労働者派遣法「改正」案は廃案以外にはあり得ない。

 日本労働弁護団は、2015年8月5日、労働者派遣法「改正」案の廃案を求める意見書を表明した。
 日本労働弁護団の労働者派遣制度及びこの改正案に対する見解は、この「意見書」の中で次のようにまとめられている。

 「日本の労働者派遣法は1985年に制定されて以来、労働者の保護を無視した規制緩和の一辺倒で来た結果、派遣労働者は増大し、偽装請負や違法派遣も多発し、ワーキングプアやネットカフェ難民の問題も社会問題化し、2008年のリーマンショックの際の大量の派遣切りにより、その問題が一気に吹き出した。このような社会情勢を受けて不十分ながら派遣労働者の保護を目的とすることを明記した改正派遣法が2012年に成立し、ようやく派遣労働の規制強化に向けて歩を進み始めたところであったにもかかわらず、本法案は、その時代に逆行し、雇用が不安定で低処遇のままの派遣労働者を激増させ、日本の雇用、ひいては社会全体を破壊する悪法である。」


 安倍晋三政権の基本的な背景となる「成長戦略」の目的が、「企業が世界で一番利益を上げる。搾取をしやすい制度にすること」にある以上、そこで働く労働者の問題は、歪な政策の痛みを伴う(犠牲になる)ものになっていしまう。
この改正案は、まさしく、日本労働弁護団の指摘する「雇用が不安定で低処遇のままの派遣労働者を激増させ、日本の雇用、ひいては社会全体を破壊する悪法である。」ものでしかない。
 安保関連法案同様に、廃案に追い込む必要がある。

