労働問題-日本労働弁護団の総会決議から

2014年11月8日、日本労働弁護団第58回総会が奈良で開催され、以下の6本の決議を採択した。

①技能実習制度拡充等に反対する決議
②外国時家事労働者受け入れ問題に関する決議
③長時間労働を促進する新しい労働時間制度の導入に強く反対する決議 
④女性の活躍推進方に関する決議
⑤労働者派遣法の大改悪に反対する決議
⑥「解雇の金銭解決制度」の導入を許さない決議

 ここで、安倍晋三政権の「成長戦略」に対抗する理論を獲得するために、この決議の③⑤⑥について簡単に要約する。

最初に、③長時間労働を促進する新しい労働時間制度の導入に強く反対する決議は次のようにまとめられる。

 「日本再興戦略」改訂2014では、「『時間ではなく成果で評価される制度』への改革が提言されている」が、この政府の提言は、「新制度導入の前提となる現行制度の理解について国民を欺いて新制度導入を図ろうとするものであって、極めて欺瞞的」である。
 その理由は、現行法は「長時間労働を抑止し、労働者の命と健康を守り、ワーク・ライフ・バランスの確保を図ることにある」が、しかし、新制度では「成果を出すために労働者がどれだけ長時間労働をしても、使用者は割増賃金の支払いを免れることになりかねない。これにより、長時間労働を抑制する法律上の歯止めがかからず、過労死・過労自殺がさらに増加することは不可避」である。
 また、6月20日に成立した過労死等防止対策推進法と、真っ向から矛盾するものでもある。
 さらに、新制度の導入により、「法定労働時間規制の法的根拠がなくなり、労働基準監督官が長時間労働を取締れなくなる。取締りを免れるようになれば、長時間労働が助長されるのは必然」と、なる。
 このことに加えて、「高年収の労働者においても、長時間過重労働による健康被害が現実に生じている。高い年収の代償として、労働者の命と健康が犠牲になることは許されないのであって、年収要件を課すことに何ら現実的な意味は無い」と、いえる。
 しかも、ひとたび新制度が制定されれば、「その後なし崩し的に年収要件が引き下げられ、適用対象労働者が拡大」されていくとともに、「現在は管理監督者であっても免れない深夜労働の割増賃金支払い義務まで免除」されることになる。
 しかし、深夜労働は健康への悪影響から別途支払い義務が課されているのであり、深夜労働の割増賃金支払い義務を除外することは許されない。
 結局、この制度の導入は、「労働者の命と健康を重大な危険にさらすもの」でしかない。

 次に、⑤労働者派遣法の大改悪に反対する決議は次のようにまとめられる。

 この法案は、現行制度を廃止し、「業務に関わらず、無期雇用派遣や60歳以上の派遣労働者等については、派遣先の派遣受入期間の制限を無くす。また、有期雇用派遣についても、『同一の組織単位』における同一の派遣労働者の派遣受入期間の上限を3年としながらも、派遣先が3年ごとに過半数労働組合等の意見聴取さえ行えば同一の事業所において引続き派遣労働を利用できるとされ、派遣先は、派遣労働者を入れ替えることにより永続的に派遣労働を利用できる制度」である。
 この法案が実現されれば、「派遣労働の完全自由化を認めるに等しく、派遣労働の恒常的利用が拡大し、常用代替防止という法の趣旨は完全に有名無実化することが明らか」なだけでなく、他方で、「派遣労働者の処遇改善について均等待遇原則の導入は見送られ、僅かに派遣元の説明義務や派遣先の情報提供の配慮義務等を課す」だけになる。
 結局、「正社員から派遣労働への置換えが進み、既に日本の雇用社会において約4割を占める非正規労働者をますます増大させながら、正社員と派遣労働者の賃金等労働条件の格差は放置されたままとなる。そして、低賃金で生活に困窮し不安定雇用に怯える労働者は声を上げることもできず、労働条件が更に劣化していく「雇用のデフレスパイラル」を招く」ことになる。さらに、「雇用が不安定で低賃金の女性の派遣労働者が増えることになり、安倍政権が掲げる『女性の活用』とも真っ向から矛盾するもの」となる。

