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米軍再編-日米防衛指針(ガイドライン)改定を考える。

 自衛隊と米軍の役割分担を定めた日米防衛協力指針(ガイドライン)が18年ぶりに改定された。
このことについて、秋田魁新報の社説を参考に問題点等をまとめる。

(1)自衛隊の活動範囲が地球規模に広がるなど、安全保障の在り方が大きく変わる。
(2)指針の基となる安保法制が国会で審議される前の改定である。安保政策の大転換にもかかわらず、明らかに国会と国民を軽んじている。安倍政権は説明責任を果たす必要がある。野党も国会の場で厳しく追及していくべきだ。
(3)新指針は「切れ目ない共同対応」と「グローバルな日米同盟」をうたっている。平時であっても軍事に関して日米で調整する機関を常設し、日本の有事で米軍が武力行使するときは作戦を事前調整するとした。
 直接攻撃されなくても日本の存立が脅かされると判断される事態では、集団的自衛権を行使できると定めた。具体的には停戦に至っていない海域での機雷撤去、米艦船の防護など、日本周辺に限らない活動を例示した。自衛隊による弾道ミサイルの迎撃も明記した
(4)日米両国は、同盟の強化が進むと改定の意義を強調した。安倍政権には、財政難から軍事費を削減している米の負担を軽くし、自衛隊の存在感と日本への信頼度を高め、日米関係を対等に近づけたいとの狙いがある。
(5)自衛隊が今なお圧倒的な力を持つ米軍との一体化に向かえば、むしろ米への従属化が進むのではないか。米軍の戦略に自衛隊がいや応なく取り込まれる危険はないのか。日本が主体性を失って追従するようなことがあってはならない。
(6)何より自衛隊の活動範囲や任務が拡大すれば、隊員の危険も増すと考えるのが普通だ。


 また、神戸新聞社社説は、ガイドライン改定の問題点を次のように指摘する。

(1)集団的自衛権行使  → 憲法九条違反の疑い
(2)地理的制約の撤廃  → 専守防衛方針と矛盾
(3)地球規模の日米提携 → 自衛隊が米軍の歯車に
(4)海外での武力行使  → 戦闘に巻き込まれる恐れ


 さらに、各新聞の社説等の主張をここで抜粋する。

(1)秋田魁新報
 元防衛官僚で元内閣官房副長官補の柳沢協二氏は先ごろ、新指針と安保法制について秋田市で講演し「集団的自衛権による他国防衛は、日本への攻撃を誘発する。戦争をさせないという世論が大切だ」と述べた。国民も国会論戦を注視し、世論の形成に参加する必要がある。
(2)茨城新聞
 日米安保条約は日本の安全と極東の平和と安全を維持するために、米軍の日本駐留を認めている。今回の改定で自衛隊と米軍の協力が世界中に拡大すれば、条約の趣旨から大きく逸脱する。どう対米追従に歯止めをかけるのか。国会での論議の深化が求められる。
(3)京都新聞
 安保法制が国会で議論される前に新指針を日米で合意し、既成事実化することは許されないが、逆に言えば指針の裏付けとなる安保法制の審議はこれからだ。日本の安保政策の大転換を推し進めるのか、待ったをかけるのか。国会が役割、責任を果たす時だ。
 戦後、自衛隊は海外で人を殺さず、殺されもしなかった。国民もそのことの意味を深く考えたい。
(4)神戸新聞
 「平和主義」の国是からの逸脱を重ねる安倍政権の姿勢は、容認するわけにはいかない。
 自民党の「1強」状態で、野党は存在感に乏しい。とはいえ、安保政策の転換はまだ国会の承認を受けておらず、民意に沿うとは言えない。政府の対米交渉先行を、野党は後半国会で厳しく追及すべきだ。
(5)山陰中央新聞
 安倍内閣はガイドラインの改定を具体化した形の安全保障関連法案を5月14日にも閣議決定する予定で、その後に国会論議が始まる。自公両党はガイドラインの改定直前、安保法制に実質合意した。だが、与野党の本格的な論戦に先立って日米政府間でガイドライン改定に踏み切ったことは国会軽視で、本末転倒との批判を免れない。
 日米安保条約は日本の安全と極東の平和と安全を維持するために、米軍の日本駐留を認めている。今回の改定で自衛隊と米軍の協力が世界中に拡大すれば、条約の趣旨から逸脱する。どう対米追従に歯止めをかけるか。国会での論議の深化が求められる。
(6)高知新聞
 拡大する自衛隊活動の裏付けとなる安全保障法制は与党が実質合意したとはいえ、国会審議はまだ始まっていない。国民への説明や国会の論議より米国との約束を先行させる政府の姿勢は許されない。
 憲法と日米安保条約は一字一句変わらないのに、「国のかたち」は大きく変わってしまう。国民の理解を置き去りにしたまま、安倍政権が突っ走ることは到底容認できない。国会での徹底的な論議を強く求める。
(7)西日本新聞
 この指針の下で、政府が必要と判断すれば、自衛隊は「世界のどこでも、いつでも」米軍を支援できるようになる。自衛隊が米国の軍事戦略の歯車として組み込まれていくことになりはしないか。
 そうなれば、専守防衛を大原則としてきた日本の安全保障政策は変質し、自衛隊の海外活動に伴う危険も高まるばかりだろう。
 また、新指針は政府と与党が進める安全保障法制見直しを先取りした内容になっている。安保法制の国会審議も始まっていない現時点で、法改正を前提とした役割分担を対外的に約束するのは本末転倒であり、断じて容認できない。
(8)佐賀新聞
 日米政府がガイドラインをまとめたのを受けて、米国の世界戦略へ組み込まれると懸念の声が上がっている。しかし、自衛隊と米軍の一体化が強まるのを懸念とするのか、意義のある同盟の深化とするかは政治的な立場によって評価が異なる。
 今はまだ国民の関心が追いついていないが、何よりも安全保障は国民の命と財産、国土を守るためのもの。再改定でも日本の活動は専守防衛、非核三原則などに従うことも明記している。国会で政府が国際情勢や危機感をきちんと説明した上、理解を得ながら法整備を進めなければならない。
(9)南日本新聞
 オバマ政権は軍事の軸足をアジア太平洋地域に移す「リバランス(再均衡)」政策を掲げるものの、財政難で国防予算の削減を余儀なくされている。同盟国や友好国との関係強化を打ち出しており、今回の改定は日本が軍事的負担を肩代わりした格好だ。
 日米安保条約は日本の安全と極東の平和を維持するために、米軍の日本駐留を認めている。防衛協力が世界中に広がれば条約の趣旨からも大きく逸脱する。
 安保政策の見直しは国民の理解を得ることが大前提だ。国会で徹底した議論を尽くすべきだ。
(11)琉球新報)
米政府は尖閣諸島を「日米安全保障条約5条の適用対象」としている。だが米軍投入は米議会の承認が必要となる。尖閣有事の際でも米政府が議会承認を求めたり、議会が承認したりする可能性は低い。米軍の役割を「支援」にとどめたのはその反映であろう。
 米軍が自衛隊と共同で島しょ防衛で戦闘行為を実施することなどあり得ないということだ。
 にもかかわらず、米軍が即座に参戦するとの誤解を国民に与える日本政府の印象操作はあまりにも不誠実である。
(12)沖縄タイムス)
 「2プラス2」の共同文書には普天間飛行場の辺野古移設が「唯一の解決策」と書き込まれた。日本政府が県と約束した普天間の「5年以内運用停止」は盛り込まれていない。 中谷元・防衛相は、5年以内運用停止を米側に伝達したとするが、回答はなかったという。まるで子どもの使いだ。本気度が感じられない。
 辺野古移設が進まないのは、県民の意志に反した計画だからだ。日米首脳会談を待たず「2プラス2」による辺野古移設の再確認は、選挙で示された正当な民意を無視するものであり、到底受け入れられない。