この意見書の内容を要約する。


(労働者派遣法「改正」案の経過)
 労働者派遣法「改正」案は、2015年6月19日、衆議院本会議における強行採決により自民、公明両党などの賛成多数で可決されて参議院に送付され、2015年7月8日に参議院本会議で、更には同月30日に参議院厚生労働委員会で審議入りした。
(日本労働弁護団の労働者派遣法に対しての見解)
 雇用の大原則が「直接雇用」と「無期(期間の定め無し)」にあり、間接雇用又は有期雇用は、それを客観的に必要とし、かつ合理的な場合にあたる正当な理由がある場合に限り、例外的に許容されるものに過ぎないとの観点から、労働者派遣制度は厳格な規制と派遣労働者の保護の下においてのみ例外的に許されるに過ぎない。
(労働者派遣法「改正」案の基本的な問題点)
(1)審議されている本法案は、常用代替防止という法の趣旨を完全に有名無実化する間接雇用促進法であり、派遣労働者の処遇改善や雇用安定のための措置も実効性がないものばかりで、日本の雇用を破壊するもの。
(2)多数の派遣労働者から派遣労働の実態に対する悲痛な訴えと本法案に対する不安や反対の声が寄せられ、その声は時を経るごとに拡大している。これも、派遣労働者のキャリアアップや雇用安定に資するなどという政府の本法案に対する説明が虚偽であり、本法案が派遣労働者を利用する派遣会社や派遣先企業の利益ばかりを考えた間接雇用促進法であることが広く知られてきたからである。
(労働者派遣法「改正」案の問題点-派遣期間制限の撤廃)
(1)現行法は、意味が希薄化したとはいえ、常用代替防止原則を維持するために、専門26業務以外の一般業務について最長3年の派遣受入期間の上限を設け、派遣受入期間の上限が無い業務を専門26業務に限っていた。しかし、本法案は、この常用代替防止原則を完全に骨抜きにするものである。
(2)無期雇用派遣については、業務・業種を問わず、派遣先は派遣労働者を無制限に利用できるようになる。また、有期雇用派遣についても、派遣先の事業所単位での3年間の派遣受入期間の制限を一応設けてはいるものの、3年ごとに派遣先が過半数労働組合等から意見聴取を行えば、派遣先は派遣労働者を無制限に受け入れることが可能である。
(3)無期雇用派遣では言うまでもなく、有期雇用派遣でも業務・業種に関係なく、派遣先が派遣労働者を期間の制限無く自由に利用できる制度に変更するものである。この変更は、派遣労働の利用を臨時的・一時的なものとする労働者派遣法の最重要理念を捨て去り、常用業務に派遣労働者を充てることに道を大きく開くものである。こうした変更が、企業における常用業務の従事者を、直接雇用労働者から派遣労働者への置き換えを後押しするものであることは明らかであり、常用代替防止原則は完全に骨抜きにされたと言うべきである。
(労働者派遣法「改正」案の問題点-雇用安定措置の実効性の欠如)
(1)本法案では、現行法30条が改正される形で、雇用期間が1年以上(見込み含む。)の有期雇用派遣労働者等のために雇用安定措置を講じる努力義務を派遣元に課した。具体的には、①派遣元が派遣先に当該派遣労働者を直接雇用するよう依頼すること、②別の派遣先への就業機会の確保及び提供、③派遣元が派遣労働者以外の労働者として無期雇用する機会の確保及び提供、④その他雇用安定を図るため必要な措置として厚労省令で定める措置を採るべき努力義務を派遣元に課した(本法案30条1項1~4号)。しかし、これらの措置はいずれも実効性がない。
(2)本法案は、無期雇用派遣については、有期雇用派遣のような雇用安定措置義務の規定すら何ら置いていない。
(労働者派遣法「改正」案の問題点-「均等待遇」ではなく「均衡待遇」)
 本法案は、派遣先が派遣労働者を期間の制限なく自由に利用できる内容であるにもかかわらず、派遣労働者の低処遇や派遣先労働者との格差を改善するための実効性ある措置は全く規定されていない。派遣労働者の賃金がいわゆる正社員と比べても上昇カーブを描かないことは周知の事実であるにもかかわらず、その処遇の劣悪さは放置されたままである。
(労働者派遣法「改正」案の問題点-専門26業務に従事する派遣労働者の雇用不安定)
 本法案が専門26業務を廃止して、現在専門26業務に従事する派遣労働者も派遣先の同一の組織単位の業務に就けるのは最長3年とされることから、3年後に職を失う危険性が生じることになる。そして、この観点から多くの報道がなされ、また、多くの派遣労働者の悲痛な叫びが明らかになったのであるが、この点につき、政府与党は、何らの経過措置を講じるつもりはないとの意思を示している。
(労働者派遣法「改正」案の問題点-労働契約申し込みみなし制度及び施行日の問題)
 根本的な問題として、派遣可能期間のカウント方法が根底から変わってしまっているため、派遣先に対し本制度が発動する機会が減少すると予想される。
現行法であれば、業務単位であったため、絶対的な期間としてカウントができた。ところが、本法案では、派遣可能期間の延長をすれば、いつまでも期間制限違反が生じることはない。また、人単位での期間制限についても、組織単位を変更すれば同一派遣労働者を利用し続けられることから、組織単位を変更さえすれば期間制限違反が生じることはない。
本来、この規定は、違法派遣があった場合に派遣労働者を救済するために設けられた規定であったが、従来違法とされたものが、本法案で合法化されてしまうため、その役割が大きく縮小されることになる。
(日本労働弁護団の主張)
 日本労働弁護団は、労働者を不安定雇用に追い込み、格差拡大を招来する本法案について、参議院の審議においても、日本中の労働者・労働組合と力を合わせて廃案へと追い込むことを改めて表明するものである。


日本労働弁護団の「意見書」の引用。







労働者派遣法「改正」案の廃案を求める意見書

2015年8月5日
     日本労働弁護団 会長 鵜飼良昭

第1 労働者派遣法「改正」案は廃案以外にはあり得ない

 労働者派遣法「改正」案(以下、「本法案」と言う。)は、本年6月19日、衆議院本会議における強行採決により自民、公明両党などの賛成多数で可決されて参議院に送付され、本年7月8日に参議院本会議で、更には同月30日に参議院厚生労働委員会で審議入りした。

