる家族の負担を減らすのが筋。公私の分担をそのままにして介護休業制度をいじるのは問題のすり替えだ」と、介護保険サービスが低下し家族負担が増えていく流れを懸念する。


 このことについて、上野千鶴子さんの「安倍政権が進めているのは、介護保険制度導入でせっかく進んだ『ケアの脱家族化』の動きを『再家族化』するもの。3世代同居は育児だけでなく介護でも家族負担を増大し、コストを削減する狙いだ」、との意見とともに、「介護の分野でも家族の助け合いを復活させる『懐メロ』のにおいをかぎとる」、と指摘する。


 最後に、毎日新聞は、本来、安倍晋三政権が緊急政策として行わなければならないはずの貧困対策について、「一人親家庭の子供の貧困率は50%を超える深刻な状況だが、その対策は後回しにされる気配だ」、とその問題点を指摘する。
 「1億総活躍の厚労省案では、一人親家庭への児童扶養手当の拡充なども挙げているが、緊急対策の2大目標から漏れ、論議がトーンダウンしてしまったのだ。12日の国民会議では、3人の委員が『今回は貧困対策が取り上げられていない。各施策に共通する横軸であるべきで、家庭への支援は貧困世帯、一人親世帯、多子世帯から強化すべきだ』などと疑問を投げかけた。」、と伝えている。


 確かに、このままでは、「3世代同居を検討できる大家族が優遇され、一人親家庭がますます孤立しないか。」、ということになりかねない。
 ここでの大事な視点は、阿部彩首都大学教授の「民間団体やボランティアへの支援だけでなく、国が貧困対策でどこまで直接関与するかだ」ということになる。
 安倍晋三政権の「成長戦略」そのものが格差を生み、国民の活力を奪うものである以上、「1億総括役社会」という政策が、単に国民の目をごまかすものでしかいないとの批判は、免れない。
 逆に、国民はしっかり見ていることを、安倍晋三政権は自覚しなければならない。

 以下、毎日新聞の引用。







毎日新聞-特集ワイド:続報真相 安倍首相、これで1億総活躍できますか 家族に負担押し付け、貧困対策後回し-2015年11月20日 

 ◇3世代同居で出生率アップ?
 「思いつき」「戦時中か」と散々な評判だった安倍晋三政権の新スローガン「1億総活躍社会」の具体策が、ようやく見えてきた。検討中の政策は「3世代同居・近居の推進」といった家族の支え合いを促すものが目につき、貧困対策などは後回しにされそうな雲行きだ。何だか時代に逆行しているような……これで本当に誰もが活躍できるのだろうか。【堀山明子】

 「こういう大きな目標を掲げると、いろんな予算の候補が出て、ピントがぼけてくることもあります。限られた資源を有効に使わなければなりません」。1億総活躍政策の各省庁案が出そろった12日の国民会議第2回会合。安倍首相はこう説明しながら、「新三本の矢」((1)強い経済(2)子育て支援(3)社会保障)のうち、今月末にまとめる緊急対策は(2)と(3)の目標、すなわち「希望出生率1・8」と「介護離職ゼロ」に直結するものに絞る考えを明らかにした。

 確かに「ピンぼけ」批判が噴出していた。政府資料によると、「1億総活躍社会」は「一人一人が生きがいを持ち、充実した生活を送る」という理想と、「50年後も人口1億人維持する」という少子化対策の二つの意味を併せ持つ。だが、その実現に向け取り組むべき「新三本の矢」も具体性に欠けたまま経済成長戦略として走り出したものだから、混乱は目に見えていた。

 今月初めに開かれた自民党の1億総活躍推進本部の会合では、受刑者の矯正施設拡充から難病患者支援まで幅広い案が出され、ベテラン議員から「夢物語で収拾がつかなくなる」と懸念の声が上がった。省庁案の中にも「学校の老朽化対策」(文部科学省)や「農業の活性化に挑む女性の支援」(農林水産省)など便乗予算?と疑われかねないものがあった。