さて、このガイドライン改訂に関しては、「平時から緊急事態まで、時と場所を問わず自衛隊と米軍が一体化するのは間違いない。」(高知新聞)ということであることは間違いない。
 つまり、「安倍政権はこれまで築いてきた『平和国家日本』を大きく変容させようとしている。日本は『戦争をしない国』として世界の信頼を得てきた。それが今、『戦争ができる国』にとどまらず『戦争をする国』へと大きくかじを切った。(琉球新報)」と、いうことである。
 結局、「『平和主義』の国是からの逸脱を重ねる安倍政権の姿勢は、容認するわけにはいかない。」との神戸新聞の主張が、このガイドライン改定をまさしく言い当てている。
 確かに、琉球新報の「戦後70年の節目の年に、日本は重要な分岐点に立っていることを国民は強く自覚し、危機意識を持つ必要がある。」と、強く感じる。

 以下、各新聞社の社説等の引用。






秋田魁新報社説-日米防衛指針 国民を軽んじた改定だ-2015年4月29日


 自衛隊と米軍の役割分担を定めた日米防衛協力指針(ガイドライン)が18年ぶりに改定された。自衛隊の活動範囲が地球規模に広がるなど、安全保障の在り方が大きく変わる。

 指針の基となる安保法制が国会で審議される前の改定である。安保政策の大転換にもかかわらず、明らかに国会と国民を軽んじている。安倍政権は説明責任を果たす必要がある。野党も国会の場で厳しく追及していくべきだ。

 指針は1978年、日本が当時のソ連から侵攻される事態を想定して策定された。97年には、朝鮮半島での緊張の高まりを受けて改定された。ともに米からの呼び掛けに日本が応じた。今回は沖縄県・尖閣諸島をめぐる日中の摩擦の激化を背景に、中国へのけん制を強めるために日本が打診した。

 新指針は「切れ目ない共同対応」と「グローバルな日米同盟」をうたっている。平時であっても軍事に関して日米で調整する機関を常設し、日本の有事で米軍が武力行使するときは作戦を事前調整するとした。

 直接攻撃されなくても日本の存立が脅かされると判断される事態では、集団的自衛権を行使できると定めた。具体的には停戦に至っていない海域での機雷撤去、米艦船の防護など、日本周辺に限らない活動を例示した。自衛隊による弾道ミサイルの迎撃も明記した。

 日米両国は、同盟の強化が進むと改定の意義を強調した。安倍政権には、財政難から軍事費を削減している米の負担を軽くし、自衛隊の存在感と日本への信頼度を高め、日米関係を対等に近づけたいとの狙いがある。

 だが、自衛隊が今なお圧倒的な力を持つ米軍との一体化に向かえば、むしろ米への従属化が進むのではないか。米軍の戦略に自衛隊がいや応なく取り込まれる危険はないのか。日本が主体性を失って追従するようなことがあってはならない。

 米軍の期待に自衛隊が応えられない場合、日米関係にかえって悪影響を及ぼす恐れが指摘されている。もし尖閣をめぐり日本と中国の衝突が起きたら、日中の対立に踏み込みたくない米がどれだけ関与してくれるのか不透明だとの声もある。