 日本労働弁護団は、雇用の大原則が「直接雇用」と「無期(期間の定め無し)」にあり、間接雇用又は有期雇用は、それを客観的に必要とし、かつ合理的な場合にあたる正当な理由がある場合に限り、例外的に許容されるものに過ぎないとの観点から、労働者派遣制度は厳格な規制と派遣労働者の保護の下においてのみ例外的に許されるに過ぎないと主張してきた*1。そして、審議されている本法案は、常用代替防止という法の趣旨を完全に有名無実化する間接雇用促進法であり、派遣労働者の処遇改善や雇用安定のための措置も実効性がないものばかりで、日本の雇用を破壊するものとして断固この法案に反対してきた*2。

 日本労働弁護団は、本年6月2日に「6・2派遣労働緊急ホットライン」を実施し、多数の派遣労働者から派遣労働の実態に対する悲痛な訴えと本法案に対する不安や反対の声が寄せられ*3、その声は時を経るごとに拡大している。これも、派遣労働者のキャリアアップや雇用安定に資するなどという政府の本法案に対する説明が虚偽であり、本法案が派遣労働者を利用する派遣会社や派遣先企業の利益ばかりを考えた間接雇用促進法であることが広く知られてきたからである。日本労働弁護団は、ここに本法案の問題点を改めて述べるとともに、参議院において派遣労働者の切実な実態や問題点を踏まえて本法案の審議を行い、速やかに本法案を廃案とすることを求めるものである。

第2 本法案の内容と問題点

1 派遣期間制限の撤廃

 本法案の最大の問題点は、派遣期間の制限を事実上撤廃し、派遣先が恒久的に派遣労働を利用することが可能となり、常用代替防止原則を完全に骨抜きにすることである。

(1)現行派遣法の規定

 現行の労働者派遣法(以下、「現行法」と言う。)は、いわゆる専門26業務に該当するか否かによって、派遣先が同一の業務に派遣労働者を受け入れることができる期間の上限が異なる。即ち、派遣対象業務が専門26業務に該当すれば派遣先の派遣受入可能期間は無制限である一方、専門26業務以外の一般業務にあたれば派遣先の派遣受入可能期間は原則1年、最長3年(過半数労働組合等の意見聴取を要する)とされている(現行法40条の2第1~4項)。

 派遣先の派遣労働者の受入期間に制限が設けられているのは、派遣労働はあくまで一時的・臨時的なものに制限することにより、派遣先の正規雇用社員によって行われていた業務が派遣労働者に代替されることを防ぐことにある(常用代替の防止)。1985年に労働者派遣法が制定された際の最も重要な派遣法の原則である。

(2)本法案の規定

 本法案は、現行法の専門26業務による区分を廃止して、派遣元と派遣労働者との間の労働契約(派遣労働契約)の雇用期間の定めの有無により取扱いを区別する。

 即ち、派遣労働契約が雇用期間の定めのない契約(=無期雇用派遣)の場合には、派遣先が派遣労働者を受け入れることができる期間制限を撤廃し、派遣先は制限無く派遣労働者を受け入れ利用することができる(本法案40条の2第1項但書第1号)。

 他方、派遣労働契約が雇用期間の定めのある契約(=有期雇用派遣)の場合については、派遣労働者個人単位と事業所単位の2つに分けて規定する。つまり、派遣労働者個人単位では、派遣先が同一の派遣労働者を同一の組織単位*4の業務に使用できる期間の上限を3年とする(本法案35条の3、40条の3)。また、事業所単位では、派遣先が同一の事業所において派遣労働者を受け入れることができる期間の上限を3年とする一方(本法案40条の2第1項本文、第2項)、派遣先が派遣可能期間の抵触日の1ヵ月前の日までの間(意見聴取期間)に過半数労働組合等からの意見聴取を行えば、更に3年間、同一の事業所で派遣労働者を受け入れることが可能となり、それ以降も同様とする(本法案40条の2第3項、第4項)。

