大飯原発3,4号機及び高浜原発3、4号機運転差止仮処分命令申立事件

 2015年4月14日の福井地方裁判所民事第2部の仮処分決定の全文を私なりに要約する。
 
その主文は、次のようになっている。

1 債務者は,福井県大飯郡高浜町田ノ浦1において, 高浜発電所3号機及び4号機の原子炉を運転してはならない。
2 申立費用は債務者の負担とする。

 ここでいう債務者は、大阪府,京都府,兵庫県(一部を除く。),奈良県,滋賀県, 和歌山県, 三重県の一部, 岐阜県の一部及び福井県の一部への電力供給を行う一般電気事業者である。つまり、関西電力。
結論は、「高浜発電所3号機及び4号機の原子炉を運転しては ならない。」と、された。
 実に、「3.11」の経験を真に反映させた素晴らしい結論である。






福島原発事故の実態を、次のように分析する。
(1)「1号機ないし3号機はいずれも冷却機能を失ったためメルトダウン (炉心溶融) を引き起こし, さらに落下した核燃料が原子炉圧力容器の底を貫通して原子炉格納容器に落下するというメルトスルー (炉心貫通) まで引き起こした。」。
(2) 「1号機, 3号機及び4号機の原子炉建屋内において水素爆発が生じ, 1号機, 3号機は原子炉格納容器内の圧力を下げるベントに成功したが, 2号機ではベントに失敗したため原子炉格納容器が一部破損した。」。
(3)「その間, 高濃度の放射性物質が中央制御室に及ぶことがあったが, 耐震性及び放射性物質の防御機能が高い免震重要棟において事故のコントロールに努めることができた。それでも,少なくとも90万テラベクレルと推定される放射性物質が大量に外部に放出される事態となった。」。
 その結果、「 15万人もの住民が避難生活を余儀なくされ, この避難の過程で少なくとも入院患者等60名がその命を失った。」と。
 この福島の経験がこの可処分命令を書かせたとも言える。

 また、判断の基準として、現在までに、「日本の原発に基準地震動S1,基準地震動S2,基準地震動Ssを超える地震動が到来した事例として, 以下の5例(以下, これらを併せて「本件5例」 という。)がある。」と、示した。

 次に、債務者の主張を次のようにまとめる。
(1)福井地裁判決は、「地盤の増幅特性(サイト特性) をはじめとする, 地震動を決定する特性の違い, 地域性の違いをなんら考慮せず, 単に数字を比較してクリフエッジを超える地震が大飯原発や高浜原発に到来する可能性があるというような福井地裁判決がとった理由付けはできない。」。
(2)「基準地震動を超えるがクリフエッジには達しない地震については, そもそも基準地震動S sを超える地震動が本件原発に到来することはまず考えられない。」。
(3)「イベントツリー記載の対策が実施できることはストレステストにおいて確認済みであり, これが実施できないという福井地裁判決における認定は証拠に基づかない主観的な認定である。」。
(4)「主給水ポンプ, 外部電源は発電所の通常運転に必要な設備であって, 安全保持のために不可欠なものではないから, 基準地震動S sに対して耐震安全性を要求されていないのに, これを安全上重要な設備とするのは原子力発電所の設計上, 各設備に期待されている役割や機能を理解しないものである。」。
(5)「福井地裁判決における裁判所の認定は, 総じて,具体的な蓋然性の検討を経ない抽象的な危険性の認定にと どまっている。」。
(6)「原子力規制委員会の設置変更許可がなされた以上,保全の必要性は優にこれを肯定できる。」。