 そこで安倍首相が優先順位を明確にしたわけだが、なぜ出生率アップが緊急なのだろうか。

 「一言で言うと、新三本の矢は懐メロ。国際環境も人口構成も変わっている事実を認めようとせず、『昔の夢をもう一度』と経済成長をうたうだけだから現実味がない」。東大名誉教授で、認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク理事長の上野千鶴子さんは、安倍政権は時代錯誤的な戦略を続けていると根本から批判する。「出生率低下や離婚率上昇といったマクロなトレンドは、政治家が古い家族観に戻そうとしても変えられるものではない。人口減少社会を避けがたい現実として受け入れたうえで戦略を立てるべきなのに、現実を否認するから無理がある」と言うのだ。

 緊急対策に挙がっているメニューで、目新しいのは「希望出生率1・8」に寄与するとされている3世代同居・近居の推進策だ。3月に閣議決定された「少子化社会対策大綱」に盛り込まれ、緊急対策では国土交通省が住宅改修支援などを提案したほか、内閣府も緊急対策には盛り込まなかったが所得税や相続税の優遇措置を講じる方針を示した。

 実際にどんな効果を生むのか。3世代同居率が高く、法政大大学院の研究チームの調査で全国幸福度ランキング1位にもなった福井県を事例に検証してみよう。

 2010年の国勢調査によると、3世代同居率は17・6%で全国2位。県によると、近居は約6割にのぼる。共働き世帯率は36・4%で1位。しかも、どの年齢層でも女性就業率が全国に比べて高く、子育て中の女性が働き続けているのが特徴だ。出生率は最近下落し、昨年は1・55で全国12位だった。出生率アップに直結するかは微妙だが、仕事と子育てを両立させる支援策の参考になるというところか。だが「福井モデル」を全国に広げられるかというと、専門家は懐疑的だ。 

 「福井県は京都、大阪、名古屋の近郊ながら通勤圏ではないので、産業構造上、県内に中小企業が多く、人口移動も少ない。女性の働く場が近くにあるからこそ、3世代近居で子育てを手伝ってもらえる。どこでもできるという話ではない」。そう指摘するのは、3世代同居や近居の実態調査と研究を続ける福井県立大学の塚本利幸准教授だ。

 しかも「3世代同居は福井県でも減少傾向にあり、政策的に増やそうとしても無理ですよ。有効なのは3世代近居です」とクギを刺す。同居は子供世代のストレスが高まるという調査結果も出ているという。また、福井県は保育施設の待機児ゼロ、病児デイケアなど育児の社会化が進んでおり「3世代同居が社会整備の不足を補うのではない」と強調する。

 福井県の統計で気になるのは女性管理職率11・7%で全国41位という低さ。県と共同の社会生活調査に加わった金井郁・埼玉大准教授は「福井の女性は昇進見通しのない周辺的な仕事を続けることが多く、40代で昇進昇格の意欲が20〜30代よりも10ポイント前後落ちて2割を切ります。女性活躍社会とは言えません」と冷静に分析する。3世代同居内の家事分担を見ると、子育て世代の34歳以下では妻と母がほぼ半々で分担し、夫や父の分担は10%未満。「家事は女性の仕事という観念は都会に比べて強く、全国モデルにはなり得ない」

 厚生労働省が10月に発表した若者の意識調査によると、「親世代と同居・近居の意向はない」と答えた人が29%で、「同居してもよい」の16・9%、「近居なら」の27・3%より高かった。同居条件に生活習慣の違いへの配慮を挙げる人が多く、トレンドを変えるのは簡単ではない。
 ◇「時代逆行の懐メロ政策」
 もう一つの緊急対策の柱、「介護離職ゼロ」はどうだろう。検討されているのは、介護休業(最大93日)を3回程度に分けて取得できるようにする制度改正や、20年代初めまでに在宅・施設サービスの受け皿を40万人分増やす案だ。