 何より自衛隊の活動範囲や任務が拡大すれば、隊員の危険も増すと考えるのが普通だ。

 例えば米軍への後方支援対象地は、非戦闘地域から「現に戦闘中の現場以外」に広がる。戦闘終結後も米や日本を敵視する兵士が潜んでいたり、活動中に戦闘が始まったりする場所が含まれる可能性があるのだ。

 元防衛官僚で元内閣官房副長官補の柳沢協二氏は先ごろ、新指針と安保法制について秋田市で講演し「集団的自衛権による他国防衛は、日本への攻撃を誘発する。戦争をさせないという世論が大切だ」と述べた。国民も国会論戦を注視し、世論の形成に参加する必要がある。


茨城新聞論説-ガイドライン改定 主体性の確保が不可欠だ-2015年4月29日


日米両政府は外務、防衛担当閣僚による日米安全保障協議委員会(2プラス2)で日米防衛協力指針(ガイドライン)の改定に踏み切った。自衛隊と米軍の一体化が加速する。地球規模で展開する米軍の戦略に日本が引き込まれる恐れが高まりかねないだけに、日本政府は外交、防衛で主体性の確保が不可欠となる。

ガイドラインは自衛隊と米軍の具体的な役割分担を定めた文書。冷戦時代の1978年に旧ソ連の侵攻に備えて日本防衛の協力を策定した。97年には朝鮮半島有事も想定した内容に改定。いずれも米側の要請だったが、今回は中国の軍事的な台頭や北朝鮮の核・ミサイル開発に対応する狙いから、日本が改定を求めた。集団的自衛権の行使容認などを受けた安全保障関連法案(安保法制)と連動しており、ガイドラインの改定内容はその骨格と位置付けられる。

改定では平時から緊急事態までの「切れ目ない」協力を明記。具体的には安保法制を踏まえ、武力攻撃に至らない「グレーゾーン事態」を含む平時▽重要影響事態▽存立危機事態▽武力攻撃事態-などに分け、それぞれ協力内容を盛り込んだ。

このうち重要影響事態は、自衛隊の活動に地理的な制約が事実上あった周辺事態を地球規模に切り替えた定義で、米軍に対する後方支援を主に想定。活動可能な場所もこれまでの「後方地域(非戦闘地域)」から「現に戦闘行為が行われている現場」以外に広がる。自衛隊の行く場所が地球規模に拡大すると同時に、より戦場に近づくため、危険性が高まる。

存立危機事態は日本国民の生命・権利を根底から覆す明白な危険があるケースで、集団的自衛権に基づく自衛隊の機雷掃海も明示した。安倍晋三首相は戦時下のホルムズ海峡で自衛隊の機雷除去が可能と主張するものの、公明党は日本有事の寸前に限定されるとの立場を崩していない。機雷除去の明記により、米側は可能と判断しかねない。

オバマ政権は軍事の軸足をアジア太平洋地域に移す「リバランス」(再均衡)政策を掲げるものの、財政難で国防予算の削減を余儀なくされ、同盟国の負担を求めている。その流れの中、日本の要請に基づく改定だけに米側の期待は大きい。カーター米国防長官は「世界中でわれわれが直面するあらゆる挑戦に柔軟に対応できるようになる」と改定を歓迎する。米側の期待値を高めるほど、日本が協力できなかったときの失望は大きくなり、日米関係が悪化する懸念もある。米国の戦略に際限なく引き込まれないよう、日本は自らの限界と判断基準を明確にしなければならない。

安倍内閣はガイドラインの改定を具体化した形の安全保障関連法案を5月14日にも閣議決定する予定で、その後に国会論議が始まる。自公両党はガイドラインの改定直前、安保法制に実質合意した。だが、与野党の本格的な論戦に先だって日米政府間でガイドライン改定に踏み切ったことは国会軽視で、本末転倒との批判を免れない。

日米安保条約は日本の安全と極東の平和と安全を維持するために、米軍の日本駐留を認めている。今回の改定で自衛隊と米軍の協力が世界中に拡大すれば、条約の趣旨から大きく逸脱する。どう対米追従に歯止めをかけるのか。国会での論議の深化が求められる。