 最後に、「解雇の金銭解決制度」の導入を許さない決議は次のようにまとめられる。

 安倍晋三政権の基で、「『雇用維持型から労働移動支援型へ』のスローガンの元、産業競争力会議や規制改革会議等で、解雇の金銭解決制度を導入しようとしている。『予見可能性の高い紛争解決システムの構築』として、金銭解決制度につき諸外国の例を研究し、2015年度中に検討を進めるものとされ、裁判所において解雇の有効性が争われた労働審判・訴訟の和解・調停の内容を調査しようとしている。再来年の通常国会に解雇の金銭解決制度を導入する法律案が提出される可能性」がある。
 このことの背景には、「解雇制限の緩和要求」がある。
 しかし、解雇の金銭解決制度は、「たとえ判決により解雇が無効とされても金さえ払えば当該労働者を企業から放逐する手段を企業に与えるものであり,解雇規制そのものを根底から覆すものである。さらに、これにより企業にとって好ましくない労働者を恣意的に排除する手段として利用される危険性が高い」ものである。
 また、「解雇に至るまでには、さまざまな理由や事情があるのであり、その解決の結果も個別の事情に基づくものであって、一般化することはできない。また、労働者は単に金銭を得るためだけでなく、生き甲斐など自己実現のために働いている。一定額の金銭を支払うことによって一方的に労働関係を終了させることができるとすることは、労働者のすべての権利を支える雇用保障を奪うのみならず、労働者の自己決定権を侵害し、個人の尊厳にも反する」ものである。

 以下、日本労働弁護団の各決議の引用。






③  長時間労働を促進する新しい労働時間制度の導入に強く反対する決議


 「日本再興戦略」改訂2014では、「時間ではなく成果で評価される制度」への改革が提言されている。具体的には、職務の範囲が明確で高度な職業能力を有し一定の年収要件を満たす労働者を対象に、労働時間の長さと賃金のリンクを切り離した新たな労働時間制度が提案されている。そして、このような提案を踏まえ、労働政策審議会で新たな労働時間制度に関する議論が進められている。
 しかしながら、現行制度でも、「時間ではなく成果で評価される制度」は導入できるし、多くの職場で既に導入されており、そもそも政府が説明する新制度導入の必要性など存在しないのである。また、現行制度は、労働時間の長さと賃金がリンクした制度でもない(リンクするのは、法外残業分のみである)。政府の提言は、新制度導入の前提となる現行制度の理解について国民を欺いて新制度導入を図ろうとするものであって、極めて欺瞞的である。
 そもそも、現行法上、使用者は労働者に対し原則として法定労働時間を超えて労働させてはならず、例外的に法定労働時間を超える労働をさせるには36協定の締結を要求するだけでなく、使用者には残業時間に応じた割増賃金支払い義務を課している。この趣旨は、まずもって、長時間労働を抑止し、労働者の命と健康を守り、ワーク・ライフ・バランスの確保を図ることにある。しかしながら、新制度では、成果を出すために労働者がどれだけ長時間労働をしても、使用者は割増賃金の支払いを免れることになりかねない。これにより、長時間労働を抑制する法律上の歯止めがかからず、過労死・過労自殺がさらに増加することは不可避である。
 本年6月20日、この過労死・過労自殺防止のため、過労死等防止対策推進法が制定され、国の責務として過労死等の防止対策を推進することが定められた。にもかかわらず、この新制度は、過労死・過労自殺の最大の要因である長時間労働を助長するもので、過労死等防止対策推進法が定める国の責務と、真っ向から矛盾するものである。本来必要なのは、例えば、労働時間の上限規制、勤務間インターバルの導入、使用者による労働時間把握義務の法定化や割増賃金率のアップなど、長時間労働と健康被害の防止策である。
 また、新制度の導入により、法定労働時間規制の法的根拠がなくなり、労働基準監督官が長時間労働を取締れなくなる。取締りを免れるようになれば、長時間労働が助長されるのは必然であろう。
 しかも、高年収の労働者においても、長時間過重労働による健康被害が現実に生じている。高い年収の代償として、労働者の命と健康が犠牲になることは許されないのであって、年収要件を課すことに何ら現実的な意味は無い。しかも、ひとたび新制度が制定されれば、その後なし崩し的に年収要件が引き下げられ、適用対象労働者が拡大していくであろう。現に、日本経団連は、2005年6月21日の「ホワイトカラー・エグゼンプションに関する提言」で、対象労働者の年収を400万円と想定している。
 さらに、新制度では、現在は管理監督者であっても免れない深夜労働の割増賃金支払い義務まで免除される。しかし、深夜労働は健康への悪影響から別途支払い義務が課されているのであり、深夜労働の割増賃金支払い義務を除外することは許されない。
 日本労働弁護団は、このように労働者の命と健康を重大な危険にさらす新しい労働時間制度に断固として反対し、あらゆる労働組合はもちろんのこと、全国の労働者とその家族、さらには諸団体とも共闘して、この新制度の導入を阻止するために行動していくことを決意する。
                    2014年11月8日
日本労働弁護団 第58回 総会決議


