自由権-「国連自由権規約委員会は日本政府に何を求めたか」- 海渡 雄一(弁護士・日弁連自由権規約WG座長)

 国連人権規約委員会の日本への報告については、マスコミの記事は掲載したのだが、その内容については、よくわからなかった。
 日弁連自由権規約WC座長の海渡雄一弁護士の「国連自由権規約委員会は日本政府に何を求めたか=死刑・代用監獄・慰安婦・ヘイトスピーチ・技能実習生・福島原発事故=」という論文をダウンロードできので、これを抜粋する。
 
 最初に、「自由権規約委員会の総括所見が7月24日に公開され、かなりのメディアが断片的ではあるが、総括所見の内容や自由権規約委員会の審査について報じている。しかし、報道は細切れであり、この総括所見がどのような仕組みの元で、どのような審査を経て出されたものか、それが、日本政府と我々日本に住む外国人を含めた市民にとってどのような意味があるのか、正確に理解することは難しい。」とあるが、まさにそうであった





 自由権規約委員会の位置づけについては、「国連人権条約にもとづいて自由権規約委員会、社会権規約委員会、拷問禁止委員

会、女性差別撤廃委員会、子どもの権利委員会、人種差別撤廃委員会などの条約機関が条約ごとに作られている。これらの委員会

は、国連の建物の中で開催されているが、厳密に言えば、国連の機関そのものではない。」と、説明し、「またその英語名称がHuman

Rights Committee(人権委員会)ということもあり、最も権威の高い条約機関である。委員は18名で、各国の最高裁の判事や国際法

の研究者など高名な法律家が選ばれることが多い。日本からは岩澤雄司東京大学教授が委員に選出されている。」と

 勧告内容については、これまでの課題と新たな課題があるとして、「秘密保護法(23)やヘイトスピーチ(12)、福島事故の問題(24)以外にもムスリムの人々に対する警察による包括的な情報収集について、人種的プロファイルは許されず、権力濫用についての効果的な救済を求める新しい勧告がなされている(20)。」とともに、「勧告5項において、1998年の第4回審査,2008年の第5回審査時の総括所見の多くが実施されていないことに懸念を表明し、過去の総括所見の実施を包括的に求めている。」という構成になっている。

 進まぬ国際人権保障システムの更新と克服の方向性―個人通報と国内人権機関については、「委員会が一貫して取り上げてきた、第1選択議定書の批准、条約の国内法的効力、国内人権機関の設立など国際人権保障システムについても、かなり詳細な質問がなされ、具体的な勧告がなされた。」としている。
 また、「委員会は前回の勧告(CCPR / C / JPN / CO / 5、 para7)を再度引用し、締約国に条約の適用と解釈が、下級審も含めて、すべて弁護士、裁判官と検察官の職業訓練の一環となるよう、保証することを求める。 締約国は条約上の権利侵害の回復のために効果的な手段を保証するべきである。 締約国は個人通報制度を提供する選択議定書への加入を考慮すべきである。」と勧告した。
 合わせて、作成者は、「自民党が2012年の衆院選挙時に、党として民主党政権の下で閣議決定された人権委員会設置法案に反対するという方針を決めているから」と、その困難さも指摘している。

○表現自由と知る権利の危機に警鐘

「人権保障には厳しい制約を」と題して、「委員会は勧告22項において、公共の福祉を理由とする基本的人権の制限に言及し、「「公共の福祉」の概念はあいまいであり、無制限であるということ、そして、規約(2条、18条及び19条)の下で許容されるものを大きく超える制約を許容するかもしれないということへの懸念を改めて表明」し、「以前の最終所見(CCPR/C/JPN/CO/5, para.10)を想起し、第18、19条の第3段落における厳しい条件を満たさない限り、思想、良心、宗教の自由や表現の自由の権利に対するいかなる制約をも押し付けることを差し控えるように締約国に要求する。」とした。」

 「秘密保護法は情報へのアクセスの権利を定めた規約19条を満たしていない」と指摘している。

 「委員会は、勧告23項において、規約19条にもとづいて、「近年国会で採決された特定秘密保護法が、秘密指定の対象となる情報について曖昧かつ広汎に規定されている点、指定について抽象的要件しか規定されていない点、およびジャーナリストや人権活動家の活動に対し萎縮効果をもたらしかねない重い刑罰が規定されている点について懸念する」として、「日本政府は、特定秘密保護法とその運用が、自由権規約19条に定められる厳格な基準と合致することを確保するため、必要なあらゆる措置を取るべきである。」とし、「(a)特定秘密に指定されうる情報のカテゴリーが狭く定義されていること、また、情報を収集し、受取り、発信する権利に対する制約が、適法かつ必要最小限度であって、国家安全保障に対する明確かつ特定された脅威を予防するための必要性を備えたものであること。」