京都新聞-防衛指針改定  国会が責任果たす時だ-2015年4月29日


 日米両政府は自衛隊と米軍の役割を定めた新しい日米防衛協力指針(ガイドライン)を決めた。
 18年ぶりの改定で、自衛隊と米軍の協力を地球規模に広げ、平時から有事まで「切れ目のない」連携を打ち出している。
 集団的自衛権の行使を容認する昨年7月の閣議決定から9カ月。安全保障法制をめぐる自民、公明の与党協議は、認識のずれを残したまま合意。それを待っていたとばかりの防衛指針の改定合意だ。
 日米首脳会談のお膳立てが整ったわけだが、日本が築き上げてきた平和主義、「専守防衛」の理念を覆しかねないもので、危うさを禁じ得ない。
 改定は中国の台頭を受け、アジアに重点を移すオバマ大統領のリバランス政策と、安倍晋三首相の積極的平和主義に基づく。首相が強く推進した背景には抑止力向上の狙いのほか、米国との「対等な同盟」を目指す信念もにじむ。
 新指針では、アジア太平洋地域や、これを越えた地域の安定をうたうが、果たしてどうか。
 武力に武力で応じれば軍拡競争に陥る。離島防衛での共同対処などは中国を刺激し、安定どころか新たな緊張を招く恐れさえある。
 目に付くのは安保法制で新設する4事態に応じて日米の役割分担を示す一方、事態名明記を見送ったことだ。指針先行は国会軽視、との批判をかわす狙いだろうが、中身は変わらない。重要影響事態では「周辺事態」を削除し、地理的制約の撤廃を明確にしている。
 だが考えてみれば、日米安保条約は日本と、極東の平和と安全を維持するために米軍の駐留を認めるものだ。適用を地球規模に広げるのは安保条約からの逸脱ではないか。存立危機事態で、具体的な作戦として例示された機雷掃海や弾道ミサイル迎撃は、憲法9条で許容される自衛権の範囲内といえるのか。こちらも疑わしい。
 政府は、防衛指針に法定拘束力はないというが、安保法制が指針に縛られているのが実態だ。97年の改定では周辺事態法など指針に沿って新法がつくられている。
 安保法制が国会で議論される前に新指針を日米で合意し、既成事実化することは許されないが、逆に言えば指針の裏付けとなる安保法制の審議はこれからだ。日本の安保政策の大転換を推し進めるのか、待ったをかけるのか。国会が役割、責任を果たす時だ。
 戦後、自衛隊は海外で人を殺さず、殺されもしなかった。国民もそのことの意味を深く考えたい。


神戸新聞社説- -2015年4月29日


日米両政府が、防衛協力指針(ガイドライン)を見直すことで合意した。改定は2度目、18年ぶりだが、自衛隊と米軍の協力を「地球規模」に拡大する点で、これまでとは全く異質の内容だ。

 戦後70年、歴代政権が軍事行動の歯止めとしてきた憲法9条の制約を解釈変更によって取り払う。自衛隊はほぼ際限なく、米国との共同行動が可能になる。「専守防衛」は言葉だけとなりかねない。

 何より問題は、国の姿勢の大転換を国民に詳しく説明するより先に、安倍晋三首相らが米国に約束したことだ。日米同盟の方を重く見る。そう思わざるを得ない行動である。

 自衛隊は今よりはるかに危険な任務に就くことになる。戦闘行為に巻き込まれる可能性は格段に増す。死傷者が出る恐れもあるだろう。

 「平和主義」の国是からの逸脱を重ねる安倍政権の姿勢は、容認するわけにはいかない。
       ◇
 「日本として行けるところまで行け」。指針改定の対米交渉を進める防衛省の幹部に対して、首相はそう指示したという。

 昨年の閣議決定で、集団的自衛権の行使を禁じた従来の憲法解釈を変更した。「違憲」「解釈改憲」と批判されても先に進む。国の最高責任者の姿勢として、あまりにも前のめりではないか。

 政府、与党は集団的自衛権の行使に向け、安全保障関連法案の今国会での成立を目指す。日米同盟の強化はその中核をなす。だが、共同通信社の世論調査では約半数がその方針に「反対」と答えている。国民の理解を得たとは言い難い。

 にもかかわらず、自民、公明両党は関連法案の内容で合意し、首相らは米国に指針改定の方針を伝えた。国会も置き去りの形である。

 自民党の「1強」状態で、野党は存在感に乏しい。とはいえ、安保政策の転換はまだ国会の承認を受けておらず、民意に沿うとは言えない。政府の対米交渉先行を、野党は後半国会で厳しく追及すべきだ。

【自ら歯止めなくし】

 もともと指針をめぐる日米交渉は譲歩と抵抗のせめぎ合いだった。1978年に初めて策定された以前から、米国は自衛隊による米軍支援などを求め続けてきたという。

 歴代政権は、集団的自衛権を禁じる憲法解釈を盾にその要求をかわした。97年の改定では抗しきれず、朝鮮半島有事を日本の平和と安定に影響を与える「周辺事態」と位置付け、米軍の後方支援を盛り込んだ。それでも、憲法が禁じる武力行使の一体化だけは避けるというぎりぎりの対応を取った。

 当時の小渕恵三首相は「中東やインド洋は現実問題として想定されない」と国会で答弁した。それが、自衛隊の海外派遣に歯止めをかける事実上の地理的制約とされた。

 その小渕答弁を、安倍政権は踏襲しない方針だ。既に集団的自衛権の行使容認にも踏み切った。首相の言う「切れ目のない対応」は、歴代政権が守り続けた歯止めを自らなくす対応ともいえるだろう。

【高まる戦闘の危険】

 沖縄県・尖閣諸島をめぐる中国との対立が続く。中国の軍事力増強と海洋進出により、南シナ海などでは周辺国との緊張も高まっている。

 国防予算の削減に迫られる米国は自衛隊に安全保障の肩代わりを期待する。政府にとって日米同盟の強化は中国への最大のけん制となる。

 ただ、自国が攻撃されていないのに米軍などに軍事協力すれば、反撃される恐れがある。強制的な船舶検査や停戦前の機雷掃海作業、他国軍への弾薬の提供も同様で、相手には武力行使と映る。矢面に立つのは派遣された自衛官だ。

 他国に向けて一発の銃弾も撃ったことのない自衛隊は、一人の戦死者も出していない。自衛隊が米軍の歯車のように行動を展開すれば、戦闘に巻き込まれる危険は増す。

 政府、与党は国民の声に耳を傾け、安保の在り方を考えるべきだ。

※ガイドライン改定の問題点(神戸新聞社作成)
・集団的自衛権行使→憲法九条違反の疑い
・地理的制約の撤廃→専守防衛方針と矛盾
・地球規模の日米提携→自衛隊が米軍の歯車に
・海外での武力行使→戦闘に巻き込まれる恐れ