 「施設はあっても介護士不足でサービスできないのが実情。今年4月に介護報酬が引き下げられ、介護士の平均年収は300万円未満に落ち込んだからなり手がない。サービス低下の原因をつくっておいて整備拡充とは、言行不一致だ」と憤るのは、介護保険制度の立案にも加わった市民福祉団体全国協議会専務理事の田中尚輝さんだ。

 介護休業制度改正についても田中さんは「有給8割で1年ぐらい認めないと効果がない」と指摘する。「そもそも介護離職をなくすには、介護保険を拡充して、重すぎる家族の負担を減らすのが筋。公私の分担をそのままにして介護休業制度をいじるのは問題のすり替えだ」と、介護保険サービスが低下し家族負担が増えていく流れを懸念する。

 上野さんも「安倍政権が進めているのは、介護保険制度導入でせっかく進んだ『ケアの脱家族化』の動きを『再家族化』するもの。3世代同居は育児だけでなく介護でも家族負担を増大し、コストを削減する狙いだ」と、介護の分野でも家族の助け合いを復活させる「懐メロ」のにおいをかぎとる。

 一方、一人親家庭の子供の貧困率は50%を超える深刻な状況だが、その対策は後回しにされる気配だ。1億総活躍の厚労省案では、一人親家庭への児童扶養手当の拡充なども挙げているが、緊急対策の2大目標から漏れ、論議がトーンダウンしてしまったのだ。12日の国民会議では、3人の委員が「今回は貧困対策が取り上げられていない。各施策に共通する横軸であるべきで、家庭への支援は貧困世帯、一人親世帯、多子世帯から強化すべきだ」などと疑問を投げかけた。

 このままでは、3世代同居を検討できる大家族が優遇され、一人親家庭がますます孤立しないか。「弱者の居場所がない社会」の著者で、首都大学東京の子ども・若者貧困研究センター長の阿部彩教授に尋ねると「1億総活躍の政策は判断材料が少ないので、評価する段階にない」と慎重な答えが返ってきた。「今後のプランで、一人親家庭への児童扶養手当の増額など貧困層に届く具体策が検討されているなら、可能性をつぶしたくない」とも。厳しい状況を見てきたからこそ、今は静かに注視しているという感じだ。評価するポイントは「民間団体やボランティアへの支援だけでなく、国が貧困対策でどこまで直接関与するかだ」と言う。

 緊急対策の後は、来春に工程表「ニッポン1億総活躍プラン」が策定される。緊急対策に効果があったか、どれだけの政策が後回しにされたか、国民はしっかり見ていることを忘れないでほしい。
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 ◇「1億総活躍社会」の緊急対策として検討中の案
<希望出生率1.8>
国土交通省
・3世代同居の住宅改修に支援
・3世代近居に都市再生機構の割引
厚生労働省
・不妊治療助成の拡充
・2017年度末までの保育施設受け入れ上乗せ分を40万人から50万人に
・非正規労働者や男性の育休取得を促進
・企業の保育サービスの整備強化
・一人親家庭や多子世帯の支援
文部科学省
・幼児教育の無償化や奨学金の拡充
・フリースクールで学ぶ子への学習支援
<介護離職ゼロ>
厚労省
・20年代初めまでの在宅・施設サービスの整備上乗せを34万人から40万人に
・介護休業の分割取得へ制度見直し
・都市部における特別養護老人ホームの建物所有要件等の規制緩和
・離職した介護・看護職員の再就職支援
・介護職を目指す学生への修学資金貸し付け
・介護ロボットなど企業の育成支援
関連して検討中の減税措置
内閣府
・3世代同居の住宅改修に所得税軽減
・3年以上同居の親族に相続税軽減


by asyagi-df-2014 | 2015-11-24 05:45 | 書くことから-いろいろ | Comments(0)

壊される前に考えること。そして、新しい地平へ。「交流地帯」からの再出発。


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