教科書のアイヌ記述、検定で“歴史歪曲”を考える。

 村野瀬玲奈オフィシャルブログの「北海道のアイヌにかかわる歴史教科書の記述が文部科学省の検定で歪曲されている例」(2015年10月23日)を見て、あらためて驚くとともに、このことに思いが至らなかったことを反省しています。
 このブログが引用した2015年8月21日付けの朝日新聞は、次のように報じています。

○2016年度から中学校で使われる教科書の検定結果が4月、文部科学省から公表されました。それによると、「東京裁判」や「慰安婦」などの社会科の記述について、政府見解に基づくよう意見が付けられ、修正が施されたことがわかりました。また、検定前に一部改定された「学習指導要領解説」に明記され、政府の立場を教えるように求められた「竹島」と「尖閣」については、全ての社会科教科書に記述が登場することになったことも、同時に大きく報じられました(4月7日付朝日新聞など各紙)。一方、明治政府がアイヌ民族の同化を進めた「北海道旧土人保護法」(1997年アイヌ文化振興法制定で廃止)に関する記述にも検定意見が付き、修正されたことはあまり大きく取り上げられませんでした。いま、この修正にアイヌの人たちが怒っています。

○問題の修正は、日本文教出版の歴史教科書でありました。現行本と、今回の検定で修正された記述を読み比べてください。


現行本=政府は、1899年に北海道旧土人保護法(「保護法」)を制定し、狩猟採集中心のアイヌの人々の土地を取り上げて、農業を営むようにすすめました。
修正後=政府は、1899年に北海道旧土人保護法(「保護法」)を制定し、狩猟や漁労中心のアイヌの人々に土地をあたえて、農業中心の生活に変えようとしました。


 前回の検定に合格した現行本の「土地を取り上げて」が、まったく正反対の「土地をあたえて」に修正されています。検定意見書には「(旧土人保護法の趣旨を)生徒が誤解するおそれのある表現である」と短く指摘事由が書かれていますが、5月18日付北海道新聞によると、「同法はアイヌ民族に土地を『下付(下げ渡し)』するとしており、文科省はこれに沿って検定意見を付けた」、4月7日付朝日新聞によると「法の目的は土地を取り上げるのでなく分与することにある」との意見が付いたといいます。これに対して出版社側は、「法の狙いは土地を取り上げる趣旨ではない。納得するとか反論するではなく指摘があったことは直していく」(4月7日付北海道新聞)、「斜めから見た部分を強調していた反省もある」(同朝日新聞)と、修正に応じました。



 驚くべきことに、「『土地を取り上げて』が、まったく正反対の『土地をあたえて』に修正」されたということです。



 このことに対しては、「地元の北海道新聞はこの修正について、『アイヌ民族への支配や同化の歴史をねじ曲げ、薄めようとしているようにしかみえない』と同日の社説ですぐに論評、東京新聞は『極めておかしな記述だ。アイヌには狩猟・採集で『イオル』(猟場)を中心とする伝統的な土地の利用方法があった。政府はそれを無視して土地を取り上げ、まずは和人に分配して、残った農耕に不適な土地をアイヌに分配した。これまで研究されてきた旧土人保護法の評価を間違えている』という北海道大アイヌ・先住民研究センターの丹菊逸治准教授のコメントを、4月16日付『こちら特報部』で掲載しました。」、と反論を載せています。