山陰中央新聞論説-ガイドライン改定/対米追従歯止めの議論を-2015年4月28日


 日米両政府は外務、防衛担当閣僚による日米安全保障協議委員会(2プラス2)で日米防衛協力指針(ガイドライン)の改定に踏み切った。自衛隊と米軍の一体化が加速することで、地球規模で展開する米軍の戦略に日本が引き込まれる恐れが高まりかねないだけに、日本政府は外交、防衛で主体性の確保が不可欠となる。

 ガイドラインは自衛隊と米軍の具体的な役割分担を定めた文書。冷戦時代の1978年に旧ソ連の侵攻に備えて日本防衛の協力を策定した。97年には朝鮮半島有事も想定した内容に改定。いずれも米側の要請だったが、今回は中国の軍事的な台頭や北朝鮮の核・ミサイル開発に対応する狙いから日本が改定を求めた。

 また、集団的自衛権の行使容認などを受けた安全保障関連法案(安保法制)と連動しており、ガイドラインの改定内容はその骨格と位置付けられる。

 改定では平時から緊急事態までの「切れ目ない」協力を明記。具体的には安保法制を踏まえ、武力攻撃に至らない「グレーゾーン事態」を含む平時▽重要影響事態▽存立危機事態▽武力攻撃事態―などに分け、それぞれ協力内容を盛り込んだ。

 このうち重要影響事態は、自衛隊の活動に地理的な制約が事実上あった周辺事態を地球規模に切り替えた定義で、米軍に対する後方支援を主に想定。活動可能な場所もこれまでの「後方地域(非戦闘地域)」から「現に戦闘行為が行われている現場」以外に広がる。

 存立危機事態は日本国民の生命・権利を根底から覆す明白な危険があるケースで、集団的自衛権に基づく自衛隊の機雷掃海も明示した。安倍晋三首相は戦時下のホルムズ海峡で自衛隊の機雷除去が可能と主張するものの、公明党は日本有事の寸前に限定されるとの立場を崩していない。

 オバマ政権は軍事の軸足をアジア太平洋地域に移す「リバランス」(再均衡)政策を掲げるものの、財政難で国防予算の削減を余儀なくされ、同盟国の負担を求めている。その流れの中、日本の要請に基づく改定だけに米側の期待は大きい。

 カーター米国防長官は「世界中でわれわれが直面するあらゆる挑戦に柔軟に対応できるようになる」と改定を歓迎する。米側の期待値を高めるほど、日本が協力できなかったときの失望は大きくなり、日米関係が悪化する懸念もある。米国の戦略に際限なく引き込まれないよう、日本は自らの限界と判断基準を明確にしなければならない。

 安倍内閣はガイドラインの改定を具体化した形の安全保障関連法案を5月14日にも閣議決定する予定で、その後に国会論議が始まる。自公両党はガイドラインの改定直前、安保法制に実質合意した。だが、与野党の本格的な論戦に先立って日米政府間でガイドライン改定に踏み切ったことは国会軽視で、本末転倒との批判を免れない。

 日米安保条約は日本の安全と極東の平和と安全を維持するために、米軍の日本駐留を認めている。今回の改定で自衛隊と米軍の協力が世界中に拡大すれば、条約の趣旨から逸脱する。どう対米追従に歯止めをかけるか。国会での論議の深化が求められる。


高知新聞社説-【日米防衛指針 安倍政治を問う】「専守」を踏み越える-2015年04月29日


 日米両政府が、自衛隊と米軍の役割分担を定めた新たな防衛協力指針(ガイドライン)を決定した。
 これで自衛隊と米軍の一体化が一気に進み、自衛隊による対米支援は地球規模に拡大する。憲法に基づく専守防衛や日米安全保障条約が掲げる「極東の平和と安全」の枠を大きく踏み越える内容といってよい。
 拡大する自衛隊活動の裏付けとなる安全保障法制は与党が実質合意したとはいえ、国会審議はまだ始まっていない。国民への説明や国会の論議より米国との約束を先行させる政府の姿勢は許されない。
 指針は冷戦時代の1978年に旧ソ連の日本侵攻を想定して策定され、97年に朝鮮半島有事を重視した内容に改定された。比重は日本有事から周辺有事に移り、日米共同行動の対象範囲も広がったが、今回の改定はその比ではない。
 新指針は「切れ目のない」共同対応の名の下、①平時②日本の平和と安全に重要な影響を与える事態(重要影響事態)③日本の存立を脅かす明白な危険がある事態(存立危機事態)④武力攻撃事態―の4事態を想定する。
 従来の周辺事態を重要影響事態に改めたことによって、自衛隊の活動範囲は地球規模に広がる。新たに加えた存立危機事態では、政府が「明白な危険がある」と判断すれば、集団的自衛権を行使して米軍と共同作戦を実施することになる。

 時と場所問わず

 具体的な活動内容をみれば、日米の軍事一体化がよく分かる。
 存立危機事態での共同作戦として例示されているのは機雷掃海、艦船の防護、船舶の強制的な検査(臨検)、弾道ミサイルの迎撃などだ。
 このうち機雷掃海については、安保法制をめぐる与党協議で公明党が中東・ホルムズ海峡での実施に難色を示している。新指針にはそうした「例外」は見当たらない。
 重要影響事態での米軍への後方支援には、弾薬の提供や発進準備中の戦闘機への給油なども含まれる。後方支援とはいいながら、軍事的な意味合いは武力行使と変わらないだろう。
 このほか、平和維持活動など国際的な活動での協力、宇宙やサイバー空間に関する協力を新たに盛り込んだ。さらに、従来は有事に設置するとしていた日米の調整機関を常設化する。
 平時から緊急事態まで、時と場所を問わず自衛隊と米軍が一体化するのは間違いない。
 国会審議が先

