日本労働弁護団の緊急アピールを考える

 日本労働弁護団は、2015年7月17日、「安全保障法案」の衆議院での今日裁決を受けて、「自衛官の法的地位との関係から『安全保障法案』の廃案を求める緊急アピール」を、訴えた。
 この「アピール」を考える。

(アピールの視点)
 この法案によって重大な影響を受ける自衛官の法的地位を巡る問題についての検討は、全くなされていない。
(視点の理由)
 日本労働弁護団は、過去60年にわたり、民間労働者及び公務労働者の権利擁護のために奮闘し続けてきたものであり、自衛官の法的地位すなわち自衛官の一人一人の権利と義務についての検討をないがしろにしたままで、『安全保障法案』を成立させることについては到底容認し得ない。
(三点の問題点)
①第1点 一人一人の自衛官は憲法擁護義務を負うこと
「安全保障法案」は憲法違反の立法であり、違憲立法に基づく上官の命令が違法であることはもとより、各自衛官が憲法違反の「安全保障法案」』に基づく上官の命に服することは、憲法擁護義務違反となる。
②第2点 一人一人の自衛官の同意なしに集団的自衛権行使のための出動を命じ得ないこと
 自衛官は、武力行使を任務としており、自らの生命・身体に危険が生じることに予め同意しているが、その同意の範囲は、武力行使の範囲に関する従前の政府見解、すなわち、「外国の武力攻撃によって国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆されるという急迫、不正の事態に対処し、これらを守るためのやむを得ない措置として初めて、武力の行使が許される」ことを前提としている。自衛官が、外国軍隊への支援等の集団的自衛権行使のために、生命・身体の危険を冒すことに同意して任官したと解する余地はなく、現在の自衛官に対し、集団的自衛権行使にかかわる軍務に服するよう命じることは許されないというべきである。
③第3点 国は一人一人の自衛官に対し安全配慮義務を負うこと
 最高裁判所の判決によれば、国は、公務員に対して安全配慮義務を負い、自衛官に関しても防衛出動時をも含めて安全配慮義務を負う*2。
 しかるに、法案作成過程において、集団的自衛権行使のために出動を命じた自衛官に対して、いかなる措置を講ずることによって安全配慮義務を尽くすのかを検討した形跡は、見当たらない。
 集団的自衛権行使のために生命・身体を危険にさらすことに関して、一人一人の自衛官から改めて同意を得ることなく、また、安全配慮義務を尽くすことなく、政府が、自衛官に対し集団的自衛権行使のための出動を命じることは、自衛官の意思及び生命身体をないがしろにしてこれを弄ぶものであり、法治国家として到底許されることではない。
(主張)
 万が一にも、大多数の国民の反対を押し切って『安全保障法案』を成立させるという暴挙がなされたときには、少なくない自衛官が、憲法擁護義務を基礎に、また、外国軍隊等のために生命身体を捧げることに同意してはいないことを根拠に、そして、国が安全配慮義務を尽くさず自衛官の生命身体を危険にさらすことは許されないことを理由に、『安全保障法』に基づく指揮命令に従う義務のないことの確認を求めて提訴することが想定される。
 そのときには、日本労働弁護団は、日本全国の心ある多くの憲法学者・行政法学者・労働法学者と連携しながら、労働弁護士の総力を挙げて、外国に奉仕するための『戦死者』『戦傷病者』を自衛官から出さないために、日本の歴史上最大級の裁判闘争を展開する決意であることを、ここに表明しつつ、かかる状況に至る前に『安全保障法案』を速やかに廃案とすることを強く求めるものである。

 日本労働弁護団は、まず、「安全保障法案」を速やかに廃案とすることを強く求めるが、万が一にも、「安全保障法案」が成立させられた時には、自衛官からの提訴を含め、次の闘いを準備していることを宣言した。

 以下、日本労働弁護団の声明の引用。








自衛官の法的地位との関係から『安全保障法案』の廃案を求める緊急アピール
                                                   日本労働弁護団
       幹事長  高木太郎
                 (2015年7月17日)

 去る7月16日、自民党・公明党は、衆議院本会議においていわゆる『安全保障法案』を強行採決した。しかし、衆議院における法案審議過程をみたとき、この法案によって重大な影響を受ける自衛官の法的地位を巡る問題についての検討は、全くなされていない。

 日本労働弁護団は、過去60年にわたり、民間労働者及び公務労働者の権利擁護のために奮闘し続けてきたものであり、自衛官の法的地位すなわち自衛官の一人一人の権利と義務についての検討をないがしろにしたままで、『安全保障法案』を成立させることについては到底容認し得ない。かかる観点から、以下の三点を指摘し、廃案を求めるものである。

第1点 一人一人の自衛官は憲法擁護義務を負うこと

 憲法99条は、公務員が「この憲法を尊重し擁護する義務を負う」ことを定める。一人一人の自衛官は憲法擁護義務の担い手なのであり、多くの憲法学者が指摘するとおり『安全保障法案』は憲法違反の立法であり、違憲立法に基づく上官の命令が違法であることはもとより、各自衛官が憲法違反の『安全保障法案』に基づく上官の命に服することは、憲法擁護義務違反となる。

第2点 一人一人の自衛官の同意なしに集団的自衛権行使のための出動を命じ得ないこと

 憲法18条は、何人も奴隷的拘束を受けないこと、及び、その意に反する苦役に服させられないことを保障している。このため、自衛官を含む公務員に対して、生命・身体の危険を冒してでも職務に服するよう命じることが適法化される範囲は、予め、本人が同意している範囲に限定され、本人の同意している範囲を超えて、危険な職務に服することを命ずることはできない。このことは、半公務員的性質を有するかつての公共企業体労働者に関しては最高裁裁判所の判例*1によって確立しており、その理は任用関係とされる自衛官を含む公務員にも妥当する。