⑤     労働者派遣法の大改悪に反対する決議

 本年9月29日、安倍内閣は労働者派遣法の「改正」案を閣議決定し、臨時国会に提出した。この法案は、いわゆる専門26業務に該当するかどうかの区分によって派遣先の派遣受入可能期間の制限に差異を設ける現行制度を廃止する。そして、業務に関わらず、無期雇用派遣や60歳以上の派遣労働者等については、派遣先の派遣受入期間の制限を無くす。また、有期雇用派遣についても、「同一の組織単位」における同一の派遣労働者の派遣受入期間の上限を3年としながらも、派遣先が3年ごとに過半数労働組合等の意見聴取さえ行えば同一の事業所において引続き派遣労働を利用できるとされ、派遣先は、派遣労働者を入れ替えることにより永続的に派遣労働を利用できる制度となっている。これは、派遣労働の完全自由化を認めるに等しく、派遣労働の恒常的利用が拡大し、常用代替防止という法の趣旨は完全に有名無実化することが明らかな間接雇用促進法である。
 他方で、この法案は、派遣労働者の処遇改善について均等待遇原則の導入は見送られ、僅かに派遣元の説明義務や派遣先の情報提供の配慮義務等を課すだけである。もともと現行法の均衡待遇の配慮義務は何らの私法的効力が無く実効性がないが、これら僅かばかりの説明義務や配慮義務を新設したとしても、派遣労働者の処遇改善のための実効性が何らないことは明らかである。更に、この法案が定める派遣受入期間に達した派遣労働者に対する雇用安定措置も実効性がないものばかりである。
 この法案が成立すれば、正社員から派遣労働への置換えが進み、既に日本の雇用社会において約4割を占める非正規労働者をますます増大させながら、正社員と派遣労働者の賃金等労働条件の格差は放置されたままとなる。そして、低賃金で生活に困窮し不安定雇用に怯える労働者は声を上げることもできず、労働条件が更に劣化していく「雇用のデフレスパイラル」を招くものとなる。
更に、雇用が不安定で低賃金の女性の派遣労働者が増えることになり、安倍政権が掲げる「女性の活用」とも真っ向から矛盾するものである。
 日本労働弁護団は、日本の雇用を根底から破壊する派遣法大改悪に断固反対し、日本の労働者や労働組合と広く連帯して、最後までこの法案の廃案を求めて闘う決意である。

2014年11月8日
                        日本労働弁護団 第58回全国総会


⑥   「解雇の金銭解決制度」の導入を許さない決議

安倍政権は、「雇用維持型から労働移動支援型へ」のスローガンの元、産業競争力会議や規制改革会議等で、解雇の金銭解決制度を導入しようとしている。
2014年6月24日付「『日本再興戦略』改訂2014-未来への挑戦-」においても、「予見可能性の高い紛争解決システムの構築」として、金銭解決制度につき諸外国の例を研究し、2015年度中に検討を進めるものとされ、裁判所において解雇の有効性が争われた労働審判・訴訟の和解・調停の内容を調査しようとしている。再来年の通常国会に解雇の金銭解決制度を導入する法律案が提出される可能性がある。
解雇の金銭解決制度の議論の背景には解雇制限の緩和要求がある。経済界や規制改革論者は、日本における解雇規制は世界でもトップレベルに厳しく、その予測可能性も乏しいので、企業の合理的経営を阻害していると主張する。
しかし、議論の前提となる認識には誤りがあると言わざるを得ない。OECDの雇用保護指標(2013年発表)では、日本の一般労働者の雇用保護は34カ国中低い方から10番目であり、国際的な比較では、むしろ日本の解雇規制は弱いといえる。そして、現実的には明らかに不当と解される解雇が強行される例は多く、訴訟において無効と判断されるような事案は氷山の一角に過ぎない。また、様々な裁判例が蓄積されることにより予測可能性は十分担保されているといえるし、そもそも強行法規である解雇権濫用法理を予測可能性が困難であることを理由に緩和することは到底許されるものではない。
 解雇の金銭解決制度は、たとえ判決により解雇が無効とされても金さえ払えば当該労働者を企業から放逐する手段を企業に与えるものであり,解雇規制そのものを根底から覆すものである。さらに、これにより企業にとって好ましくない労働者を恣意的に排除する手段として利用される危険性が高いものである。解雇に至るまでには、さまざまな理由や事情があるのであり、その解決の結果も個別の事情に基づくものであって、一般化することはできない。また、労働者は単に金銭を得るためだけでなく、生き甲斐など自己実現のために働いている。一定額の金銭を支払うことによって一方的に労働関係を終了させることができるとすることは、労働者のすべての権利を支える雇用保障を奪うのみならず、労働者の自己決定権を侵害し、個人の尊厳にも反するものであって到底許されない。
 日本労働弁護団は、解雇規制を根底から覆す解雇の金銭解決制度の導入を許さず、労働者の権利と生活を守るための闘いを継続していくことをここに決意するものである。

                        2014年11月8日
                       日本労働弁護団 第58回全国総会


by asyagi-df-2014 | 2014-11-16 12:20 | 書くことから-労働 | Comments(0)

壊される前に考えること。そして、新しい地平へ。「交流地帯」からの再出発。


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