(3)本法案の問題点

 現行法は、上記のとおり、意味が希薄化したとはいえ、常用代替防止原則を維持するために、専門26業務以外の一般業務について最長3年の派遣受入期間の上限を設け、派遣受入期間の上限が無い業務を専門26業務に限っていた。

 本法案は、この常用代替防止原則を完全に骨抜きにするものである。本法案の建議の段階では、「派遣先の常用労働者(いわゆる正社員)との代替が生じないように、派遣労働の利用を臨時的・一時的なものに限ることを原則とする」*5とされ、本法案においても、厚労大臣は法律の規定の運用に当たって、「派遣就業は臨時的かつ一時的なものであることを原則とするとの考え方を考慮する」(本法案25条)として、常用代替防止原則が維持されているかに見える。

しかしながら、まず、無期雇用派遣については、業務・業種を問わず、派遣先は派遣労働者を無制限に利用できるようになる。

また、有期雇用派遣についても、派遣先の事業所単位での3年間の派遣受入期間の制限を一応設けてはいるものの、3年ごとに派遣先が過半数労働組合等から意見聴取を行えば、派遣先は派遣労働者を無制限に受け入れることが可能である。派遣先は過半数労働組合等の意見聴取さえ行えばよく、その同意も不要であるから(過半数労働組合等が派遣先の意見聴取に対して派遣期間の延長に反対する旨の意見を述べた場合には、派遣先は過半数労働組合等に派遣可能期間の抵触日の前日までに期間を延長する理由等を説明すれば足り(本法案40条の2第5項)、延長自体は何ら制限無く可能である。)、派遣受入可能期間延長に何の歯止めもかからない。

この場合でも同一の派遣労働者の同一組織単位での派遣上限期間3年は適用されるので、派遣先は3年を超えて同一の派遣労働者を同一の組織単位の業務に使用することはできないが、3年ごとに派遣労働者を入れ替えることにより、無制限に同一の業務に派遣労働を利用できるようになる。すなわち、派遣先は派遣労働者を3年ごとに入れ替えることにより期間制限なく派遣労働者を利用できることになる。

また、派遣先は派遣労働者の就業する組織単位を変更すれば同一の派遣労働者であっても3年を超えて引き続き利用することができる。これは、単に組織単位を変更すればよいだけで、類似の業務でも可能となる。例えば、ある派遣労働者を3年間営業一課で使用し、次に3年間営業二課で使用するといったことも可能となる。

 これらの制度は、無期雇用派遣では言うまでもなく、有期雇用派遣でも業務・業種に関係なく、派遣先が派遣労働者を期間の制限無く自由に利用できる制度に変更するものである。この変更は、派遣労働の利用を臨時的・一時的なものとする労働者派遣法の最重要理念を捨て去り、常用業務に派遣労働者を充てることに道を大きく開くものである。こうした変更が、企業における常用業務の従事者を、直接雇用労働者から派遣労働者への置き換えを後押しするものであることは明らかであり、常用代替防止原則は完全に骨抜きにされたと言うべきである。

2 雇用安定措置の実効性の欠如

(1)有期雇用派遣について

  ア 現行法の規定

   2012年改正法は、雇用期間が1年以上の有期雇用派遣労働者等の希望に応じて、無期雇用の機会の確保と提供、紹介予定派遣、教育訓練などの無期雇用への転換推進措置のいずれかの措置を採るべき努力義務を派遣元に課した(現行法30条)。ただし、これも努力義務であり実効性は無いに等しい。