 朝日新聞の「アイヌの歴史と文化を正しく教えてほしい」との見出しが、この問題のあり方を突いています。
 このことを考えるために、朝日新聞の記事を引用します。


○2007年の国連の「先住民族の権利宣言」、08年の衆参両院の「アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議」を受けて、政府はアイヌ民族が先住民族であるとの認識の下、さらにアイヌ政策を推進する考えを示し、先日、文化庁からその目玉として北海道白老町に建設が予定されている国立アイヌ文化博物館(仮称)の基本計画が公表されました(7月31日付朝日新聞)。「アイヌ民族の暮らしや自然を大切にしてきた生き方などを紹介する『基本展示』と、道内各地のアイヌ語方言の違いなどを取り上げる『テーマ展示』に分ける方針」(同北海道新聞)と伝えられています。
○国連の権利宣言は、先住民族が金銭的な賠償、もしくはその他の適切な救済の形で補償を受ける権利をうたっていますが、吉田さんは「アイヌ政策が文化に封じ込められ、補償問題に触れられない」と、世界的潮流との大きな隔たりを感じています。「巨額を投じて、ただ民具を並べるような象徴空間をつくることがいいのか。人権蹂躙(じゅうりん)の歴史事実を知り、謝罪し、教育する役割も含めた、広い意味での補償の記念館にしないといけない」と言います。
○集会に参加したアイヌ協会副理事長の阿部ユポさん(68)は、18歳で札幌市内に住むようになってから、出身市町村や名前、容貌(ようぼう)などでつらい差別を体験したそうです。裸になると体毛が目立ち、自分をじろじろ見ているような周りの視線が気になり、銭湯は最終の時間に行き、海水浴は暗くなってから海に入ったそうです。会社の旅行でも温泉には入らず、夏の暑い時でもほとんど長袖で過ごしたといいます。「北海道開発とアイヌの同化政策を十分に説明して、子どもたちにアイヌの歴史と文化を正しく教えてほしい」と訴えます。
○3年前、財団法人「アイヌ文化振興・研究推進機構」(札幌市)が発行する小中学生向けの副読本「アイヌ民族:歴史と現在」でも「修整」問題がありました。財団が編集委員会に諮ることなく、アイヌ民族の先住性を否定するかのような書き換えをしたのです(12年6月8日人権情報局「アイヌ副読本『修整問題』は『日本人問題』」)。このときは編集委員らが抗議の声を上げて立ち上がり、2カ月ほどの間に全国から約3万筆の署名を集め、修整を撤回させました(同年8月3日付朝日新聞北海道版)。今回もそのときのメンバーらが母体となって7月、考える会を立ち上げました。
○副読本の編集委員で元小学校教員の若月代表は「誤った歴史を子どもに教えることは、アイヌ民族への差別と偏見を新しく植えつけることにつながる。それは絶対に食い止めなければならない。今後も会議を重ね、行動していく」と決意を新たにしています。

以下、朝日新聞の引用。







朝日新聞-教科書のアイヌ記述、検定で“歴史歪曲”-2015年8月21日

 2016年度から中学校で使われる教科書の検定結果が4月、文部科学省から公表されました。それによると、「東京裁判」や「慰安婦」などの社会科の記述について、政府見解に基づくよう意見が付けられ、修正が施されたことがわかりました。また、検定前に一部改定された「学習指導要領解説」に明記され、政府の立場を教えるように求められた「竹島」と「尖閣」については、全ての社会科教科書に記述が登場することになったことも、同時に大きく報じられました(4月7日付朝日新聞など各紙)。一方、明治政府がアイヌ民族の同化を進めた「北海道旧土人保護法」(1997年アイヌ文化振興法制定で廃止)に関する記述にも検定意見が付き、修正されたことはあまり大きく取り上げられませんでした。いま、この修正にアイヌの人たちが怒っています。
■「正反対」の意味に修正
 問題の修正は、日本文教出版の歴史教科書でありました。現行本と、今回の検定で修正された記述を読み比べてください。
現行本
政府は、1899年に北海道旧土人保護法(「保護法」)を制定し、狩猟採集中心のアイヌの人々の土地を取り上げて、農業を営むようにすすめました。

修正後
政府は、1899年に北海道旧土人保護法(「保護法」)を制定し、狩猟や漁労中心のアイヌの人々に土地をあたえて、農業中心の生活に変えようとしました。

 前回の検定に合格した現行本の「土地を取り上げて」が、まったく正反対の「土地をあたえて」に修正されています。

 検定意見書には「(旧土人保護法の趣旨を)生徒が誤解するおそれのある表現である」と短く指摘事由が書かれていますが、5月18日付北海道新聞によると、「同法はアイヌ民族に土地を『下付(下げ渡し)』するとしており、文科省はこれに沿って検定意見を付けた」、4月7日付朝日新聞によると「法の目的は土地を取り上げるのでなく分与することにある」との意見が付いたといいます。