 「何人も、国家安全保障を害することのない真の公益に関する情報を拡散させたことによって罰せられないこと。」が具体的に勧告された。秘密指定には厳格な定義が必要であること、制約が必要最小限度のものでなければならないこと、ジャーナリストや人権活動家の公益のための活動が処罰からの除外されるべきことが求められた。」
勧告が公表されたのと同じ7月24日から秘密保護法の政令案と運用基準についてのパブコメが始まっているが、下位法令や運用基準レベルでの小手先の対応ではなく、法そのものの廃止を含めて抜本的な見直しがなされなければ国際社会の日本政府に対する言論弾圧の疑念は払拭できないであろう。

 ○慰安婦問題 
 慰安婦問題をめぐっては、今回の委員会では、慰安婦問題は、これまでの審査以上に大きく取り上げられた。

 「ロドリー議長は本稿末尾にも紹介したように、総括発言の中で代用監獄とともに慰安婦問題を「変わらない日本」を象徴する問題として取り上げた。そして、このような行為(慰安婦を性奴隷ではないとする発言に拍手する)ことは、許されない行為であると言明した。」

 「このような緊迫したやりとりを背景に委員会は、勧告14項で、規約2条、7条、8条にもとづいて「委員会は、戦時中の「慰安婦」は日本軍によって「強制的に連行」されたのではないとしつつ、慰安所の女性たちの「募集、移送、管理」は、多くの場合、軍や軍のために動いた組織によって、強圧や脅迫など一般的に意思に反して行われたとの、締約国の矛盾する立場に懸念を表明する。委員会は、被害者の意思に反して行われたどのような行動も、締約国の直接的な法的責任を伴う人権侵害だと捉えるに十分であると考える。」としている。」

 「「戦時中、「慰安婦」に対して日本軍が行った性奴隷あるいはその他の人権侵害に対するすべての申し立ては、効果的かつ独立、公平に捜査され、加害者は訴追され、有罪であるとわかれば処罰すること。」「司法へのアクセスおよび被害者とその家族への完全な被害回復措置」「利用可能なすべての証拠の公開」「教科書への十分な記述を含む、学生と一般の人々へのこの問題に関する教育」「公式な謝罪を表明することおよび締約国の責任の公的認知」「被害者を侮辱あるいは事件を否定するすべての企みへの非難のためあらゆる措置をとるべきことが勧告された。」

○外国人の人権と人種差別
 外国人の人権と人種差別をめぐる課題については、「ヘイトスピーチの処罰を法制化せよ」と勧告された。

「政府の答弁は特定の人や集団への名誉毀損や脅迫にあたる場合に民事責任と刑事責任を問いうる、一般的なヘイトスピーチに関しては、啓発活動に取り組んでいるという答弁に終始した。このやりとりを通じて、日本に包括的な差別禁止法制がなく、ヘイトスピーチを禁止できていないことの問題点が明確になった。」

 「日本の状況は、放置すれば、人種差別的暴力への歯止めが利かなくなる一歩手前まで来ている。委員会は、勧告12項において、規約2条、19条、20条、27条にもとづいて「朝鮮・韓国人、中国人および部落民などのマイノリティグループの構成員への憎悪および差別を扇動している広範囲に及ぶ人種主義的言説と、これら行為に対する刑法および民法上の保護の不十分さに懸念を表明する。委員会はまた、頻繁に行われている許可を受けた極端論者のデモ、外国人の生徒・学生を含むマイノリティに対する嫌がらせと暴力、並びに民間の施設や建物での“ジャパニーズ・オンリー(日本人以外お断り)”などの看板・貼り紙の公けの表示について懸念を表明」し、「締約国は、差別、敵意あるいは暴力の扇動となる人種的優越あるいは憎悪を唱える宣伝のすべてを禁止し、そのような宣伝を広めるためのデモを禁止するべきである。締約国はまた、人種主義に対する意識高揚活動のために十分な資源を割り当て、裁判官、検事および警察官が、ヘイトクライムや人種主義的動機による犯罪を見つける力をつける訓練を確実に受けるよう取り組みを強化するべきである。締約国はまた、人種主義者の攻撃を防止し、加害者とされる者が徹底的に捜査され、起訴され、有罪判決を受けた場合は適切な制裁をもって処罰されることを保証するためにすべての必要な措置をとるべきである。」と勧告した。」

「これは、明確にヘイトスピーチそのものの刑事的規制を求めた勧告である。表現の自由を保障しつつ、ヘイトスピーチに効果的な規制を行うことは難しい作業である。実は、日弁連もヘイトスピーチに対して、これを強く非難する意見を表明しているが、刑事法的規制が必要であるという意見をまとめるに至っていない。しかし、日本の現状は戦争とジェノサイドの危険が切迫しているものと認識しなければならない。政府も、われわれNGOも、この難問に取り組むべき時機が来ているのではないだろうか。」