  イ 本法案

   本法案では、現行法30条が改正される形で、雇用期間が1年以上(見込み含む。)の有期雇用派遣労働者等のために雇用安定措置を講じる努力義務を派遣元に課した。

具体的には、①派遣元が派遣先に当該派遣労働者を直接雇用するよう依頼すること、②別の派遣先への就業機会の確保及び提供、③派遣元が派遣労働者以外の労働者として無期雇用する機会の確保及び提供、④その他雇用安定を図るため必要な措置として厚労省令で定める措置を採るべき努力義務を派遣元に課した(本法案30条1項1~4号)。

また、同一の組織単位の業務に継続して3年間従事する見込みのある有期雇用派遣労働者に対しては、派遣元は、努力義務ではなく、かかる措置を講じる法的義務を負うこととされた(本法案30条2項)。

他方で、現行法では、派遣受入期間の制限の抵触日以降も、それまで使用していた派遣労働者を使用しようとするときには、抵触日の前日までの直接雇用の申込義務を派遣先に課しているが(現行法40条の4)、本法案では、この規定は削除されている。

ウ 本法案の問題点

これらの措置はいずれも実効性がない。④はまだ内容が明らかでないので措くとしても、①は派遣先に直接雇用を義務づけるものではないから、派遣元が「依頼する」ことさえすれば、派遣先がその依頼を断ったとしても義務を履行したことになる。②についても、機会を提供する別の派遣先の「条件が、特定有期雇用派遣労働者等の能力、経験その他厚生労働省令で定める事項に照らして合理的なものに限る。」ということは文言としては規定されているけれども、例えば、当該派遣労働者が到底通勤できない遠隔地の業務や、勤務できないような職種の業務を紹介したとしても、雇用安定措置を講じたといって派遣元が義務を免れようとする事態が生じることの懸念は払拭されていない。③は、派遣元における管理業務等を念頭においていると解されるが、かかるポストが無尽蔵に存在するわけではないからその実効性にはそもそも疑問がある上、法文上も「機会」を確保・提供すればいいだけなので、「機会」は提供したけれども採用(配置)に至らずという結論でも当該措置を講じたものとされかねない。

このように、本法案の有期雇用派遣労働者への雇用安定措置はおよそ実効性のないものである。直接無期の雇用が大原則であることからすれば、ある程度の期間にわたって派遣労働者として同一の派遣先に継続して勤務してきたのであれば、労働者の希望に応じて、その派遣先への直接雇用が実現するような権利を派遣労働者に付与すべきであるのに、本法案は、派遣労働者の正社員化について何らの保障もない。

また、現行法でも同じであるが、本法案は雇用期間が1年以上の派遣労働者については、上記雇用安定措置は派遣元の努力義務に止まり、やはり実効性がない。さらに、同一の組織単位の業務に3年間従事する見込みのある有期雇用派遣労働者については派遣元に雇用安定措置の法的義務を課してはいるが、前記のとおりそれ自体に実効性がないばかりか、公法上の義務に止まる限り派遣元が措置義務に違反したとしても、直ちに私法上の効力が発生するものでもなく派遣労働者は何ら救済されず実効性のない規定となる。

更に、本法案は、現行法に規定されていた直接雇用の申込義務すら削除し、むしろ直接雇用への誘導のための雇用安定措置は後退しているとも言える。

(2)無期雇用派遣について

 本法案は、無期雇用派遣については、有期雇用派遣のような雇用安定措置義務の規定すら何ら置いていない。先の①~④の雇用安定措置義務は、あくまでも有期雇用派遣を対象としたものである。

 この点について、無期雇用派遣は、派遣元と派遣労働者との間の雇用期間の定めのない労働契約であって雇用が安定していると説明されたり、はたまた雇用期間の定めがない点に着目して派遣労働者であっても「正社員」と喧伝される事態が生じるに至っている。