 これに対して出版社側は、「法の狙いは土地を取り上げる趣旨ではない。納得するとか反論するではなく指摘があったことは直していく」(4月7日付北海道新聞)、「斜めから見た部分を強調していた反省もある」(同朝日新聞)と、修正に応じました。

 地元の北海道新聞はこの修正について、「アイヌ民族への支配や同化の歴史をねじ曲げ、薄めようとしているようにしかみえない」と同日の社説ですぐに論評、東京新聞は「極めておかしな記述だ。アイヌには狩猟・採集で『イオル』(猟場)を中心とする伝統的な土地の利用方法があった。政府はそれを無視して土地を取り上げ、まずは和人に分配して、残った農耕に不適な土地をアイヌに分配した。これまで研究されてきた旧土人保護法の評価を間違えている」という北海道大アイヌ・先住民研究センターの丹菊逸治准教授のコメントを、4月16日付「こちら特報部」で掲載しました。
■各所で抗議の声
 元歴史教育者協議会委員長で現在「子どもと教科書全国ネット21」常任運営委員の石山久男さんは、7月に東京都内であった教科書を考えるシンポジウムでこの修正に触れ、「『旧土人保護法』制定当時、アイヌの土地を取り上げたということは、歴史研究では通説となっているものであり、1997年に制定された『アイヌ文化振興法』によって『旧土人保護法』の内容は否定されているにもかかわらず、『土地をあたえた』というのは明白な歴史の歪曲(わいきょく)である」と話しました。

 検定結果の報道を受けてアイヌ民族の団体「北海道アイヌ協会」は4月15日、加藤忠理事長名で各地区のアイヌ協会長あてに、「歴史的経過を正しく理解できる内容ではありません」「『旧土人保護法』を説明するには、明治維新以降に政府主導で強化された北海道開拓(植民地政策)とアイヌの同化政策についての言及がなければ、不十分であると同時に公平公正な記述とはなり得ません」と、協会の立場を明らかにする文書を送りました。そして、5月17日に開かれた同協会の年次総会で加藤理事長は、「歴史的経緯を踏まえた適切な内容に改めるよう、国や執筆者、出版社などに対応していく」と述べました(5月18日付北海道新聞)。

 その後7月になってアイヌ協会は、日本文教出版に対し当該記述の変更についての「情報提供」を申し入れ、同時に道内各市町村の教育委員会に宛てて、アイヌ民族の文化や人権問題について「公平公正かつ記述が充実している教科書会社を選定」するよう要請しています。今後は、文部科学省に対しても、学習指導要領の中に「アイヌ民族を先住民族として位置づけ、教科ごとにその内容について系統的に記述されるよう」要請する方向です。
 この問題はひと足早く、国会でも取り上げられました。民主党の鈴木貴子衆院議員が「アイヌ民族に係る歴史教科書の記述等に関する質問主意書」(5月20日提出)で、検定によって修正された「『北海道旧土人保護法』の説明は、歴史的経緯を正しく理解するために十分な説明がなされていると政府は考えるか」と問いただしました。これに対し政府は、答弁書で「記述の欠陥は解消されたものと考えている」と答えました(5月29日)。

 「旧土人保護法」についてのこの修正は、政府見解がある場合はそれに基づき、通説のない数字などについてはその旨を明記することなどを求めた検定の新基準によるものではありません。しかし、先住民族アイヌの権利回復をめざす市民団体「アイヌ・ラマット実行委員会」の共同代表出原昌志さんは「先住民族アイヌからすべてを奪った歴史をかき消しており、それを答弁書で閣議決定した政府の歴史認識こそが問われるべきだ」としています。