 指針改定を働き掛けた日本側には、沖縄県・尖閣諸島周辺などで海洋進出を強める中国への抑止力を向上させる狙いがある。一方、財政難から同盟国に負担の肩代わりを求める米国側にとっては渡りに船だっただろう。
 新指針には確かに「島しょ」防衛が盛り込まれた。だが、中国との経済的な結び付きを深める米国は、尖閣の領有権をめぐって「中立」の姿勢を取るなど、緊張の高まりは決して望んでいない。
 国力を増大させる中国とどう向き合っていくのか。軍事面での対抗に偏れば緊張は激化するだけであり、日本は経済や外交を含めた関係の在り方を主体的に考えなければならない。
 自衛隊の役割拡大がもたらす影響も考える必要がある。現在、5兆円近くの防衛費はいや応なく増えていくだろう。海外で米軍とともに活動する自衛隊員はもちろんのこと、民間の邦人も「敵」として危険にさらされる可能性は小さくない。
 そうした問題も含め、本来なら安全保障法制をめぐる国会審議が先にあるべきだ。指針に「法的権利や義務を生じさせるものではない」と明記されているといっても、順序が逆なのは明らかだろう。
 憲法と日米安保条約は一字一句変わらないのに、「国のかたち」は大きく変わってしまう。国民の理解を置き去りにしたまま、安倍政権が突っ走ることは到底容認できない。国会での徹底的な論議を強く求める。


西日本新聞-新防衛協力指針 米軍との際限なき一体化-2015年04月29日


 日米両政府は外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会を開き、新たな日米防衛協力指針(ガイドライン)を決定した。

 ガイドラインとは、有事における自衛隊と米軍の具体的な役割分担を決めた文書である。冷戦下の1978年、旧ソ連の日本侵攻を念頭に作成され、97年に朝鮮半島有事を想定して改定された。今回は、中国の軍事的台頭などに対応するための再改定となった。

 今回合意した新指針は、「グローバルな日米同盟」「切れ目のない対応」というスローガンの下に、自衛隊と米軍の協力を拡大し、平時から有事に至る連携を打ち出した。その実態は、自衛隊と米軍の際限なき一体化だといえる。

 新指針は、日米協力の目的を「アジア太平洋地域およびこれを越えた地域の安定」として地理的制限を撤廃した。「日本と極東の平和と安全のため」と規定した日米安保条約の枠組みを踏み越えた。

 また、自衛隊が集団的自衛権を行使する事案として、弾道ミサイルの迎撃や停戦前の機雷掃海、米艦船防護などを例示した。さらに日米の調整機関を常設して平時から運用するなど、対米協力は質・量とも飛躍的に拡大する。

 この指針の下で、政府が必要と判断すれば、自衛隊は「世界のどこでも、いつでも」米軍を支援できるようになる。自衛隊が米国の軍事戦略の歯車として組み込まれていくことになりはしないか。

 そうなれば、専守防衛を大原則としてきた日本の安全保障政策は変質し、自衛隊の海外活動に伴う危険も高まるばかりだろう。

 また、新指針は政府と与党が進める安全保障法制見直しを先取りした内容になっている。安保法制の国会審議も始まっていない現時点で、法改正を前提とした役割分担を対外的に約束するのは本末転倒であり、断じて容認できない。

 今回の合意を受けて、ケリー米国務長官は「歴史的転換だ」と評価した。確かに歴史的な転換であることは間違いない。しかし、それは日本にとって望ましい方向への転換なのか。疑念は消えない。


佐賀新聞社説-日米防衛ガイドライン-2015年04月29日


 新たな日米防衛協力指針(ガイドライン)は、平時から有事まで切れ目なく自衛隊と米軍が連携することを打ち出した。沖縄県尖閣諸島周辺で領海侵入を繰り返す中国を念頭に離島防衛への共同対処を明記するなど、日米同盟の実効性の向上を目指している。

 日本の平和と安全を守る上で意義は大きいだろう。ガイドラインは自衛隊と米軍の軍事作戦を軸にした政府間の確認文書である。冷戦下で旧ソ連の侵攻を想定してつくられ、北朝鮮の核・ミサイル開発による朝鮮半島危機をきっかけに改定された。

 今回の再改定は近年、中国の台頭に対応するものだ。尖閣諸島周辺で中国公船が領海侵入を繰り返し、南シナ海でもベトナムなどとあつれきを起こしている。中国の活発な海洋進出の動きは、航行の自由を制約する事態につながる危険をはらむ。

 新ガイドラインは、平時から緊急事態までのあらゆる段階や国際貢献分野にわたって、日本の平和と安全を確保する措置を取ることをうたう。脅威が生じた時の非戦闘員の避難や救難の協力、武力攻撃が生じた時の対処行動などを決めている。

 焦点の離島防衛では、自衛隊は「島しょを奪回する作戦を実施」し、米軍が「支援し補完する」と役割分担を定めた。1年前にオバマ大統領が来日した際、尖閣諸島について日米安保の範囲内にあることを明言した言葉を具体化させたのは重要な意味がある。