 一方、福井地裁は、「1 原子力の発電所の特性」、「2 冷却機能の維持について」、についてから次のような詳細な検討を行う。

(1)「1 原子力の発電所の特性」
①「止める, 冷やす, 閉じ込めるという要請はこの3つがそろって初めて原子力発電所の安全性が保たれることとなる。」。
②「仮に, 止めることに失敗するとわずかな地震による損傷や故障でも破滅的な事故を招く可能性がある。 地震及び津波の際の炉心損傷を招く危険のある事象についての複数のイベントツリーのすべてにおいて, 止めることに失敗すると炉心損傷に至ることが必然であり, とるべき有効な手だてがないことが示されている。福島原発事故では, 止めることには成功したが, 冷やすことができなかったために放射性物質が外部に放出されることになった。」。
③「我が国においては核燃料は,①核燃料を含む燃料ペレット,②燃料被覆管,③原子炉圧力容器,④原子炉格納容器, ⑤原子炉建屋という五重の壁に閉じ込められているという構造によって初めてその安全性が担保されているとされ, その中でも重要な壁が堅固な構造を持つ原子炉格納容器であるとされている。」。

 しかし、「本件原発には地震の際の冷やすという機能と閉じ込めるという構造に次のような問題がある。」と、指摘する。

①冷却機能の維持に関しての「クリフエッジである973.5ガルを越える地震について」は、 「高浜原発には973. 5ガルを超える地震は来ないとの確実な科学的根拠に基づく想定は本来的に不可能である。 むしろ, ①我が国において記録された既往最大の震度は岩手・宮城内陸地震における4022ガルであり (争いがない),973. 5ガルという数値はこれをはるかに下回るものであること,②岩手・宮城内陸地震は高浜でも発生する可能性があるとされる内陸地殻内地震(別紙3の別記2の第4条5二参照)であること,③この地震が起きた東北地方と高浜原発の位置する北陸地方ないし隣接する近畿地方とでは地震の発生頻度において有意的な違いは認められず, 若狭地方の既知の活断層に限っも陸海を問わず多数存在すること,④この既往最大という概念自体が, 有史以来世界最大というものではなく近時の我が国において最大というものにすぎないことからすると, 973. 5ガルを超える地震が高浜原発に到来する危険がある。」。
 この上で、「973. 5ガルを超える地震が高浜原発に到来した場合には,冷却機能が喪失し,炉心損傷を経てメルトダウンが発生する危険性が極めて高く, メルトダウンに至った後は圧力上昇による原子炉格納容器の破損, 水素爆発あるいは最悪の場合には原子炉格納容器を破壊するほどの水蒸気爆発の危険が高まり, これらの場合には大量の放射性物質が施設外に拡散し, 周辺住民が被ばく し, 又は被ばくを避けるために長期間の避難を要することは確実である。」と、結論づける。

②冷却機能の維持に関しての「基準地震動である700ガルを越えるが973.5ガルに至らない地震について」は、「仮に, 高浜原発に起きる危険性のある地震が基準地震動Ssの700ガルをやや上回るものであり, クリフエッジである973. 5ガルに達しないと仮定しても, このような地震が炉心損傷に結びつく原因事実になることも債務者の自認するところである。 これらの事態に対し, 有効な手段を打てば, 炉心損傷には至らないと債務者は主張するが, 次にみるようにその根拠は乏しい。」と、する。

③冷却機能の維持に関しての「基準地震動である700ガルを越えるが973.5ガルに至らない地震について」の「基準地震動の信頼性について」は、「地震学の理論上導かれるガル数の最大数値が700であり, そもそも, 700ガルを超える地震が到来することはまず考えられないと主張する。しかし, この理論上の数値計算の正当性, 正確性について論じるより,現に, 下記のとおり (本件5例),全国で20箇所にも満たない原発のうち4つの原発に5回にわたり想定した地震動を超える地震が平成17年以後10年足らずの間に到来しているという事実を重視すべきである。」と、する。

④冷却機能の維持に関しての「基準地震動である700ガルを越えるが973.5ガルに至らない地震について」の「安全余裕について」は、「原子力規制委員会において債務者のいうところの安全余裕を基準とした審査がなされることのいずれについてもこれを認めるに足りる証拠はない。したがって, たとえ, 過去において, 原発施設が基準地震動を超える地震に耐えられたという事実が認められたとしても, 同事実は, 今後, 基準地震動を超える地震が高浜原発に到来しても施設が損傷しないということをなんら根拠づけるものではない。」。