 8月7日、北海道アイヌ協会関係者や教員ら有志でつくる「教科書のアイヌ民族記述を考える会」(若月美緒子代表)が札幌市内で開いた集会で、講師の吉田邦彦北海道大教授(民法)は、沼沢地帯や崖の急斜面など不毛で開墾困難な土地の「下付」が多く、15年で開墾できなければ没収するという条件や質権・抵当権が設定できないという金融上の差別的制約があったことなどを挙げ、「修正後のように単に『土地をあたえた』と書くだけでは、生徒に完全な所有権の譲渡であるかのような誤解を与える」と指摘しました。一方で、「『保護法で土地を取り上げた』とするのも不正確だが、保護法制定以前にアイヌ民族から『土地を取り上げた』事情の叙述を全くなくし、歴史的事実をきちんと記述していないという意味で、教科書としてははなはだバランスを失している」とも述べました。

 さらに吉田さんは「不法行為による民族的な人権侵害に対する補償は民法学の根幹に関わる制度。差別立法の下での土地奪取という事実は、今後のアイヌ政策の核心に関わってくる記述なので、非常に大きな問題だ」と言います。
■「アイヌの歴史と文化を正しく教えてほしい」
 2007年の国連の「先住民族の権利宣言」、08年の衆参両院の「アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議」を受けて、政府はアイヌ民族が先住民族であるとの認識の下、さらにアイヌ政策を推進する考えを示し、先日、文化庁からその目玉として北海道白老町に建設が予定されている国立アイヌ文化博物館(仮称)の基本計画が公表されました(7月31日付朝日新聞)。「アイヌ民族の暮らしや自然を大切にしてきた生き方などを紹介する『基本展示』と、道内各地のアイヌ語方言の違いなどを取り上げる『テーマ展示』に分ける方針」(同北海道新聞)と伝えられています。

 国連の権利宣言は、先住民族が金銭的な賠償、もしくはその他の適切な救済の形で補償を受ける権利をうたっていますが、吉田さんは「アイヌ政策が文化に封じ込められ、補償問題に触れられない」と、世界的潮流との大きな隔たりを感じています。「巨額を投じて、ただ民具を並べるような象徴空間をつくることがいいのか。人権蹂躙(じゅうりん)の歴史事実を知り、謝罪し、教育する役割も含めた、広い意味での補償の記念館にしないといけない」と言います。

 集会に参加したアイヌ協会副理事長の阿部ユポさん(68)は、18歳で札幌市内に住むようになってから、出身市町村や名前、容貌(ようぼう)などでつらい差別を体験したそうです。裸になると体毛が目立ち、自分をじろじろ見ているような周りの視線が気になり、銭湯は最終の時間に行き、海水浴は暗くなってから海に入ったそうです。会社の旅行でも温泉には入らず、夏の暑い時でもほとんど長袖で過ごしたといいます。「北海道開発とアイヌの同化政策を十分に説明して、子どもたちにアイヌの歴史と文化を正しく教えてほしい」と訴えます。

 3年前、財団法人「アイヌ文化振興・研究推進機構」(札幌市)が発行する小中学生向けの副読本「アイヌ民族:歴史と現在」でも「修整」問題がありました。財団が編集委員会に諮ることなく、アイヌ民族の先住性を否定するかのような書き換えをしたのです(12年6月8日人権情報局「アイヌ副読本『修整問題』は『日本人問題』」)。このときは編集委員らが抗議の声を上げて立ち上がり、2カ月ほどの間に全国から約3万筆の署名を集め、修整を撤回させました(同年8月3日付朝日新聞北海道版)。今回もそのときのメンバーらが母体となって7月、考える会を立ち上げました。

 副読本の編集委員で元小学校教員の若月代表は「誤った歴史を子どもに教えることは、アイヌ民族への差別と偏見を新しく植えつけることにつながる。それは絶対に食い止めなければならない。今後も会議を重ね、行動していく」と決意を新たにしています。
(門田耕作)


by asyagi-df-2014 | 2015-10-25 05:32 | 人権・自由権 | Comments(0)

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