 しかしながら、雇用は「無期」雇用が原則であるとともに、「直接」雇用が大原則である。間接雇用は、使用と雇用が分離することによって労働者の権利行使の困難化をもたらし、労働条件や労働環境の劣悪化に繋がり、また、労働者を使用する派遣先に雇用責任を回避させ労働者の雇用不安定に繋がるものである。現実にも、2008年のリーマンショックの折には、無期雇用派遣労働者も派遣先から大量の派遣切りの被害に遭い、本来このよう場合でも無期雇用の派遣労働者の雇用を守るべき派遣元も違法に派遣労働者を解雇するという事態が数多く生じた。無期雇用派遣だから雇用が安定しているなどと言うことは、今の日本社会では到底実現していない。間接雇用である労働者派遣について、これを「正社員」と呼び、雇用が安定しているかのように宣伝することは全くもって的外れである。

 そして、無期雇用派遣の労働者について、派遣先の正社員となることが保障されているような権利や制度は全く存在しない。派遣労働は間接雇用であり雇用が極めて不安定であるため、派遣労働者を保護するために雇用安定化措置を法律で設け、派遣労働から直接無期雇用への誘導が必須であるが、本法案には、そうした規定は一切ない。

(3)キャリアアップについて

 本法案については、いわゆるキャリアアップ措置などとして、派遣元の派遣労働者への教育訓練義務を課したことが(本法案30条の2)、「正社員化」へつながるものであると政府側より説明されている。

 しかしながら、キャリアアップ措置と言われるものも、法文上は派遣労働者が派遣就業に必要な技能及び知識を習得するための教育訓練に過ぎず、「正社員化」を目的としたものでないことは明らかである。この制度は、単に派遣元が自社の労働者を教育訓練することを義務づけたものに過ぎず、こうした措置が採られたとしても、派遣労働者の雇用安定につながる実効性は極めて薄い。

3 「均等待遇」ではなく「均衡待遇」

 上記の通り、本法案は、派遣先が派遣労働者を期間の制限なく自由に利用できる内容であるにもかかわらず、派遣労働者の低処遇や派遣先労働者との格差を改善するための実効性ある措置は全く規定されていない。派遣労働者の賃金がいわゆる正社員と比べても上昇カーブを描かないことは周知の事実であるにもかかわらず、その処遇の劣悪さは放置されたままである。

(1)現行法の規定

 派遣労働者と派遣先労働者との賃金水準の格差を改善すべく、2012年改正法は、派遣元が派遣労働者と派遣先労働者との賃金の均衡を配慮しなければならないとの義務を設けた(現行法30条の2第1項)。もっとも、この規定は「均衡待遇」の配慮義務を派遣元に課したに止まり、何らかの私法的効力があるものではないので、格差是正のための実効性は無いに等しい。

(2)本法案の規定

 本法案では、上記の現行法30条の2第1項の均衡待遇の配慮義務を条文の数を変更しただけで、その内容は全く同一である(本法案30条の3)。

 本法案は、均衡待遇原則の実効性を図るためとして、派遣元が派遣労働者の要求により、賃金の決定について派遣先労働者との均衡を考慮した事項について説明するという派遣先の説明義務を新設した(本法案31条の2第2項)。また、派遣先は派遣元の要求により、派遣先労働者の賃金水準や募集の情報を提供するという派遣先の情報提供の配慮義務を新設した(本法案40条5項)。そして、派遣先は派遣先労働者と同様に派遣労働者に対して教育訓練を行い、福利厚生施設の利用を認めるよう配慮しなければならないとの派遣先の配慮義務も新設した(本法案40条2項3項)。更に、労政審報告書では、均衡待遇の推進のために派遣元指針及び派遣先指針に一定の派遣元及び派遣先の義務を規定するものとされている。

(3)本法案の問題点

雇用が不安定で権利行使が困難な派遣労働者にとって、その適正な処遇を確保するためには均等待遇原則は本来必須の条件であり、同原則は法律に明記されなければならない。

 ところが、本法案は、派遣労働の規制を緩和して派遣先が期間制限なく派遣労働を利用できるようにする一方、派遣労働者の処遇改善のための均等待遇原則の導入は見送られている。現行法の均衡待遇原則を維持する(しかも配慮義務である)だけで、派遣労働者の低労働条件や派遣先労働者との格差は放置されたままである。