⑤冷却機能の維持に関しての「基準地震動である700ガルに至らない地震について」の「施設損壊の危険」に関して、「債務者は本件原発は多重防護をはじめとする安全設計思想に立ち高度の安全性が確保されていると主張しているが, 原発の耐震安全性確保の基礎となるべき基準地震動の数値だけを引き上げるという措置は債務者のいう安全設計思想と相容れないものと思われる。そうすると,基準地震動である700ガルを下回る地震によっても施設が損壊する具体的危険性があるといえるし, 少なくとも, 基準地震動である700ガルを下回る地震によって外部電源が断たれ, かつ主給水ポンプが破損し主給水が断たれるおそれがあることは債務者においてこれを自認しているところである。」。

⑥冷却機能の維持に関しての「基準地震動である700ガルに至らない地震について」の「施設損壊の影響」に関して、「債務者は, 主給水ポンプは安全上重要な設備ではないから基準地震動に対する耐震安全性の確認は行われていないと主張するが, 主給水ポンプは別紙2の下図に表示されているものであり, その役割は主給水の供給にあり, 主給水によって冷却機能を維持するのが原子炉の本来の姿であって,そのことは債務者も認めているところである。 安全確保の上で不可欠な役割を第1次的に担う設備はこれを安全上重要な設備であるとして, その役割にふさわしい耐震性を求めるのが健全な社会通念であると考えられる。このような設備を安全上重要な設備ではないとするのは理解に苦しむ主張であるといわざるを得ない。」。
 あわせて、「多重防護とは堅固な第1陣が突破されたとしてもなお第2陣, 第3陣が控えているという備えの在り方を指すと解されるのであって,第1陣の備えが貧弱なため, いきなり背水の陣となるような備えの在り方は多重防護の意義からはずれるものと思われる。」と、する。

⑦冷却機能の維持に関しての「基準地震動である700ガルに至らない地震について」の「基準地震動の意味について」に関して、「日本語としての通常の用法に従えば, 基準地震動というのはそれ以下の地震であれば, 機能や安全が安定的に維持されるという意味に解される。基準地震動S s未満の地震であっても重大な事故に直結する事態が生じ得るというのであれば,基準としての意味がなく, 高浜原発に基準地震動である700ガル以上の地震が到来するのかしないのかという議論さえ意味の薄いものになる。」。

 そして、冷却機能の維持に関しての「小括」という結論。
(1)「債務者は前記岩手・宮城内陸地震の発生地域や基準地震動を超える地震が到来してしまった原発敷地には固有の地域の特性があるとし, 高浜原発との地域差があることを強調しているが, これらの主張の根拠はそれ自体確たるものではないし, 我が国全体が置かれている上に述べた厳然たる事実の前では大きな意味を持つことはないと考えられる。 各地の原発敷地外に幾たびか到来した激しい地震や各地の原発敷地に5回にわたり到来した基準地震動を超える地震が高浜原発には到来しないというのは根拠に乏しい楽観的見通しにしかすぎないといえる。」。
(2)「 基準地震動に満たない地震によっても冷却機能喪失による重大な事故が生じ得るというのであれば, そこでの危険は, 万が一の危険という領域をはるかに超える現実的で切迫した危険と評価できる。 このような施設のあり方は原子力発電所が有する前記の本質的な危険性についてあまりにも楽観的といわざるを得ない。」。

 次に、「閉じ込めるという構造について」の検討。
(1)使用済み核燃料の保管状況について、「本件原発においても核燃料部分は堅固な構造をもつ原子炉格納容器の中に存する。 他方, 使用済み核燃料は本件原発においては原子炉格納容器の外の建屋内の使用済み核燃料プールと呼ばれる水槽内に多量に置かれており, 使用済み核燃料プールから放射性物質が漏れたときこれが原子力発電所敷地外部に放出されることを防御する原子炉格納容器のような堅固な設備は存在しない。」。
(2)使用済み核燃料の危険性の観点から、「使用済み核燃料も原子炉格納容器の中の炉心部分と同様に外部からの不測の事態に対して堅固な施設によって防御を固められる必要がある。」。
(3)電源喪失事故について、「核燃料は全交流電源喪失から5時間余で炉心損傷が開始する。」、「全交流電源喪失から 2 日余で冠水状態が維持できなくなる。 我が国の存続に関わるほどの被害を及ぼすにもかかわらず, 全交流電源喪失から2日余で危機的状態に陥いる。 そのようなものが, 堅固な設備によって閉じ込められていないままいわばむき出しに近い状態になっているのである。」。


