安保関連法案-国外犯処罰規定の持っている問題は、非常に深刻。

 STOP!違憲の「安保法制」(憲法研究者の共同ブログ)に、「本田稔・立命館大学教授(刑法)の「京都民報」の記事を先日、転載して紹介いたしました。本田稔・立命館大学教授の『自衛隊法『改正』案で罰則適用拡大『戦争に行くな』は犯罪』。本田教授には、この共同ブログのために、論説を執筆していただきました。」という内容で掲載されました。

 本田稔教授の「自衛隊法改正案の狙い」で読み取ったものは、次のことでした。

この「自衛隊法改正案」で安倍晋三政権が狙っているものの、一つには、「戦争の中止と平和の回復を求める活動を『戦争妨害行為』として処罰することを目論んでいる」ことである。また、それは、「日本国外の戦闘地域において戦争を継続することによってこそ、日本の国益が保護されるという考えを持たなければ、「刑法2条の例に従う」という案文は「合理的」に解釈できないでしょう。帝国主義的軍国主義の思想の表現にほかなりません。」というものである。

 だからこそ、「 国外犯処罰規定の持っている問題は、非常に深刻です。」という指摘を重く受けとめなければならない。

 以下、STOP!違憲の「安保法制」(憲法研究者の共同ブログ)より「自衛隊法改正案の狙い」の引用。






自衛隊法改正案の狙い
                              立命館大学 本田稔


安保関連法案のうち「自衛隊法改正案」は、自衛隊員が服務規律に違反した場合の処罰規定を、それを国内において行なった場合だけでなく、国外において行なった場合にも適用することを目論んでいます。集団的自衛権の名のもとに、アメリカと共同して海外で戦争を行なう上で、自衛隊員の士気を高め、組織の規律を強化し、造反者を出さないための法改正であることは明らかです。

(1)自衛隊法改正案122条の2の条文

 自衛隊法改正案では、現行122条と123条の間に、新たに「122条の2」を盛り込もうとしています。それは、次のような条文です。

 122条の2第1項  第119条第1項第7号及び第8号並びに前条第1項の罪は、日本国外においてこれらの罪を犯した者にも適用する。

 同第2項  第119条第2項の罪(同条第1項第7号又は第8号に規定する行為の遂行を共謀し、教唆し、又は煽動した者に係るものに限る。)及び前条第2項の罪は、刑法第2条の例に従う。

(2)自衛隊法改正案122条の2の犯罪類型

 まず、122条の2第1項についてですが、これは119条第7号および第8号並びに122条第1項の処罰規定を「日本国外においてこれらの罪を犯した者にも適用する」としています。119条第7号は、上官の職務命令に対して共同して反抗する罪(上官命令共同反抗罪)であり、第8号は、指揮官が上層部ぼ職務命令に反して自分の部隊を不法に指揮する罪(自部隊不法指揮罪)であり、そして「前条」、つまり122第1項とは、これら上官命令共同反抗罪と自部隊不法指揮罪の共謀・教唆・煽動です。要するに、

 上官命令共同反抗罪

 上官命令不法指揮罪

 これらの罪の共謀・教唆・煽動

を「日本国外において犯した者にも」自衛隊法の罰則を適用するとしています(2015年6月18日の日弁連意見書参照)。

 次に、122条の2第2項ですが、122条1項の罪の全部、防衛出動命令を受けた者の団体結成罪(1号)、職務離脱罪(2号)、上官命令反抗・不服従罪(3号)、自部隊不法指揮罪(4号)および職務懈怠罪(5号)ならびに職務離脱罪および上官命令反抗・不服従罪の教唆・幇助および団体結成罪および自部隊不法指揮罪の共謀・教唆・煽動。要するに、

 団体結成罪

 職務離脱罪

 上官命令反抗・不服従罪

 自部隊不法指揮罪

 職務懈怠罪

 職務離脱罪と上官命令反抗・不服従罪の教唆・幇助

 団体結成罪と自部隊不法指揮罪の共謀・教唆・煽動

は、「刑法第2条の例に従う」としています。つまり、これらの罪を日本国外において犯した「すべての者」(日本国民だけでなく、それ以外の者も含まれる)に適用するとしています(日弁連意見書参照)。

(3)自衛隊法改正案122条の2第1項の特徴

 第1項は、違反行為が日本国外において行なわれた場合にも罰則を適用するというものです。一般に法の場所的・人的適用範囲としては、

 すべての者の国内犯(刑法1条)

 すべての者の国外犯(刑法2条)

 日本国民の国外犯(刑法3条)

 日本国民以外の者の国外犯(刑法3条の2)

 公務員の国外犯(刑法4条)

の規定があります。自衛隊員は「公務員」なので、122条の2第1項の条文としては、「刑法4条の例に従う」と規定してもよかったのではないかと思いますが、そのような案分にならなかったのは、次のような理由が考えられます。