 本法案は、均衡待遇を推進するために、派遣元や派遣先にいくつかの義務を新設しているが、単に派遣元に説明義務を課すだけであり、また、それ以外は派遣元及び派遣先の「配慮義務」や「努力義務」を規定するに止まり、何らの私法的効力が生じるものでもない。これでは派遣労働者の処遇改善にとって何の実効性もないことは明らかである。

 なお、今国会では、民主、維新、生活の3党共同で「労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策の推進に関する法律案」が提案されていたが、同法案は与党及び維新で修正され、1年以内に派遣労働者の均等待遇について法的措置を講じるという内容から、3年以内に派遣労働者の均等及び均衡待遇について法的措置を含む措置を講じるとされ、3党共同提案より大きく後退した内容で衆院を通過している。この法案では均等待遇の実現は程遠く、結局、改正派遣法案が成立してしまえば、派遣労働者の処遇について何らの手当もないまま、派遣労働者を激増させる改正がなされることになり、貧困と格差を助長することは言うまでもない。

4 専門26業務に従事する派遣労働者の雇用不安定

 また、本法案が専門26業務を廃止して、現在専門26業務に従事する派遣労働者も派遣先の同一の組織単位の業務に就けるのは最長3年とされることから、3年後に職を失う危険性が生じることになる。そして、この観点から多くの報道がなされ、また、多くの派遣労働者の悲痛な叫びが明らかになったのであるが、この点につき、政府与党は、何らの経過措置を講じるつもりはないとの意思を示している。しかし、このことは「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」報告書(2013年8月20日)においても、「26 業務についても上限が課されることとなれば、これまで派遣期間の制限なく派遣が行われていた業務に期間制限がかかることとなり、派遣先の事業活動及び派遣労働者の雇用への影響が大きいのではないか」と指摘されていたところである。また、「労働者派遣制度の改正について(2014 年1 月29 日労働政策審議会建議)」でも、「制度見直しの時点で現に行われている26業務への派遣については、新制度への移行に際して経過措置を設けることが適当である」と述べているところでもあった。こうした研究会報告や建議の内容を無視して、26業務の派遣労働者をいたずらに不安定な地位におくのが本法案である。本来であれば、26業務に従事している派遣労働者を直接雇用へ誘導することによって、その雇用の安定を図るべきであるが(現行法は、専門26業務等の派遣労働について、同一の派遣労働者を3年以上派遣先が同一の業務に受け入れていたときには、3年経過後に新たに労働者を派遣先が雇用しようとするときには、その派遣労働者に直接雇用の申込をしなければならないとされ(現行法40条5)、直接雇用に誘導している規定がある。)、本法案にはそうした制度はないばかりか、逆に26業務に従事する派遣労働者を失業の危険に晒し、その雇用を不安定なものにしている。

5 労働契約申し込みみなし制度及び施行日の問題

(1)現行(施行待ち)の労働契約申込みみなし制度

2012年改正で導入され、2015年10月1日から施行が予定されていた派遣先の労働契約の申込みなし制度も、本法案によって未施行であるにもかかわらず一部変更される。

現行の労働契約申込みみなし制度は、①派遣禁止業務の派遣、②無許可・無届の事業主からの労働者派遣の受入れ、③派遣可能期間を超えての労働者派遣の受け入れ、④脱法目的で行われた偽装請負の4つの違法行為のいずれかがあった場合、その違法行為がなされた時点から、違法行為が終了した時点から1年の間、派遣先が当該派遣労働者に対し、直接雇用の労働契約を申し込んだとみなす制度である(ただし、派遣先がこれらの違法行為について善意無過失の場合は除く)。