 自衛官は、武力行使を任務としており、自らの生命・身体に危険が生じることに予め同意しているが、その同意の範囲は、武力行使の範囲に関する従前の政府見解、すなわち、「外国の武力攻撃によって国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆されるという急迫、不正の事態に対処し、これらを守るためのやむを得ない措置として初めて、武力の行使が許される」ことを前提としている。自衛官が、外国軍隊への支援等の集団的自衛権行使のために、生命・身体の危険を冒すことに同意して任官したと解する余地はなく、現在の自衛官に対し、集団的自衛権行使にかかわる軍務に服するよう命じることは許されないというべきである。

第3点 国は一人一人の自衛官に対し安全配慮義務を負うこと

 最高裁判所の判決によれば、国は、公務員に対して安全配慮義務を負い、自衛官に関しても防衛出動時をも含めて安全配慮義務を負う*2。

 しかるに、法案作成過程において、集団的自衛権行使のために出動を命じた自衛官に対して、いかなる措置を講ずることによって安全配慮義務を尽くすのかを検討した形跡は、見当たらない。

 集団的自衛権行使のために生命・身体を危険にさらすことに関して、一人一人の自衛官から改めて同意を得ることなく、また、安全配慮義務を尽くすことなく、政府が、自衛官に対し集団的自衛権行使のための出動を命じることは、自衛官の意思及び生命身体をないがしろにしてこれを弄ぶものであり、法治国家として到底許されることではない。

 日本国憲法は行政裁判所や軍法会議等の特別裁判所を設置することを許しておらず、一人一人の自衛官は、違憲立法に基づく職務命令に対する自らの法的地位や権利を確保するため、提訴し、最終的に最高裁判所の判断を仰ぐ権利を有するのであって、この一人一人の自衛官の提訴する権利を国が妨害してはならないことはいうまでもない。

 万が一にも、大多数の国民の反対を押し切って『安全保障法案』を成立させるという暴挙がなされたときには、少なくない自衛官が、憲法擁護義務を基礎に、また、外国軍隊等のために生命身体を捧げることに同意してはいないことを根拠に、そして、国が安全配慮義務を尽くさず自衛官の生命身体を危険にさらすことは許されないことを理由に、『安全保障法』に基づく指揮命令に従う義務のないことの確認を求めて提訴することが想定される。

 そのときには、日本労働弁護団は、日本全国の心ある多くの憲法学者・行政法学者・労働法学者と連携しながら、労働弁護士の総力を挙げて、外国に奉仕するための『戦死者』『戦傷病者』を自衛官から出さないために、日本の歴史上最大級の裁判闘争を展開する決意であることを、ここに表明しつつ、かかる状況に至る前に『安全保障法案』を速やかに廃案とすることを強く求めるものである。
  以  上

*1 千代田丸事件・最高裁判所第三小法廷判決昭43・12・24民集22巻13号3050頁/判時542号31頁。当該事案は、1956(昭和31)年に電々公社所属の海底線敷設船千代田丸が日韓海底線に生じた故障の修理のため、朝鮮海峡に出動を命ぜられたが、当時、韓国連合参謀本部が李承晩ラインを超える日本船舶を対象とする「撃沈声明」を発していたことから、全電通労組本社支部の役員が船員の安全確保のために当局と交渉を行い、千代田丸の出航を25時間遅らせたことに関して、公共企業体等労働関係法(当時)17条違反を理由に解雇されたというものである。最高裁は、米海軍艦艇の護衛が付され安全措置が講じられたにせよ、実弾射撃演習に遭遇する可能性もあり、海底線布設船の乗組員の本来予想すべき海上作業に伴う危険の類いではない等の理由を挙げ、「労働契約の当事者たる千代田丸乗組員において、その意に反して義務の強制を余儀なくされるものとは断じ難い」と判示して、解雇を無効とした。

*2 自衛隊工藤事件・最高裁判所第三小法廷昭50・2・25民集29巻2号143頁/判時767号11頁。当該事案は、自衛隊八戸駐屯地の車両整備工場において、車両整備作業中の自衛官が、大型自動車に轢かれて死亡した事件について、国が自衛官に対して安全配慮義務を負うか否かが争点となった。この点について、最高裁判決は、次のとおり判示した。「国と国家公務員(以下「公務員」という。)との間における主要な義務として、法は、公務員が職務に専念すべき義務(国家公務員法101条1項前段、自衛隊法60条1項等)並びに法令及び上司の命令に従うべき義務(国家公務員法98条1項、自衛隊法56条、57条等)を負い、国がこれに対応して公務員に対し給与支払義務(国家公務員法62条、防衛庁職員給与法4条以下等)を負うことを定めているが、国の義務は右の給付義務にとどまらず、国は、公務員に対し、国が公務遂行のために設置すべき場所、施設もしくは器具等の設置管理又は公務員が国もしくは上司の指示のもとに遂行する公務の管理にあたつて、公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(以下「安全配慮義務」という。)を負つているものと解すべきである。もとより、右の安全配慮義務の具体的内容は、公務員の職種、地位及び安全配慮義務が問題となる当該具体的状況等によつて異なるべきものであり、自衛隊員の場合にあつては、更に当該勤務が通常の作業時、訓練時、防衛出動時(自衛隊法76条)、治安出動時(同法78条以下)又は災害派遣時(同法83条)のいずれにおけるものであるか等によつても異なりうべきものであるが、国が、不法行為規範のもとにおいて私人に対しその生命、健康等を保護すべき義務を負つているほかは、いかなる場合においても公務員に対し安全配慮義務を負うものではないと解することはできない。」


by asyagi-df-2014 | 2015-08-04 05:33 | 書くことから-憲法 | Comments(0)

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