 自衛隊法上の犯罪は、自衛隊員という身分・資格を有する者が日本国内で行なった場合に成立する罪、すなわち「構成的身分犯」です。従って、日本国民であっても、自衛隊員でなければ、それを単独で行なうことはできません。日本国内にいる外国人が行い得ないことは、言うまでもありません。しかし、自衛隊員ではない日本国民や外国人が、日本国内で、自衛隊員を教唆・幇助して、違反行為を行なわせた場合には、刑法65条1項が適用されて、自衛隊員ではない日本人・外国人にも、違反行為の共犯が成立すると解されています。では、公務員でない日本人や外国人が、日本国外において、日本国外にいる自衛隊員を教唆・幇助して、職務離脱や上官命令反抗を行なわせた場合、刑法65条1項が適用されるのかとううと、かりに法案が「刑法4条の例に従う」と規定されていれば場合には、その適用はできないことになります。というのは、4条は「公務員に適用する」と定めているため、たとえ共犯規定であっても、公務員以外の者には適用できないと解されているからです。法案作成者は、公務員ではない日本国民・外国人にも共犯規定の適用を可能にするために、「刑法4条の例による」と規定せずに、「日本国外においてこれらの罪を犯した者にも適用する」とした可能性があると思います。「これらの罪」には、自衛隊員による職務離脱の正犯だけでなく、それに対する公務員ではない日本人・外国人の共犯も含まれる余地があるからです。

 しかしながら、このように条文を変えさえすれば、日本国外における日本人・外国人を共犯として処罰できると考えるのは、刑罰法規を自由自在に扱えると思い込んでいる権力者のおごりでしかありません。刑法総則に規定された刑罰法規の場所的・人的適用範囲に関する原則は、一般刑法である刑法典だけでなく、自衛隊法などの特別刑法にも適用され、その刑罰権の行使を制限するためのものです。122条の2第1項の規定案は、公務員による犯罪については、非公務員には適用しないとしてきた規制を緩和し、非公務員である日本人・外国人にも適用できるよう、その範囲を拡大することを可能にするものであり、実質的には刑法4条の改悪です。日本や外国で活動する平和運動家や日本人・外国人ジャーナリストは、自衛隊が派兵された地域に赴いて、集団的自衛権の行使や後方支援活動が憲法に違反すること、その任務を中止すべきことを訴えるでしょう。そのような訴えが、上官命令共同反抗や不法指揮の教唆・煽動であるとして、122条の2で処罰する狙いが見え隠れします。誰がこのような法案を作成してのか知りませんが、姑息な法案であるとしかいいようがありません。戦争の中止と平和の回復を求める活動を「戦争妨害行為」として処罰することを目論んでいます。 」

(4)自衛隊法改正案122条の2第2項の特徴

 これに対して、122条の2第2項は、「刑法第2条の例に従う」と規定しているので、刑法の実質改悪は伴っていないように見えますが、そうではありません。

 刑法2条に挙げられている犯罪類型は、内乱罪、通貨偽造罪、文書偽造罪などの国家法益・社会法益に対する罪であり、それを行なった者は、日本人であれ、外国人であれ、すべて処罰されます。内乱によって被害がどこで発生するかというと、それは日本国内です。通貨偽造による被害はどこで発生するかというとのは、それも日本国内です。つまり、刑法2条は、日本の国家法益・社会法益の侵害が日本国内で発生することを早期に予防するために、その準備行為や実行が外国で行なわれた場合にも日本の刑法を適用するとしているのです。それは、あくまでの日本の国益の保護主義という立場から正当化されているだけです。

 しかし、自衛隊法改正案122条の2第2項が挙げている犯罪類型は、内乱罪や通貨偽造罪のように被害が日本国内で発生するようなものではありません。それは、集団的自衛権の行使の名のもとで日本国外において米軍と一体となって行なわれる武力行使や後方支援という名の兵站を阻害する行為であり、戦争妨害行為でしかありません。戦争ぼ妨害が国益を損ねるというのであれば、それもまた「被害」なのかもしれませんが、それは日本国内において発生しません。それは、戦闘地域において生ずるだけです。刑法2条に列挙された犯罪類型を見る限り、日本国外の戦闘地域で行なわれる122条の2第2項の違反行為に刑法2条を適用することはできないように思います。日本国外の戦闘地域において戦争を継続することによってこそ、日本の国益が保護されるという考えを持たなければ、「刑法2条の例に従う」という案文は「合理的」に解釈できないでしょう。帝国主義的軍国主義の思想の表現にほかなりません。

 以上、私が気づいた点を書きました。急いで書いたため、自衛隊法改正案を正確に分析できているか自信はありませんが、少なくとも、国外犯処罰規定の持っている問題は、非常に深刻です。


by asyagi-df-2014 | 2015-08-11 05:38 | 書くことから-憲法 | Comments(0)

壊される前に考えること。そして、新しい地平へ。「交流地帯」からの再出発。


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