 自衛隊が集団的自衛権を行使する事案としては、弾道ミサイルの迎撃や停戦前の機雷掃海、米韓船防護などを例示した。日本の平和・安全に重要な影響を及ぼす事態は「地理的に定めることはできない」とした。自衛隊活動に地理的な制限をとりはらったのも大きな変更だ。

 ただ、ガイドラインはそれぞれの国内法に基づくため、日本国内で法律が整備されなければ実効性はない。政府は並行して、自衛隊の海外派遣恒久法など安全保障法制の整備を目指している。内容的にはガイドラインが先取りした格好だ。

 恒久法では自衛隊の国際貢献の幅が広がり、朝鮮半島有事を想定した周辺事態法改正では、従来認められなかった弾薬提供や発進準備中の戦闘機への給油・整備も含めた支援を可能にする方向だ。

 日米政府がガイドラインをまとめたのを受けて、米国の世界戦略へ組み込まれると懸念の声が上がっている。しかし、自衛隊と米軍の一体化が強まるのを懸念とするのか、意義のある同盟の深化とするかは政治的な立場によって評価が異なる。

 今はまだ国民の関心が追いついていないが、何よりも安全保障は国民の命と財産、国土を守るためのもの。再改定でも日本の活動は専守防衛、非核三原則などに従うことも明記している。国会で政府が国際情勢や危機感をきちんと説明した上、理解を得ながら法整備を進めなければならない。

 ガイドラインは法的拘束力もないが、国内の法整備を促す効果がある。恒久法や周辺事態法などについて与党間で協議が進んでおり、連休明けにも正式合意する運びだ。法案がまとまれば中身がはっきりする。そこでしっかり論議してほしい。(宇都宮忠)


南日本新聞社説-[日米防衛指針] 国会軽視認められない-2015年4月29日


 自衛隊と米軍の協力を地球規模に広げ、平時から有事まで「切れ目のない」連携を行う。日米両政府は18年ぶりとなる新たな防衛協力指針(ガイドライン)を決定した。

 昨夏に閣議決定した集団的自衛権行使を反映させるなど、安倍政権が整備を進める安全保障法制の核心部分を先取りした内容だ。

 政府は安保関連法案を5月中旬に閣議決定する方針で、国会審議はその後になる。指針を先行させたのは国会軽視にほかならない。

 自衛隊の対米支援を飛躍的に拡大する指針見直しは、平和国家日本が国是としていた専守防衛の大転換となる。国民への説明もないまま決定する安倍政権のやり方は容認できない。

 ガイドラインは自衛隊と米軍の具体的な役割分担を定めた文書である。冷戦時代の1978年に旧ソ連の侵攻に備えて策定された。97年には朝鮮半島有事も想定した内容に改定された。

 いずれも米側の要請だったが、今回は日本が持ちかけた。沖縄県・尖閣諸島周辺をはじめ海洋進出を強める中国や北朝鮮の核・ミサイル開発に対抗するのが狙いだ。

 新指針は武力攻撃に至らない「グレーゾーン事態」を含む平時、重要影響事態、存立危機事態、武力攻撃事態など四つに分け、それぞれ協力内容を盛り込んだ。

これまで日本周辺に限定してきた協力範囲は「アジア太平洋地域およびこれを越えた地域」に拡大した。安保法制を踏まえ、従来の「周辺事態」を定義し直した重要影響事態も「地理的に定めることはできない」と明確化した。

 歯止めとなる地理的な制約をなくせばどうなるか。世界中で展開する米軍の戦略に日本が巻き込まれる恐れが高まるのは明らかだ。

 存立危機事態では弾道ミサイルの迎撃や機雷掃海など集団的自衛権行使の事例を明示した。米側の要請に沿って対米支援が際限なく広がりかねない。そうなれば自衛隊が負うリスクも拡大する。

 オバマ政権は軍事の軸足をアジア太平洋地域に移す「リバランス(再均衡)」政策を掲げるものの、財政難で国防予算の削減を余儀なくされている。同盟国や友好国との関係強化を打ち出しており、今回の改定は日本が軍事的負担を肩代わりした格好だ。

 日米安保条約は日本の安全と極東の平和を維持するために、米軍の日本駐留を認めている。防衛協力が世界中に広がれば条約の趣旨からも大きく逸脱する。

 安保政策の見直しは国民の理解を得ることが大前提だ。国会で徹底した議論を尽くすべきだ。


琉球新報社説-辺野古移設「唯一」 沖縄利用許されない 普天間即時閉鎖こそ解決策-2015年4月29日


 日米両政府の外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)は、名護市辺野古沿岸部での新基地建設を米軍普天間飛行場の継続使用を回避する「唯一の解決策」と再確認した。
 両政府の硬直した思考には落胆せざるを得ない。海兵隊の抑止力が虚構であることは防衛相経験者や専門家が明らかにしている。
 「解決策」には多くの選択肢がある。最も有効なのは普天間飛行場の即時閉鎖だ。
 日本政府は米国の機嫌取りをやめ、米政府も必要性のない新基地を日本に求めるのはやめるべきである。