○福島原発事故被害者
 スイスのケリン委員が、福島原発後の状況に懸念があるとして、特別報告者(アナンダ・グローバー氏)のレポートを取り上げ、国際基準(年間1ミリシーベルト)の20倍の線量地域に帰還政策がとられていること、帰還した者に月次の補償がなされるのか、避難している人々にどの程度の情報が提供されているのかなどの質問がなされた。委員会は、勧告24項では、規約6条、12条、19条にもとづいて、「福島に許容する公衆の被ばく限度が高いこと、数か所の避難区域が解除され、人々が放射能で高度に汚染された地域に帰還するしか選択肢がない状況に置かれていること」に懸念が表明された。そして、「福島原発事故の影響を受けた人々の生命を保護するために必要なすべての措置を講ずるべきであり、放射線のレベルが住民にリスクをもたらさないといえる場合でない限り、避難区域の指定を解除すべきでない。」「放射線量のレベルをモニタリングし、こうした情報を時機にかなった方法で、原発事故の影響を受けている人々に提供すべきである。」と勧告した。

「委員会は、福島原発事故の被害者が置かれた状況が生命の権利を保障した規約6条、規約12条、市民の知る権利を保障した規約19条が十分保障されていない事態であると見なしているのである。2012年に子ども被災者支援法が制定され、低レベル放射線被曝の健康影響が明らかでないという認識に立って、滞在と避難、帰還の選択肢を等しく支援することが法定されたにもかかわらず、政府は明らかに帰還優先の政策を強行してきた。このような政府の方針が生命・健康に対する権利と知る権利の侵害として断罪されたのである。政府は直ちに帰還促進政策を見直さなければならない。」

○かみしめるべきロドリー議長の最終発言

 ナイジェルロドリー議長は会議の結びの言葉の中で、触れるべき二つの問題があるとして、日本政府が何度も同じプロセスを繰り返しているという点を指摘した。

「代用監獄制度に関して、政府はリソースの不足を制度を改めない理由として述べたが、議長は、「人権の尊重がリソース次第という状況は日本のような先進国ではあってはならないことであると指摘した。こういう制度が維持されている理由は、起訴側が自白を求めたいと考えているためであるとしか考えられない。このような状況は明らかに規約に矛盾している。日本政府は、委員会がこれまでよりも強い形で勧告を出しても驚かれることはないでしょう。日本政府は明らかに国際コミュニティに抵抗しているようにみえます。」と述べた。」
「繰り返されているもう一つの重要問題として慰安婦の問題が指摘された。議長は、「意見の対立があるようであるが私には理解ができない。私の頭が悪いのだろうか。「強制連行されたのではない。」といいつつ、「意図に反した」という認識が示されている。これは、理解しにくい。性奴隷である疑念があるなら、日本政府はなぜこの問題を国際的な審査によって明確化しないのか。」と厳しく指摘した。」

「政府との建設的な対話を深め、困難な状況でも前進を目指そう今回の勧告は、これまでの5回の審査に基づく勧告と比べて、極めて厳しいトーンと内容のものとなった。その原因は明確である。世界中の国々が、人権の完全実施のために前向きの努力を続けている中で、日本では、人権とさらには民主主義そのものを危機に陥れるようなできごとが続いている。いわば、改善の方向が見えないだけでなく、むしろ後退している印象を与えたのだと推察する。とはいえ、私たち日本のNGOは政府と協力して、この勧告を一つずつ実現していく責務がある。私が歩みを止めず、大きな流れの中で捉えれば、これらの勧告はいずれ実現できる。しかし、民主主義的な法制度を傷つけたり、日本政府が戦争に突き進むようなことになれば、その回復には長い時間がかかるかもしれない。」

「そのような破局的な事態を避けるためにも、この勧告の中の秘密保護法を含む表現の自由とヘイトスピーチを含む人種差別禁止などの勧告を重く受け止め、この勧告を速やかに実現する必要があるだろう。」

「総括所見を日本国内にひろげ、政府と真剣に対話し、日本を包む人権と民主主義の危機を克服していくための梃子として活用したいと思う。」

 勧告における下記の内容は、違う設定で紹介したい。
「代用監獄と死刑制度」
「ジェンダーと性暴力、性的マイノリティ」
「人身取引と技能実習制度について」は違う場所で。
「ムスリムに対する監視について」
「精神病院における非自発的入院について」
「子どもに対する体罰
「先住民」

 次の政府報告書提出期限は2018 年7 月31 日。


by asyagi-df-2014 | 2014-07-29 20:30 | 人権・自由権 | Comments(0)

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