(2)本法案の規定

本法案では、業務単位の派遣可能期間という概念がなくなるため、上記③が変更されることになる。

変更の1点目は、有期雇用派遣労働者につき3年を超えて派遣労働者を受け入れた場合に変更となる(本法案40条の6第3号(法案2条関係))。法文上の文言は同一であるものの、現行の業務単位のカウントがなくなり、派遣先が同一の事業所において派遣労働者を受け入れることができる期間となる。そして、既に述べたとおり、これは派遣先が過半数労働組合等からの意見聴取を行えば、期間延長が可能となる。すなわち、本法案では、派遣可能期間の延長手続をせずに3年を超えて有期派遣労働者を受け入れた場合が、労働契約申込みみなしの対象ケースとなるものである。もっとも、過半数労働組合等の意見聴取手続につき、厚労省令で定めたものが行われていないことによって生じる違反については除外される。

変更の2点目は、有期派遣労働者につき、同一の組織単位の業務に3年を超えて派遣労働者を受け入れた場合に変更となる。これも、業務単位での期間のカウントがなくなり、人単位でのカウントとなる点が変更されている。

(3)本法案の問題点

根本的な問題として、派遣可能期間のカウント方法が根底から変わってしまっているため、派遣先に対し本制度が発動する機会が減少すると予想される。

現行法であれば、業務単位であったため、絶対的な期間としてカウントができた。ところが、本法案では、派遣可能期間の延長をすれば、いつまでも期間制限違反が生じることはない。また、人単位での期間制限についても、組織単位を変更すれば同一派遣労働者を利用し続けられることから、組織単位を変更さえすれば期間制限違反が生じることはない。

本来、この規定は、違法派遣があった場合に派遣労働者を救済するために設けられた規定であったが、従来違法とされたものが、本法案で合法化されてしまうため、その役割が大きく縮小されることになる。

しかも、3号においては、なぜか厚労省令で定めた意見聴取手続に違反した場合は本制度の対象外とされており、その適用の範囲をできるだけ小さくしようとの意図も見受けられる。

本制度は、2012年改正法の中でも施行日を3年先に定めるという異例な扱いを受けており、通常であれば施行前に改変することは許されない。ところが、厚労省は、本制度が現行法下で施行されることを「10.1問題」などと揶揄し、派遣業界が作成したのと見紛うばかりの書類(いわゆる「10.1問題」ペーパー)を作成し、このままでは訴訟が頻発するとか、派遣労働者が雇止めにあうなどの虚偽の情報を国会議員に流布するなどし、本制度を現行法下で施行させない強い意思を露わにしている。しかし、こうした行為を厚労省がなすことは指弾されなければならない。

加えて、本法案の施行日は、2015年9月1日とされているところ、参議院における審議期間を考えれば、到底同日に施行することは不可能な状況となっている。こうした状況下で、2012年改正法の未施行部分(すなわち、本制度)も一緒に施行日を先延ばしにする案が浮上しているというが、これもまた許されるものではない。

第3 終わりに

 日本の労働者派遣法は1985年に制定されて以来、労働者の保護を無視した規制緩和の一辺倒で来た結果、派遣労働者は増大し、偽装請負や違法派遣も多発し、ワーキングプアやネットカフェ難民の問題も社会問題化し、2008年のリーマンショックの際の大量の派遣切りにより、その問題が一気に吹き出した。このような社会情勢を受けて不十分ながら派遣労働者の保護を目的とすることを明記した改正派遣法が2012年に成立し、ようやく派遣労働の規制強化に向けて歩を進み始めたところであったにもかかわらず、本法案は、その時代に逆行し、雇用が不安定で低処遇のままの派遣労働者を激増させ、日本の雇用、ひいては社会全体を破壊する悪法である。日本労働弁護団は、労働者を不安定雇用に追い込み、格差拡大を招来する本法案について、参議院の審議においても、日本中の労働者・労働組合と力を合わせて廃案へと追い込むことを改めて表明するものである。


by asyagi-df-2014 | 2015-08-10 05:32 | 書くことから-労働 | Comments(0)

壊される前に考えること。そして、新しい地平へ。「交流地帯」からの再出発。


by あしゃぎの人
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