危険性除去にならぬ

 辺野古移設を「唯一の解決策」とする理由の中に普天間飛行場の「危険性除去」の文言はない。共同文書には「運用上、政治上、財政上および戦略上の懸念に対処し、普天間飛行場の継続的な使用を回避するため」とあるだけだ。
 「政治上」に包含されると強弁するかもしれないが明記していないのは、辺野古移設が「危険性除去」につながらないと両政府が認めていることの証しといえよう。
 尖閣諸島を念頭にした「島しょ防衛」が成果のように喧伝(けんでん)されているが、米軍の支援は限定的なものでしかない。
 日米防衛協力指針では、自衛隊と米軍は「陸、海、空または水陸両用部隊を用いて共同作戦を実施する」とした。だが島しょ防衛の「作戦を主体的に実施する」のは自衛隊であり、米軍は「自衛隊の作戦を支援し、補完するための作戦を実施する」にすぎない。米軍の支援内容は物資補給や情報提供などに限られるとみられる。
 米政府は尖閣諸島を「日米安全保障条約5条の適用対象」としている。だが米軍投入は米議会の承認が必要となる。尖閣有事の際でも米政府が議会承認を求めたり、議会が承認したりする可能性は低い。米軍の役割を「支援」にとどめたのはその反映であろう。
 米軍が自衛隊と共同で島しょ防衛で戦闘行為を実施することなどあり得ないということだ。
 にもかかわらず、米軍が即座に参戦するとの誤解を国民に与える日本政府の印象操作はあまりにも不誠実である。
 県が求め、安倍晋三首相が約束した「普天間飛行場の5年以内の運用停止」については口頭で米側に伝えただけで、共同文書には盛り込まなかった。仲井真弘多前知事の埋め立て承認の際に安倍首相が約束したことであり、政府は移設作業を即刻停止するのが筋である。

「戦争する国」へ変容

 安倍政権はこれまで築いてきた「平和国家日本」を大きく変容させようとしている。日本は「戦争をしない国」として世界の信頼を得てきた。それが今、「戦争ができる国」にとどまらず「戦争をする国」へと大きくかじを切った。
 米国は戦後この方、世界各地で戦争を引き起こし、紛争への介入を切れ目なく続けている。指針はその米軍に対する自衛隊の協力を地球規模に拡大し、平時から有事まで「切れ目のない」連携を打ち出している。自衛隊が米国の戦争に巻き込まれる危険性が飛躍的に高まったのである。
 共同文書には集団的自衛権の行使容認など日本の取り組みを、米政府が「歓迎し、支持する」との文言が散見される。
 米軍の肩代わりを買って出る国は日本以外にはなかろう。米政府の歓心を得ることが目的になってはいまいか。安倍政権が真に国民の安全を考えているとは到底思えない。
 文書には日本政府の卑屈なまでの対米追従姿勢もにじむ。財政難に苦しむ米政府に新基地を提供するのもその表れだろう。米国に恩を売るため沖縄を利用することを許すことはできない。
 戦後70年の節目の年に、日本は重要な分岐点に立っていることを国民は強く自覚し、危機意識を持つ必要がある。


沖縄タイムス社説-[ガイドライン改定]国民不在の政策転換だ-2015年4月29日


 日米の外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)で、「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)の改定が合意された。

 集団的自衛権の行使を盛り込み、自衛隊の活動を地球規模に広げるなど、戦後日本が平和国家として歩んできた道を大きく踏み外す改定である。

 ガイドラインは日本有事の際、自衛隊と米軍の役割分担を定めた政府間の文書。冷戦時代の1978年に旧ソ連の侵攻に備えて策定され、97年に朝鮮半島有事を想定し改定された。

 今回の再改定は、尖閣諸島周辺で活動を活発化させている中国に対抗しようと日本側が提案した。アジア重視の「リバランス」(再均衡)政策を掲げるオバマ政権も、日本の協力に期待を寄せている。財政難で国防予算の削減を余儀なくされる中、負担を肩代わりしてほしいという思惑があるからだ。

 新指針には、自衛隊が集団的自衛権を行使する事案として、米国を標的とする弾道ミサイルの迎撃などが例示されている。安倍政権が認めた集団的自衛権行使をガイドラインに反映させたというが、そもそも集団的自衛権の行使を具体化する安保法制の国会審議はこれからだ。

 3月下旬の共同通信の世論調査では、安保法案の今国会成立に約半数が反対であった。国内での議論を後回しにして、米国との合意を先行させるやり方は、国会軽視というほかない。
    ■    ■
 新指針では、日米協力の範囲を「アジア太平洋地域およびこれを越えた地域」としている。

 従来の「周辺事態」の概念は地理的な制約があったが、事態の性質を「地理的に定めることはできない」として、これを「重要影響事態」と定義し直し、自衛隊の活動が日本周辺に限定されないことを明確化した。世界中で米軍の後方支援を可能にするものだ。

 法的拘束力もない事務レベルで合意した指針で日米安保条約の改定にも等しい政策転換が図られようとしている。

 改定のきっかけとなった尖閣の問題について新指針は、離島防衛への共同対処を明記したものの、有事の際の米軍の関与は依然不透明である。

 基地が集中する沖縄では、自衛隊と米軍の一体化による、軍事的負担の増大が懸念される。
    ■    ■
 「2プラス2」の共同文書には普天間飛行場の辺野古移設が「唯一の解決策」と書き込まれた。日本政府が県と約束した普天間の「5年以内運用停止」は盛り込まれていない。
 中谷元・防衛相は、5年以内運用停止を米側に伝達したとするが、回答はなかったという。まるで子どもの使いだ。本気度が感じられない。

 辺野古移設が進まないのは、県民の意志に反した計画だからだ。日米首脳会談を待たず「2プラス2」による辺野古移設の再確認は、選挙で示された正当な民意を無視するものであり、到底受け入れられない。


by asyagi-df-2014 | 2015-04-30 05:50 | 米軍再編 | Comments(0)

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