 そして、「閉じ込めるという構造について」に関しての「小括」という結論。
「使用済み核燃料は本件原発の稼動によって日々生み出されていくものであるところ, 使用済み核燃料を閉じ込めておくための堅固な設備を設けるためには膨大な費用を要するということに加え, 国民の安全が何よりも優先されるべきであるとの見識に立つのではなく, 深刻な事故はめったに起きないだろうという見通しのもとにかような対応が成り立っているといわざるを得ない。」。

 さらに、「本件原発の現在の安全性」(被保全債権の存在)の検証。
(1)「本件原発の安全施設, 安全技術には多方面にわたる脆弱性があるといえる。 そして, この脆弱性は, ①基準地震動の策定基準を見直し, 基準地震動を大幅に引き上げ, それに応じた根本的な耐震工事を実施する, ②外部電源と主給水の双方について基準地震動に耐えられるように耐震性をSクラスにする, ③使用済み核燃料を堅固な施設で囲い込む, ④使用済み核燃料プールの給水設備の耐震性をSクラスにするという各方策がとられることによってしか解消できない。」。
(2)「中央制御室へ放射性物質が及ぶ危険性は耐震性及び放射性物質に対する 防御機能が高い免震重要棟の設置の必要性を裏付けるものといえるのに, これらのいずれの対策もとられていない。」。
(3)「原子力規制委員会はこれらの各問題について適切に対処し本件原発の安全性を確保する役割を果たすことが求められているが ,原子力規制委員会が策定した新規制基準は上記のいずれの点についても規制の対象としていない。 免震重要棟についてはその設置が予定されてはいるものの, 猶予期間が事実上設けられているところ, 地震が人間の計画, 意図とは全く無関係に起こるものである以上, かような規制方法に合理性がないことは自明である。 そのため, 本件原発の危険性は, 原子炉設置変更許可 (改正原子炉規制法43条の3の8第1項) がなされた現在に至るも改善されていない。」。
(4)「新規制基準に求められるべき合理性とは, 原発の設備が基準に適合すれば深刻な災害を引き起こすおそれが万が一にもないといえるような厳格な内容を備えていることであると解すべきことになる。 しかるに, 新規制基準は緩やかにすぎ, これに適合しても本件原発の安全性は確保されていない。」。


 以上のことから、次の結論を導く。
(1)高浜原発から250キロメートル圏内に居住する債権者らは, 本件原発の運転によって直接的にその人格権が侵害される具体的な危険があることが疎明されているといえる。 なお, 本件原子炉及び本件使用済み核燃料プール内の使用済み核燃料の危険性は運転差止めによって直ちに消失するものではない。 しかし, 本件原子炉内の核燃料はその運転開始によって膨大なエネルギーを発出することになる一方, 運転停止後においては時の経過に従って確実にエネルギーを失っていく のであって, 時間単位の電源喪失で重大な事故に至るようなことはなくなり, 我が国に破滅的な被害をもたらす可能性がある使用済み核燃料も時の経過に従って崩壊熱を失っていき, また運転停止によってその増加を防ぐことができる。 そうすると, 本件原子炉の運転差止めは上記具体的危険性を大幅に軽減する適切で有効な手段であると認められる。」。
(2)保全の必要性については、「本件原発の事故によって債権者らは取り返しのつかない損害を被るおそれが生じることになり,本案訴訟の結論を待つ余裕がなく, また,原子力規制委員会の上記許可がなされた現時点においては, 保全の必要性はこれを肯定できる。」と。


by asyagi-df-2014 | 2015-04-19 06:30 | 書くことから-原発 | Comments(0)

壊される前に考えること。そして、新しい地平へ。「交流地帯」からの再出発。


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